ベルシュタイン城は、地獄のトレーニングセンターになりました
ある朝、私はダイニングで優雅に(震える手で)紅茶を飲んでいたお父様を、半眼で見つめていた。
「お父様。……その、ベルトの上に乗った肉。……ふにゃ。……それは、ベルシュタイン家の誇りではなく、単なる『中性脂肪の蓄積(カタボリックの敗北)』ですわ」
「な、なんだいリリアーナ、藪から棒に! これはパパの、貫禄というものだよ?」
「……いいえ。その腹筋を六つに割り、腹斜筋のキレを取り戻すこと。それが、私を救ってくれたお父様への、娘としての『義務』です」
こうして、ベルシュタイン伯爵家を舞台にした「強制ダイエット・サバイバル」が幕を開けた。
私はその夜、虚弱な体に鞭打ち、城中に「筋肉トラップ(魔道具)」を仕掛けたのだ。
翌朝、お父様が寝室のドアを開けようとした瞬間。
『警告。入室には、ドアノブ・懸垂を10回行う必要があります』
「な、なんだこの声は!? ドアが開かないぞ!?」
「お父様、おはようございます。……ふにゃ。……そのドアは、広背筋の収縮を検知しない限り、物理的にロックされる仕組み(魔道具)です」
「リリアーナ!? パパはトイレに行きたいんだよ!」
「……ならば、広背筋を泣かせてください。No Pain, No Gain. ですわ」
お父様が涙目で懸垂を終え、ようやく廊下に出ると、そこにはさらなる地獄が待っていた。
廊下の床が、一定の間隔で「沈む」ようになっているのだ。
「……お父様。そこは『ランジ・ゾーン』です。……膝を深く沈めなければ、前方への斥力が発生し、玄関まで辿り着けません。……ふにゃぁ。私はお父様の中に、鋼の体幹を見たいのです……」
「パパの足が! 生まれたての小鹿のように笑っているよ、リリアーナ!」
さらにお昼時。食堂へたどり着いたお父様の前に出されたのは、最高級のステーキ……ではなく。
「……はい、お父様。……特製『魔法の鶏ささみ・シェイク(ブロッコリー風味)』です」
「液体!? 私のランチが緑色の液体に……!?」
「……咀嚼のエネルギーすら惜しんで、タンパク質を吸収するのです。……大丈夫ですわ、お姉様(母様)も『あら、あなた最近、お腹が引っ込んで素敵よ』と仰っていましたから」
「そ、そうか……? 君のお母様がそう言うなら……ぐびり。……う、意外と美味い(バニラ味)!?」
一週間後。
城の廊下を、**「シュッシュッ!」**と鋭い呼吸音を立てて爆走する男の姿があった。
お父様である。
「見てくれリリアーナ! 階段を四足歩行で登るのが、これほど快感だとは! パパの腹筋が、今朝ついに四つに割れたぞ!」
「……ふにゃにゃにゃにゃ。……お父様。……やりすぎですわ。……お顔のシワまで消えて、もはや兄様と双子に見えます」
やりすぎた。
お父様は、私の仕掛けたトラップを攻略するうちに、「筋肉の悦び」に目覚めてしまったのだ。
今や執事のセバスチャンと競い合って、城のシャンデリアで懸垂をしている。
「さあリリアーナ、次は私と一緒に、この重さ100キロの魔石を担いでスクワットを……」
「……お断りします。……私は、その様子を眺めて『精神的なパンプアップ』をするだけで十分です。……ふにゃあ、脱臼しそうなので、近寄らないでください……」
お父様が「理想の美魔男マッチョ」へと進化したことで、ベルシュタイン家は王都で「最も肉体派な伯爵家」として恐れられる(?)ようになった。
しかし、肝心のリリアーナは、お父様のあまりの暑苦しさに、以前よりもさらに遠くから彼を眺めるようになるのであった。
「(……次は……お父様のそのパワーを、発電(魔力供給)に利用するシステムを作ろうかしら……)」
彼女の「人間を効率化する執念」は、とどまることを知らなかった。




