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第一話 泥かぶり姫

挿絵(By みてみん)

 昔々、遥か昔。人間同士で時々争うだけだった時代。『黒い世界』と呼ばれる謎の存在が突如として出現し、超常の生物……魔物を世界中に放ちました。

 人類を凌ぐ力を持つ魔物達の侵攻により、人類は一度全ての国を失ってしまいました。散り散りとなった人々はせめて個としての生涯を全うするべく、魔物達から逃げ続けるか、あるいは小規模な集団を形成し、ささやかながら抵抗を続けていました。

 そんな滅びを待つだけだったこの世界に、異世界で生きた記憶と強大な魔力を生まれ持った転生者が現れました。彼らはこの世界の現状に涙し、魔物達と生涯を賭けて戦い続けて下さいました。いつか黒い世界の謎を解き明かし、魔物達を根絶できることを信じて。人々はそんな彼らを"勇者"と讃え、共に戦いました。

 しかし、何十年かけても戦いが終わることは一向になく、人間である転生者達はどんどん老いていき、力もどんどん衰えていってしまいました。

 転生者達は自分達の代での決着を諦め、平和な世界の実現を次代に託すべく、人間の身体を捨て、『柱』となりました。『柱』は魔物達の侵攻を妨げ人類の魔力を増幅する聖なる力を持ち、『柱』同士での情報共有により散り散りとなった人々に再び繁栄の芽をもたらしました。転生者の血を引く者達は『柱』を維持する役割を担うことで王族となり、そこに人々が集い、この世界に再び人類の国が築かれました。

 帰る場所だけでも手に入れた人間達と魔物達の争いは今なお続き、ここウォーリアもまた、魔物達からの脅威に晒され続けているのです。


 ・

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 そう語り終えたオレンジ色の髪の少女は一息つき、(かたわら)に立つ少年が用意したティーカップを傾ける。

 少女は17歳。毛先に癖のあるオレンジのミディアムボブに花飾りの付いたカチューシャを飾り、やや世界観に似つかわしくないハイカラな和装。背は低いものの、背筋を伸ばし、王族らしく凛とした佇まい。

 少年も17歳。肌は色白で、胸くらいまでの長さの銀髪を三つ編みにし、両耳にスティックピアスを飾る。給仕のような服装で、背は少女より二回りほど高いが、それでも一般的な成人男性ほどではない。

 少女と向かい合って話を聞いていた子供達は世界の姿を生まれて初めて知り、その芳しくない状況にも関わらず、目を輝かせる。

 現在、世界で唯一、人類が文明を築き繁栄が可能な陸地、ニンテ大陸。その最北端に位置する小国、ウォーリア。かつてはどこにでもある君主制国家だったが、今や王族とそれに従う者達は、とある勢力によって辺境の地に追いやられてしまっている。『王族領』と称されるこの地も名ばかりで、ほとんど集落のようなもの。ここ王族邸もまた、領内の邸宅の中で一番大きく、完成間近の頃は立派だったであろうと推測できるものの、今や屋根や壁に粗雑な修繕の跡が目立つただの古い建物。


「何か質問はございますか?」

「はい!姫様、『黒い世界』って何ですか?」

「魔物達が本来の棲家(すみか)としている……と言われている謎の存在です。黒い世界は現代においても何もないところから突如として現れ、そこからこの世界に魔物を放ってまもなく消えてしまいます。それゆえに人間同士の争いのように、兵に国境を見張らせるとか、そういった手段では侵攻を防ぐことができません」

「だから『柱』が必要なんですね!」

「はい。完全には防げませんが、それでも『柱』の近くであればあるほど、そして強大な魔物ほど『柱』の力は強く働きます。『柱』から遠いこの辺境の地でも、いきなりドラゴンが領内に現れて一夜の内に滅びる……というようなことはまずあり得ません。逆に言えば弱い魔物ほど抵抗が小さいため、都度対処が必要になりますが。それに、強大な魔物であっても、『入りづらい』というだけで国内への侵入は可能です。『柱』は国という仕組みの上で必須ではあるものの、万能とまではいきません」

「でも『柱』があれば人間でも魔物をやっつけられるんですよね?」

「はい。『柱』の加護のおかげで、人類は魔物に十分対抗できるほどの魔力を得られるようになりました。もっとも、そのためには相応の訓練も必要ではありますが」

「『柱』ってどんな形をしてるんですか?」

「この邸宅の柱のような円柱状ではなく、大きな水晶のような形をしております。実物をお見せしたいところですが、残念ながら『柱』のある元王城は現在、ブラザー党の本部として抑えられてしまってますからね……ゆえに実は(わたくし)自身も直には見たことがないのです」

