愛の告白(バルク不足)は、政争を粉砕しました
三割増しの可愛さを手に入れたサーシャの恋は、実に「モニョモニョ」していた。
意中の騎士に勇気を出して話しかけたものの、相手がサーシャの眩しさに鼻血を出して倒れてしまい、進展したのか、それとも物理的にノックアウトしただけなのか、誰にも分からない状況だった。
「(……ま、いいか。恋も筋肉も、焦りは禁物だ)」
そんな呑気なことを考えていた私のもとに、とんでもない話が舞い込んだ。
「リリアーナを、公爵家の専属魔道具士として差し出せだと!?」
お父様が、かつてないほどの剣幕で叫んだ。
サーシャの変貌を見た他国の高位貴族たちが、私の「美容アイテム作成能力」を国家戦略級の技術と見なし、無理やり自分たちの陣営に引き込もうと圧力をかけてきたのだ。
「……ふにゃぁ。……嫌です。私は、そんな事務的な研究はしたくありません。私のフラスコは、筋肉を煮込むためにあるのです」
一族全員が「断固反対」の構えを見せるが、相手は強大な権力を持つ高位貴族。伯爵家である我が家が潰されかねない瀬戸際……。
絶望が場を支配した、その時だ。
「――その話、僕が預かろう」
豪華な装飾の扉を蹴破り、第一王子アレンが颯爽と現れた。
「アレン王子! なぜここに……」
「リリアーナを欲しがる不届き者がいると聞いてね。……聞くがいい、諸君! リリアーナ・フォン・ベルシュタインは、この僕……アレン・ド・アルカディアの**『生涯の伴侶』**となる女性だ。彼女に手を出すことは、王家、ひいてはこの僕への宣戦布告と見なす!」
王子の威風堂々たる宣言。
これには、強気だった高位貴族たちも真っ青になり、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
王子一人の権力が、政争を力技でねじ伏せたのだ。
静まり返った室内で、アレン王子は私の方へ向き直り、最高に甘いマスクで跪いた。
「……待たせたね、リリアーナ。君を守るためとはいえ、公の場で言ってしまったが……。僕は本気だ。君のその知性、美貌、そして……少し変わった魂のすべてを愛している。僕の隣に来てくれないか?」
完璧なシチュエーション。この国の全女性が失神するような、伝説級のプロポーズだ。
だが、私の目は……彼の首筋から腕にかけてのラインを、冷徹にスキャンしていた。
「……ふにゃにゃにゃにゃ。……お断りします」
「……えっ?」
王子の時が止まる。
「……アレン様。あなたは確かに美しい。ですが、その上腕三頭筋のボリューム……あまりにも『薄い』です。血管の走り方も、私を昂らせるには程遠い。……その筋肉では、私の気持ちは、ふにゃにゃにゃにゃ……なのです」
「き、筋肉のせいで……振られた……? 僕が……?」
国宝級イケメンのアレン王子が、人生で初めての挫折に膝をつく。
周囲の大人たちは「えぇ……そこで筋肉……?」と絶句しているが、私にとっては死活問題だ。
「(……俺、じゃなくて私を落としたいなら、最低でもベンチプレス150キロは挙げてから出直してこい、このもやし王子)」
アレン王子の愛の叫び(と政治的救済)は、リリアーナの歪んだ審美眼の前に、脆くも砕け散ったのであった。
だが、王子は諦めなかった。
「……そうか。筋肉が足りないなら……つければいいだけの話だ。見ていろリリアーナ! 次に会う時は、君の心をパンプアップさせてみせる!」
「(……あ、こいつも変な方向にスイッチが入っちゃったよ……)」
こうして、国一番の王子が「狂気の筋トレ」を開始するという、新たな混沌が幕を開けるのだった。




