18話 ボズウェルの最期③
やがて、ボズウェル側に動きが見えた。
弓兵が前へ出て、歩兵と共にじりじりと進み始めた。
俺は早足で後方に下がりながら、弓部隊に向かって激励の言葉を掛けた。
「クロエ、ヴァネッサ! 先制攻撃を食らわせてやれ!」
二人は弓を掲げた後、隊を率いて前衛へ出ていった。
クロエ率いる森人の部隊は弓騎兵で、コンポジットボウは装備していない。
射程距離を合わせる為に、ヴァネッサ達より少し前に出て、左右に隊を並べる。
そして、クロエとヴァネッサの二つの部隊で連携して、矢の雨を降らせる手筈となっている。
後方の陣営に合流すると、グラーネに肩を叩かれた。
タリアとアルゴルも、すっかり気合いの入った表情で俺を迎えてくれている。
「いい口上だったぞ、ソウマ」
「そうか? ま、これで戦の方も良い結果なら最高なんだが」
辺りを見渡すと、マモルの姿が目に入った。
初めての命のやり取りに緊張している者達に対し、声を掛けて回っているようだ。
(ありがとう、マモル)
俺はターニャの事が心配になり、様子を確認しに行った。
彼女は特に緊張した様子は無く、ロスヴィータと話していた。
「やあ、お二人さん。……ターニャ、やれそうか?」
「ソウマさん、かっこ良かったです! 惚れ直しちゃいました!」
ターニャは俺の手を握り、にこにこしていた。
この様子なら、大丈夫そうだ。
「ロスヴィータ。改めて、頼んだぞ」
「ああ、安心しろ! オマエ達まとめて、ワタシが守ってやる!」
俺はロスヴィータと拳を合わせ、本陣へと戻った。
腕を組み、敵兵を見据える。
弓での攻撃は、まだ早い。
ゆっくりと、確実に距離を詰めてくるボズウェル軍。
そうしている内に、こちら側からだけ見えるように色を塗っている石へと、奴らが近づいてきた。
「弓、構えーっ!!」
ヴァネッサの号令により、千五百ほどの弓が一斉に上空へと向けられた。
敵側からすれば、そんな位置から矢を放つとは思ってもいない。
届くはずがないと、高を括っているだろう。
そして、敵の弓兵が目印の石に到達するタイミングを見計らって──
「……放てえっ!!」
無数の空を切る音と共に、矢が放たれた。
そしてそれらは悠々と放物線を描き、ボズウェルの兵へと容赦なく降り注いだ。
「「ぎゃあっ!!」」
「「がっ!」」
「「ぐあっ!!」」
短い悲鳴と、金属がぶつかる無数の音。
映画でなら見慣れた光景だ。
だが、現実に目の前で起きるそれは、比べ物にならないほど凄惨だった。
「第二射、よーーーいっ!!」
ヴァネッサの号令により、無慈悲な二射目が構えられた。
敵は進軍を止めないが、出来上がった無数の死体により遅れが出ていた。
「放てえっ!!」
今度は、先ほどよりは緩い放物線。
それは死を運ぶ向かい風のように、ずかずかと敵を貫いた。
「三射目、構え!! ……放てえっ!! ──さあ、うちらは撤収! しばらく、男連中に任せるよっ!!」
弓兵と入れ替わるように、鉄人、獣人の歩兵が前に出る。
敵の列に、ぽっかりと空いた穴。
弓兵だけでなく、歩兵までが矢に貫かれていた。
(これはもう、決まったか? ……いや、あの動きは──)
ボズウェルの兵達は隊列を組み直した後、雄叫びを上げていた。
となると、次に来るのは──つまり。
「お前達、敵の突撃じゃ!! だが、これを凌げば勝てる!!」
「弓兵のおかげで、随分と楽になった!! 同胞達よ、覚悟はいいか!! この程度の敵に殺されるなよ!!」
ダレルとオズワルドがすかさず檄を飛ばし、味方を鼓舞する。
俺達も後詰めとして、攻撃に参加する必要がある。
「よし、打って出る準備だ!! 前衛に楽をさせてやろう!!」
「ソウマ、その心意気は悪くない。だが、少し相手の出方を見てからだな」
グラーネの視線の先──ボズウェルの様子を確認する。
奴は変わらず後方に控えていて、その左右には無傷の兵が待機している。
数としては、恐らく千五百程度。
(開戦前のやり取りで判断するなら、あの兵達がマールに移住するという事なのか? まあ、後詰めの兵という可能性もある)
「そうだな、グラーネ。……味方には悪いが、ここは我慢だ」
俺は腕を組み直し、逸る気持ちを抑えた。
──そしてついに、ボズウェル兵の突撃が始まった。
彼らは隊列が乱れるかどうかの所をぎりぎり保ちつつ、決死の表情で向かってきている。
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