「転生者ってどんな人達だったんですか?別の世界の人達だったんですよね?」

「流石に詳しい容姿などは不明ですが、どの者達も身体はこの世界の人間と同じです。何らかの人ならざる存在が、元いた世界で生きた記憶と、この世界の人間では考えられないほど強大な魔力を授けた上でこの世界に転生させたと言われています。ちなみに、どうも転生者達は(みな)、国などの違いはあれど、全く同じ世界から来たとか」

「昔お父さんから聞いたんですけど、人間を襲わない魔物が外国にいるって本当ですか?」

「はい。彼らは『友魔(ユーマ)』と呼ばれており、生前の母上も『ステイシアには国内の人里離れた場所に友魔が定住する集落がある』と(おっしゃ)っておりました。彼らは『柱』の力が働かず、また、人間に近い姿をしていて、中には人間と交易をする者もいるそうです」

「バナナはおやつに入りますか!?」

(わたくし)達にとっては"ブラザー党"の貨物を盗むことでしか手に入れられない大変贅沢な品ですわね」


 次々と出る子供達の質問を、"姫様"と呼ばれる少女は真摯に答え続ける。正しい知識を次代に伝えることこそ自分の務めと言わんばかりに。


「『柱』を維持する役割って何ですか?」

「端的に言えば、『まず最低限生きること』です。『柱』はその元となった転生者の血を引く者……つまり王族の魔力を受信し、それを触媒として稼働します」

「でももし国の外に出てしまったら……?」

「『柱』はこの大陸に根差す、物質とは異なる特殊な存在……ある意味ではこの大陸の一部です。ですので、王族は大陸の中であれば自国の『柱』の外に出ても問題ありません。しかし、王族であろうと人間は死んでしまえば魔力も失われます。つまり、『王族が滅ぶ』ということは『その国が滅ぶ』こととほぼ同義と言えます。そして、今生きているウォーリア王族はただ1人」


 少女はそう言って少年の方を見る。『補足を促した』と考えた少年は、流れる沈黙を破るように口を開く。


「……さっき姫様が(おっしゃ)ったように、『柱』だけで全ての魔物の侵入を防げるわけでもありませんからね。我々が有する『防衛戦力』もまた、ブラザー党が我々を生かすに足る価値。つまり……」

「『我々は世界を滅ぼしかけた魔物達に生かされているようなもの』……と言いたいのですね、ヴェスタ?」

「その通りでございます」

「「「「「…………」」」」」


 その事実は、今まで外の世界を知らなかった子供達にも突き刺さった。


「確かに、それこそ我々が背負う業。不名誉な話ですが、決して悪いことばかりではありませんよ?」

「「「「「???」」」」」


 "姫様"が正面玄関の方を向くと、黒い髪と褐色肌のメイド。そして、茶色い癖毛の男の姿。どちらもヴェスタと"姫様"よりも背が高く、年頃も少し上。


「姫様、ただいま戻りました」

「いやぁ、えらい逃げ足の速い奴だったぜ」


 2人は大きな鹿に似た獣を括り付けた棒を肩にかけていた。


「うわっ、すげー!」

「ジュリア!今日はご馳走だよね!?」

「はい。今日はお肉たっぷりのシチューにしましょう」

「「「「「やったー!!!」」」」」


 さっきまでの重い空気を忘れ、はしゃぐ子供達。


「倒せる範囲の魔物は資源になり得ます。食品にさえ、外国人以外には重税が課せられる今の我が国では、こういった恩恵は無視できません。そういう意味でも、『魔物達に生かされているようなもの』と言えるかもしれませんがね」

「……確かに」

「では今日のお勉強はこのくらいにして、(みな)で協力して夕飯の準備をしましょう。男の子達はヴェスタと共に獲物の解体を、女の子達は(わたくし)と共に野菜を切りましょう」

「「「「「えー!!?」」」」」

「これも経験です。貴方がたもいずれは親となり、子を養わねばならないのですから」

「姫様!俺ァ『例のアレ』の準備をさせてもらうぜ!」

「ええ。相変わらず準備に力を入れますわね」

「俺はいざという時の備えを欠かさねぇ男だ!」

「ジュリア。獲物を狩ったのですから、ウィンストンだけでなく、貴女も休んでいて構いませんよ?」

「とんでもございません。姫様を台所に立たせて休むなど使用人の名折れ」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「「「「「ごちそうさまでしたー!!!」」」」」


