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18話 ボズウェルの最期⑦

「久しぶりだな、ユヅル。よく来てくれた」


「そっちも、元気そうで何よりだ」


「……正直、助かったよ。お前の存在を材料の一つにして、この国に居座れるようになったからな。馬車馬のようにとは言わないが、色々と働いてもらうぞ」


「そうなのか? まあ、最初からそのつもりだよ。僕に出来る事なら、幾らでも声をかけてくれ」


 私達は再び、マール連邦に来ていた。場所は前回と同じ、グラーネさんの屋敷。

 ここにいるのは私と、グウィネス女王陛下とジェローム様。

 それに、リヒトブリックから亡命を望んでいた長谷川君。


 長谷川君は早速、武田君や他のクラスメイトとの再会を喜び合っている。

 ……うん、良かった。

 彼には、あの場所が似合っている。


「エマちゃん、本当にいいの? いいのよ、別に。あなたも、彼らといる方が幸せだでしょう?」


 陛下の優しさに、私は改めて決意を示した。


「……いいんです、陛下。私は皆と離れた場所で、自分に出来る事を探してみたいと思います」


「……そう、分かったわ。それじゃあ、あなたの事はこれからエマって呼ぶから。少しだけ厳しく接していくから、そのつもりでいてね」


「はい。色々と、ご指導頂けたらなと思っています」


 武田君は、ボズウェル子爵との争いに勝利した。

 勝ちが決まっている争いなのに、一騎打ちまで受けるなんて。


(怖くなかったのかな? ……いえ。きっと、彼も怖かったはず)


 そんな彼だから、彼の周りには沢山の人が集まっているんだと思う。

 私も、武田君のように強くなれたらいいな。


「……さて。ソウマ殿、そしてフィオナ族長。我々は前回の話し合いの続きと、ボズウェル子爵に関わる交渉をしに、再びマールを訪れた。あなた達も、その認識で構わないだろうか?」


「はい、ジェローム殿。以前は、残念ながらお互いの間にすれ違いがありました。ですが、今回は違います。……そうだろう? フィオナ」


「ええ。……亡き夫の事とはいえ、感情的になってしまいました。本日は、実りあるお話が出来ればと思っています」


 とても真摯な態度で、フィオナ様は頭を下げた。

 外交は謝ったら負け、なんて話を聞くけど、彼女にそれは当てはまらない。

 いつでも、盤面をひっくり返せるのだから。


「ふふっ。安心したわ、フィオナ族長。今日は是非、お互いにいい話を持ち帰りましょう。 ……さあ、あなた達。あれを」


 陛下は控えていた護衛に呼び掛けた。

 彼らが荷馬車から持ってきたのは、巨大な箱。

 木製で、箱は綺麗に塗装され、綺麗な縄飾りで彩られていた。


 でも、私は箱の中身を知っている。

 そう思うと、どこか空々しく、胸の奥がひやりとした。


「……グウィネス女王。これは、まさか……?」


「察しがいいわね、スタリオン卿。……フィオナ族長。あなたの亡き夫、ヴァルディンの頭骨を返還します。どうぞ、確認なさって」


 フィオナ族長は、地面に置かれた箱にそっと近づくと、静かに蓋を開けた。

 そしてゆっくりとした動作で、入っていた物を持ち上げた。

 それは、両手でようやく抱える事が出来る、大きな角が生えた頭蓋骨だった。


「お帰りなさい、ヴァルディン。……さて。申し訳ないのだけど、今からやることがあるの。みんな少しの間、離れていてもらえるかしら」


「? ああ、分かった」


 私たちは武田君と同じように少し離れた場所で、彼女を見守った。


(なんだろう? 竜人りゅうびとなりのやり方で、鎮魂的な儀式とか?)


 フィオナ族長は、おもむろに頭蓋骨を地面に置いてから──


「ぬえええいっ!!」


 思い切り、殴りつけた。

 拳が骨にめり込む。地面が低く唸った。


「このっ……浮気者!! 大酒飲み!! 暴力男!! 女たらし!! 頑固者!!」


 一撃、一撃、また一撃と。

 拳と骨がぶつかる度、衝撃音と共に地面が軋む。

 およそ、人間が出せる音じゃない。


 その後も、延々と罵倒と共にげんこつを叩き込み、やがて頭蓋骨のひびがこちらからでも分かるようになると──


「こ、ん、の、お……」


 大きく振りかぶる。

 彼女の右腕があの時のように、竜の腕へと変化していく。

 それは前腕だけでなく、二の腕から先の、ドレスの下に隠れている部分まで。


「大馬鹿野郎!!!!」


 ずどん、と拳を振り下ろした。

 地面が揺れ、衝撃が伝わる。

 亡き夫の頭蓋骨は、真っ二つに割れていた。


「はあー、すっきりした。それじゃあ早速、中に入ってお話しましょうか。……ああ、ソウマ。《それ》、あなたにあげるわ。角や牙は武器に、他の部分は防具に使いなさい」


 フィオナ族長は晴れやかな顔で、一足先にグラーネさんの屋敷に入っていった。


「……スタリオン卿。あなたも、なかなか苦労しそうね」


「……ええ、まあ。我々も、中に入りましょう」


 陛下は武田君に同情の視線を向けた後、ジェローム様と顔を見合わせた。

 ……とりあえず、穏やかに話し合いが出来そうなのは良かった。

 ここまで読んでいただき、有り難うございます。


 もし宜しければ、ブックマークや星評価などして頂けたら小躍りして喜びます。

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