潜在能力(ポテンシャル)の解放は、主従を笑顔にする……はずでした
「……ふにゃぁ。サーシャ、掃除の動きが鈍いわ。広背筋に迷いがあるようだけど?」
ほんの少しのサーシャの動きの違いに、俺は違和感を感じた。
「……あ、お嬢様。申し訳ございません」
神話級の美少女に進化し、もはや立っているだけで後光が差している私だが、専属メイド・サーシャの異変には気づいていた。
彼女は最近、密かに想いを寄せている騎士(細マッチョ)の前で、ひどく自信なさげに振る舞っているのだ。
「(……そうか。今の私が『究極の美』を放ちすぎているせいで、彼女は自分を卑下しているんだな。……許せん。筋肉と同じく、美もまた個々のポテンシャルを尊重すべきものだ!)」
私は、瞬き一つで体力を奪われる虚弱な体に鞭打ち、ラボへ向かった。
「見ていろ、サーシャ。君の内に眠る『美の原石』を強制的に研磨してやる……!」
【聖域ノート:潜在能力解放薬『ポテンシャル・ブースター』】
被験者の遺伝子に刻まれた「将来的な美の最大値」を、一時的に現在へ引き出す。
Beauty_Current = Beauty_Potential * Magic_Rate
これを使えば、サーシャは意中の彼をデッドリフトで吊り上げるほど……じゃなくて、美貌で圧倒できるはずだ!
「……さあ、サーシャ。これを飲みなさい。これは、君の『真の価値』を呼び覚ます聖水よ」
「お、お嬢様……。私のために、そんな……(ゴクッ)」
サーシャが薬を飲み干すと、淡い光が彼女を包んだ。
光が収まると、そこには――少しだけ目がぱっちりし、肌にハリが出た、**「三割増しで可愛くなったサーシャ」**がいた。
「あら……。なんだか、少しだけ自分に自信が持てる気がしますわ、お嬢様!」
「……えっ。……それだけ?(もっと爆発的に、美魔女級に進化する予定だったんだけど)」
私は首を傾げた。天才化学者である私の計算が、そんな微々たる変化で終わるはずがない。
「(……おかしい。もしかして、配合を弱くしすぎたか?)」
私は確認のため、自分でもその薬を一口飲んでみた。
その瞬間、私の全身を強烈な衝撃が襲った。
「……ふにゃにゃにゃにゃっ!? 体が、体が熱い! 美しさが……美しさが逆流するぅぅ!!」
眩い閃光。
そして光が収まった後、鏡に映っていたのは……。
「……あ。戻ってる」
そこには、神話級の神々しさが消え、**「十四歳の可憐な、でも少し生意気そうな美少女」**に戻った私がいた。
不自然な後光も消え、以前のような「等身大の、でもめちゃくちゃ可愛い美少女のリリアーナ」だ。
「お嬢様! 以前の……以前のお嬢様に戻られましたわ! 神様みたいな神々しさも素敵でしたが、やはりこちらの、ヨシヨシしやすいお嬢様が一番ですわ!」
「……ふにゃ。どういうこと? 私の『美の最大値』は、あの神話級じゃなかったの?」
私はノートを慌てて見直した。
「(……あ! そうか! この薬は『その年齢相応の潜在能力』を最大化するもの。神話級になっていたのは、いわば魔法による『バグ』や『ドーピング』状態。この薬によって、私は『十四歳としての適正な最高美』に矯正されたんだ!)」
つまり、神話級の状態は「無理をしていた」のだ。
今の私は、十四歳として世界最高の美少女。そして、ここから年を重ねるごとに、さらに「美のバルク」を積み上げていく……。
「(……伸び代は無限大、というわけね。悪くないわ)」
しかも、神話級だった時よりは、わずかに体力も回復している気がする。
「……よし、サーシャ。その『三割増しの可愛さ』で、あの騎士をバックドロップしてきなさい!」
「お嬢様、言い方が物騒ですけど、頑張りますわ!」
少しだけ元気になった私と、自分を好きになれたサーシャ。
リリアーナの筋肉……もとい美容研究は、等身大の少女としての「一歩」を、再び歩み始めたのであった。