 王族邸のダイニングルーム。揃っての夕飯を終え、子供達は満腹感で笑顔の中、"姫様"とヴェスタ、ウィンストンとジュリアはすぐに席を立つ。


「あ、あの……本当に行くんですか?」


 子供達の中で一番年長の少女が4人に話しかける。


「ええ。そのために今日、貴方がたにこの世界のことと生きる術を教えたのですから」

「それって……」

「心配は無用です。この3人の腕前は本物ですし、先ほど話した通り、ブラザー党は(わたくし)に手を出すことはできません。万が一、というだけの話です」

「…………」

「必ず、貴女がたの家族を救ってみせますよ」


 "姫様"が微笑みながら少女の頭を撫でる。


「この国もです」

「ええ。その通りですね」


 ヴェスタの言葉にも肯定する。

 心配する子供達の視線を背に、4人はそれぞれ一度自室に戻り、準備を整えてから正面玄関を出た。


「お待ちしておりました、姫様」


 王族邸の前で待っていたのは、数十人という数の武装した群衆。


「皆様。本日はご足労頂き、感謝の念に()えません。早速ですがこれより、ウォーリア王制復古のため、反抗作戦を「姫様、これから荒事ですよ?こんな時まで猫を被る必要などないのでは?」

「……あー、そうだな」


 隣に立つジュリアからの勧告に応えるように、突如として気だるげな表情になり、口調が砕ける"姫様"。


「よォ。今日はよく集まったなァ、命知らずの愛国者ども。お前ら大好きだぜ」

「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」


 "姫様"のそんな豹変など気にも留めず、待ちに待ったこの日に沸き立つ群衆。


「苦節17年、ようやくこの日が来たなァ。ここに集まるような奴らだから知ってると思うが、景気付けにちょっくら昔話でもすっか。むかーしむかし、今から20年以上前。この国に突然お花畑なイカレポンチが湧いて出てきやがった。そいつは何をトチ狂ったのか、『どこの国の人間も……それどころか魔物も含めて生きとし生けるものは全て平等なんだから、共生し、財産や権利も全て分け合うべきだ』とかほざきやがった。お前らもよォく知ってる『ブラザー主義』ってやつだ」

「「「「「…………」」」」」

「でまァ、ウチの国の愛する国民どもは昔からちょォっと優しいというかお人よしというかそういうとこがあってなァ、そのイカレポンチの寝言に律儀に耳を傾けちまった。しかもウチって昔ッから(ちっ)せぇ国だろ?それまでは魔物が突然大量に湧いてこようが何とかやってこれてたが、その度にやっぱり人的な損害が出て、将来的な人手の不安があったわけよ。そこで愛国心半分、金儲け半分のつもりだったとある大商人が『ブラザー主義』を大義名分に隣のセントエスノリアから人を入れ始めたのが運の尽きだった」

「…………」


 その言葉に目を閉じて顔を伏せるジュリア。


「そこからはまァ早かったらしいなァ。『どこにいても自分が一番』気質なセントエスノリア人がコミュニティこさえて、そいつらがあっという間にこの国の中で幅を利かせ始め、愛する国民どもは魔物以外にも怯えて暮らす毎日だ。おまけにブラザー主義を(うた)う連中はそれだけに飽き足らず、今度はアタシら王族を"不平等の象徴"だとぬかしやがった。そこで利害が見事に一致したブラザー主義者どもと外人どもは手を組み、17年前、王族に喧嘩を売ってきやがった。結果、"負け犬"一族と物好きな愛国者どもはこんなド田舎の辺境に閉じ込められ、見事勝者となったブラザー主義者どもは奪った王城を根城にブラザー党を設立。一党独裁政治をおっ始め、戦友の外人どもを優遇し、ケツの拭き方から内政まで干渉され放題。愛すべき国民どもには埋め合わせのために重税と不平等を課すイカレ国家が爆誕したってわけだ」

「くそッ、くそッ……!」

「あの売国奴どもめ……!」

「そして連中は勝者の証としてこの国の正式名称……"ウォーリア王国"すらも変えやがった。今は何て言うか知ってるよなァ?"ウォーリア永世共和国"だぜ、"永世共和国"。ハッ、気取った名前名乗りやがって。笑わせんじゃねーよって話だよなァ?肝心の愛する国民どもとは共和してねェくせしてよォ」

