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18話 ボズウェルの最期⑧

 そして、その日の夜。

 夕食を食べ終え、私は一人、部屋の中で涼んでいた。

 

 話し合いは、驚くほどスムーズに進んだ。


 一つ目は、二国間の交通事情の改善。

 協力して野盗を根絶し、希望者を募り、廃村に移住者を集める。

 お互いの国を行き来する際、補給や休憩が出来る場所を確保するというもの。


 二つ目は、荒れた空白地帯の緑化作業について。

 土地の一部を拠点とし、管理をマール連邦に任せるというもの。


 この二つは前回の訪問時に聞いていた為、すんなりと決まった。

 そして、二つ目に関して追加の項目。


 それは、マール連邦の領土から空白地帯の拠点まで、トンネルを掘るというもの。

 ただ、これに関しては条件が設けられた。


・あくまで、人やそれなりの大きさの物資が行き来出来る程度の広さにする事。

・年に数回、トンネルの工事の様子をアドラー側の人間が視察出来る体勢を作る事。


 この条件をマール側が受け入れ、トンネルの話は承諾された。


 そして、ボズウェル子爵の家族の保護。

 生き残りの兵と、その家族のマール連邦への移住。

 これらについては、まず仮住まいを用意した後、数回に分けての移住を行う事となった。


 戦後の話し合いは、そんな風に、思ったよりも穏やかに終わった。


(陛下とジェローム様は、みんなとお酒を飲みながらお喋りしてる。……私も参加した方がいいのかもしれないけど、今日はなんだか疲れちゃった)


 一応、アドラーに帰るのは明後日。

 今回は、マール国内を回らずに屋敷の中でゆっくりする予定みたい。


「はあー。どうやって武田君と距離を縮めたらいいか、分からないよー」


「へえー。委員長はソウちゃんと仲良くなりたいんだ?」


「うん、そうなの……って、ちょっと!? ……遠藤さん、お願いだからびっくりさせないで……」


 あの時みたいな登場で、遠藤さんは私に顔を見せに来た。

 でもあの頃と違って、彼女はとても緩い雰囲気だった。

 まるで、高校生の時みたいに。


「色々ありがとね、委員長。ここじゃみんなが優しくしてくれるから、毎日すっごく楽しいよ」


「そう、良かった。……ねえ、ところでさ。さっきのソウちゃんって、まさか武田君をそう呼んでるの?」


「うん、そうだよ? だって私たち、ソウルメイトになったもん」


「……へ、へえー? ま、まあ、お友達が増えるのはいいんじゃない?」


「うん! ……でも委員長は、ソウちゃんと恋人になりたいんでしょ? 私、協力してあげよっか?」


「なっ……ち、違うから!! ただ、友人として、もう少し仲良くなりたいなっていうか……」


「……じゃあ、私がソウちゃんと付き合っちゃおうかな? よくあるもんね? 友だちから、いつの間にかってさ」


「えっ? ……ほ、本当に?」


 遠藤さんは何も言わず、にこにこしながら私のことを見ていた。


「まあ、とりあえずさ。私のこと、これからはマリカって呼んでよ。それで帰り際、ソウちゃんのこともソウマ君って呼んでみたり。まずは、そっからじゃない?」


「……う、うん。じゃあ、これからよろしく。マリカ」


「うん! よろしくね、エマ」


 その後も色んなことを話して、夜遅くまで二人でいた。




 そして、アドラーに帰る日。

 私たちはグラーネさんの屋敷の玄関前で、みんなと挨拶をしていた。


「見送りはここでいいわ、スタリオン卿。……あなたの事、しっかり覚えたから。グラーネ子爵、滞在中お世話になったわ。ありがとう」


「どうかお元気で、グウィネス女王陛下。今後は少しずつ、平和的な交流が出来る事を願っています」


「女王陛下。我が屋敷でくつろいで頂き、誠に感謝致します。アドラー帝国までの道中、どうかご安全に」


 陛下は武田君とグラーネさんと握手を交わしてから、馬車に乗り込んだ。


「ソウマ殿、グラーネ殿。我々をもてなしてくれた事、深く感謝する。そして皆さん、どうかお元気で。……また何か新しい食べ物を思い付いたら、教えてくれると嬉しい」


 ジェローム様も二人と挨拶をして、馬車に乗った。


「……シノザキ、元気でやれよ」


 武田君は、私の前に手を差し出した。

 みんなの後ろで、マリカが私に向けてファイティングポーズを取っている。

 ……さあ。ここで勇気を出すんだ。


「あ、あのさ。これから、武田君のこと、ソウマ君って呼んでもいいかな?」


 私は武田君と握手をした後、勇気を振り絞りながら聞いてみた。


「まあ、別にいいけど」


「そ、そっか! ……じゃあさ、私のこと……これからはエマって呼んでくれたら、嬉しい……かも」


「あー……マジか。いきなり呼び捨てってのも気が引けるけど……分かった、エマ」


 名前で呼ばれた瞬間、心臓が跳ね上がった。

 ──はあ。思春期の中学生かよ、私。


「シノザキさん、元気でねー!」


「また遊びに来いよー!」


「待ってるでござるよー!」


 クラスメイトが、私に向かって手を振ってくれている。

 ちょっと泣きそうになっちゃったから、もう馬車に乗っちゃおう。


「すみません、お待たせしました」


「いいのよ、エマ。……ふふっ、いいお友達ね」


「……エマ。これからはアドラーでも少しずつ、友人を作っていけるかい? なんだか、心配になってしまったよ」


「あははっ。……もう、ジェローム様ってば」


 陛下も、ジェローム様も、こんな私にずっと優しくしてくれていた。

 だからここから、始めるんだ。


(私もアドラーで、自分の居場所を作ってみよう)


 馬車が動き出した。

 ──うん、もう大丈夫。

 離れていても、みんながいるから。

 ここまで読んでいただき、有り難うございます。


 もし宜しければ、ブックマークや星評価などして頂けたら小躍りして喜びます。

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