「「「「「そうだそうだ!!!」」」」」

「お陰でアタシもご覧の通り、どこに出しても恥ずかしい"泥かぶり姫"だ……なァ、(いま)だに王制復古を信じてやまねェ愛すべきバカども。アタシも戦うからよォ、ちょっと手ェ貸してくんねェか?あの忌々しいブラザー党の”お人よし”どもと調子に乗った外人どもに17年分のお仕置きをしてやろうや?どうせアタシらがいなきゃ国も保てねェ、頭数だけの雑魚どもなんだからなァ。それが終わったら、子供(ガキ)どもが毎日腹一杯喰える国を作り直そうぜ?」

「「「「「うおおおおおおお!!!」」」」」

「剣を持て!銃を構えよ!"ウォーリア王国第101代王位継承権者"エセルフリーダ・レプリカーレの名に誓い、お前らに相応(ふさわ)しい最高の王国(キングダム)をくれてやる!!全軍進撃、ジーク・ウォーリアッ!!!」

「「「「「ジーク・ウォーリアッッッ!!!」」」」」


 旧ウォーリア王族と、それを支持する民衆……"王制復古派"による反抗作戦。17年の雌伏の時を経て、ついに幕を開けた。

 チャリオットに乗るエセルフリーダ姫と使用人のジュリアが先陣を切り、その側面に姫の護衛のヴェスタとウィンストンが同じくチャリオットで並走。兵達もそれぞれ馬に乗り、後を追う。

 向かう先は当然、旧王都の旧王城。ブラザー党の総本山である。


 ・

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 旧王都から少し離れたとある街。街道のとある露店の前。セントエスノリア人……正確にはエスノ族の若者2人が店の前で商品を眺めていた。


「おうオヤジ!これもらっていくスノ!!」

「あの……お代金は……?」

「あ!?今何て言ったスノ!!?」

「差別スノ!外国人差別スノ!!ブラザー主義に反する復古派は通報スノ!!!」

「ひっ!?ち、違います!私は復古派ではありません!どうか思想警察はご勘弁を……!」

「なら、わかってるスノ……?」

「お、お願いします……売上がないと今月の納税が……家族が……」


 胸ぐらを掴まれ、なおも泣いて懇願する店主。そんな時……


「「オラァ!!!」」

「「ぐえっ!?」」


 旧王都へ向かっている最中の復古派の軍勢が通りかかった。先陣を切るヴェスタとウィンストンがチャリオットから飛び降り、そのままエスノ族の若者達を踏みつけ、そのまま再びチャリオットへ跳び乗る。


「す、すげぇ……」

「流石姫様の側近……」


 魔物狩りの経験を十分に積み、腕に覚えのある復古派の兵達。そんな彼らですら、2人の動きには舌を巻いた。


「ヴェスタ!ウィンストン!道草してんじゃねェぞ!」

「申し訳ございません!足が滑りました!」

「ついでに何か踏んだ気がするけど多分気のせいだ!」

「ならしょうがねェな!次はアタシがうっかり足を滑らすから抜け駆けすんじゃねェぞ!」

「承知しました!」

「おう、やっちまえやっちまえ!」

「姫様、自重して下さい。この作戦が成功したら外人はすぐにでも追い払えますから」

「へいへい」


 ジュリアにたしなめられ、口を尖らせるエセルフリーダ姫。

 国防の面で復古派の戦力に多くを頼っている現状、彼らの旧王都への進軍に滞りはなかった。


 ・

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「き、来たぞ……!」

「ひるむな!構えろ!相手は所詮少数!数で()せ!」


 復古派の到着より先に復古派の動きを掴み、王城までの道中に兵を配備していたブラザー党。頭数だけなら復古派の兵の10倍以上。兵装も決して粗末なものではなく、銃を装備する者もいる。


「へっ……ちぁゃんとお姫様をお出迎えたァ、革命野郎どものくせにお行儀が良いじゃねェか。だか構うこたァねェ!全軍、『デバイス』展開!このまま突撃!防御に自信のねェ奴はヴェスタ達の背後(ケツ)に隠れて流れ弾を警戒しろ!」

「「「「「おおおおお!!!」」」」」


 姫の号令に応じて、ヴェスタ達と兵達は一斉に、何もない空間から各々異なる武器を展開し、構える。

 この世界でのいわゆる『魔法』というものは、魔力によって自身を強化することと、自分の魔力を『デバイス』という物体として具現化することの2つを基本としている。魔力の才能にあまり長けていない者や経験に乏しい者はこの内の1つか2つのみしか行えないが、ある程度以上の才能を持つ者や経験を積んだ者は、デバイスに機能を与える形で特殊な能力を発揮できるようになる。

 ヴェスタはクリスタルのような刀身の2本の剣を握り、ウィンストンは(てのひら)に人が乗せられそうなほど巨大な黒い籠手(ガントレット)を右腕に装着。2人がチャリオットから降りて前進し、後方の兵達もそれに追従する。


「ヴェスタ、右ッ側頼むぞ!俺は左の方をやる!」

「了解!」

「あの2人に(おく)れを取るな!」

「腹一杯の飯が待ってるぞ!」


「「「「「うわあああああ!!!」」」」」


 勇敢に立ち向かう復古派に怯えつつも、党の兵達は死力を尽くす。


「姫様。万が一がございますので我々は後方に」

()ーってるよ。たとえ事故でもアタシが死んだら国が滅ぶ、だろ?」

「そういうことです。悔しかったら良い人を見つけてお世継様をお産みになって下さい」

「へいへい」

「それと、ボサッとしてないで手伝って下さい。私の貸しますから」

「銃なんてお上品なアタシにゃ似合わねェけどなァ」


 ジュリアはライフル銃を2挺展開し、片方を姫に渡す。2人は後方から射撃で前線を支援する。


(つれ)ェよなァ、弾除けにもなれねェなんて。結局は"革命許した無能の娘"なのに、普段は人一倍飯喰わせてもらって、貴重な紅茶毎日飲ませてもらって、毎日綺麗なお着物(べべ)着せてもらって。なのにこんな時でもアイツらばっかり身体張って……こんな柄の(わり)ィ女なんか()っといて、もっと自分(テメェ)を大事にしたって良いのに……」

「姫様のそういうお気持ちは(みな)が理解しております。だから今日これだけの民衆が(つど)ったのです。今はただ彼らを誇って下さい。そして勝利の暁にはこの国を良き国に戻して下さい。それが何よりの報いとなります」

「……ああ」


弾丸(バレット)パーンチ!」

「うわあああああ!!!」

「でっかい拳が飛んできたぞ!」

「ウィンストン!あんまり大技出しまくるなよ!」

「くそッ、(かて)ぇ……」

「鉛玉を弾くとか、どんだけ鍛えてやがるんだ復古派の連中は……!?」


 魔力の強化は身体能力の向上のみならず、防御にも貢献する。熟練者であれば銃弾の雨すら凌ぐと言う。

 少数とは言え、皮肉にもブラザー党によって過酷な環境で戦い続けることを強いられ、鍛え抜かれた精鋭達。決着にはそれほどの時間はかからなかった。


「う……うう……」

「ま、参った……」

「投降した奴にトドメを刺すな!コイツらも腐っても愛する国民どもだ!魔力錠で拘束しろ!……ヴェスタ、被害状況は?」

「多少の負傷者はいますが、死傷者は0です。今日(こんにち)まで耐え忍び、研鑽(けんさん)を重ねた甲斐がありましたね」

「ああ、全く上出来だ……負傷者を中心に何人か残して、魔力の回復ととっ捕まえた連中の見張りをやらせる。トム」

「ハッ!」

「留守番連中の指揮はお前に任せる。何かあったら『コイツ』で連絡寄越せ。アタシからもお前らを呼ぶかもしれねェ」

「了解であります!」


 そう言って、姫は自身のデバイスを展開し、兵に渡した。片手で持つのにちょうど良いくらいのサイズ感で、長方形の薄い板のような物。表面はガラス状で、これも世界観に似つかわしくなく機械的な印象を受ける。


「そして残りでこのまま一気に本陣まで……ですか」

「そうだ……お前らよく戦ってくれた!前哨戦は完全勝利だ!"ウォーリア王国"復活まであと一息、気合い入れてけ!」

「「「「「おおおおお!!!」」」」」


 若干の疲労と魔力の消耗があるものの、復古派の士気は依然として高い。


(あとちょっとだ、もうあんなクソ(たけ)ェ税金なんか払わずに済む……)

(カミさんとチビに腹一杯喰わせてやれる……)

(孫娘が外人どもに襲われても何もせんかったあんな政府にこれ以上明日など任せられんわい……!)


 兵達はそれぞれの希望と覚悟を胸中に宿し、まもなく復古派は再び旧王城に向けて歩みを進めた。

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