表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/74

18話 ボズウェルの最期②

「……あんた、意外に考えているんだな。勉強になったよ」


 最も、限りなく当たり屋に近いやり方ではあるが。

 それでも実際、話の流れはボズウェル子爵の望む方向で進んでいるのだ。


 (理屈だけでは足りない時、こいつのやり方を少し混ぜるというのも悪くないな)


「……それで、返答は如何に?」


 彼の言葉に、俺は肩をすくめながら答えた。


「一騎打ちに関しては、この場で承服する事は出来ない。すまないが、俺は臆病なんだ」


「ソウマ、それでいい。私もお前も少々、こいつの毒に当てられ過ぎている」


 グラーネとしても、俺が一騎打ちをするのに乗り気ではないようだ。


 (まあ稽古ではなく、命の奪い合いだからな)


 俺の実力をそれなりに認めてはいるんだろうが、わざわざリスクを冒す必要が無いと考えているはずだ。

 それに俺自身も、そう考えている。


「……承知した。ひとまず、今はそれでいい。これから戦闘になるが、その前に、貴公は兵の士気を高めるように口上をお願いしたい。それを確認次第、攻撃を開始する」


「随分とお優しいことだな。ここまでくると、お前の兵が可哀想になってくるぞ」


 呆れた様子のグラーネ。俺も同じ気持ちだ。

 彼の後方に控えている兵達に視線を向けると、僅かに同情の念が芽生えた。


 これから始まるのは、選別。

 政治的な理由で口減らしをして、弱い者、運の無い者はこの場で死ぬのだ。


(勝ちがほぼ決まっているとはいえ、胸糞悪い話だ。……さっさと終わらせよう)


「それでは、失礼する。……互いに、武運を」


 ボズウェル子爵はきびすを返し、自軍に戻っていった。

 俺とグラーネも自軍に戻り、他の族長達と子細を話した。


「……何というか、色んな意味で物凄い奴じゃな。その、ボズウェルとやらは」


「ええ、本当に。……ねえソウマ君、無理に一騎打ちなんかする必要ないのよ?」


 ダレルとクロエの顔には、早くも疲労感が漂い始めていた。


 まあ、俺も疲れ始めている。

 なので両頬をぴしゃりと叩き、気合いを入れておく。


「……ソウマ。私は、一騎打ちを受けるべきだと思っている。ボズウェルの兵、全てがお前に従うとは限らない。力で示すという事は、やはり必要ではないだろうか」


 オズワルドとしては、そう考えているようだ。

 その事については、正直俺も考えていた。


「オズワルド、余計な口を挟むな。貴様は──」


「いや、グラーネ。いいんだ」


 俺はグラーネの言葉を遮り、オズワルドを見据えた。

 彼の目には、別に俺を陥れるようという邪な意図は無いと感じた。


(ま、勝つときは勝つし、死ぬときは死ぬだけだよな)


「意見をありがとう、オズワルド。もしその時は、応援を頼む」


「……ああ、分かった」


 勿論、死ぬつもりは無いし、まだ一騎打ちをすると決まった訳でもない。

 まずは、目の前の戦を生き延びなければならない。


「はあ。面倒だが、やるか。……口上ってやつを」


「おっ! ソウマさん、やっちゃいますか! いやあー、楽しみだなあ。ね、アルゴル?」


 アルゴルと共に控えていたタリアが、茶化すように言った。

 タリアの弟のように育ったアルゴルは、姉に同調する事はせず、ただふいっと横を向いた。

 

 正直、この場にはそぐわない雰囲気ではある。

 だが、いつもと変わらない様子を見せてくれた事で、俺の心は安らいだ。


 そんな二人を見ながら、俺は留守にしているマール国内の事を考えた。


(オーレリアと同様、ブルーノと、グラーネの配下であるミレイユ達もこの場にはいない)


 オーレリアは歯痒い思いをしていたようだし、ブルーノとミレイユ達も、戦に参加出来ない不満はあった。


 だが、留守中にどうしても、ある不安材料が払拭出来なかった。

 それはオズワルドの妻であるフェリシアと、森人の族長であるサイモンの存在だ。


 フェリシアは、グラーネとは犬猿の仲だ。そして当然、俺も邪魔な存在。

 サイモンは、マールにとって俺は異物と考えている。

 二人が手を組み、俺達の留守中に何か企む可能性はある。


 だからマリカと共に、屋敷とクラスメイトを守る人員が必要だった。


(……さあ、しっかりしろ。俺達は──今から殺し合いをするんだ)


 族長達も配置に着き、準備は整った。

 そして布陣した兵達の正面に、俺は立った。


 静寂。

 皆の視線が、俺に集まっている。

 

 俺は一度深呼吸をした後、意を決し、両手を広げ、ともがらへ呼びかけた。


「まずは、この場にいる皆に感謝したい! 巻き込まれた身ではあるが、これは俺の個人的な戦だ! にも関わらず、これだけの者達が集まってくれた!」


 戦にはやる者、不安に思う者。

 または、俺の資質を推し量ろうとする者。


 様々な表情を浮かべ、次の言葉を待っている。


「──俺がこの世界に来てから、数年の月日が流れた! 今や俺には妻がいて、三人の子供までいる! 俺が日々を暮らし、年老いて死んでいくのはこの地、マール連邦に他ならない! だがそんな俺の──俺達の生活を脅かす存在が今、目の前にいる。そんな奴ら、許せるわけが無い!! なあ、そうだろう!? お前達!!」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」


 怒号。

 空気が震え、皆の怒りが伝播していく。

 不安や恐怖に震えていた者も、それを振るい払うかのように雄叫びを上げている。


(戦意は十分。……後は、どれだけ死傷者を抑えられるかだ)


 広げた両手をくるりと回すと、雄叫びはぴたりと止んだ。

 一瞬、高揚感が胸を満たす。だが、それは不要な感情だ。

 すぐさま俺の中のノイズを除去し、総大将としての役割に徹する。

 

 ──後はこの士気を維持したまま、戦の趨勢を決めるのみ。


「旗を掲げろ!! 今日、ここがお前らの墓場だと、奴らの体に剣と槍、降り注ぐ矢で教えてやれ!!」 


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」


 再びの怒号と共に、鉄人、獣人、森人、竜人、それぞれの旗が大きく振られた。

 布陣の後方でジンバールの旗と共に、俺のスタリオンの旗もなびいている。


 さあ、来い。ボズウェル。

 こちらの準備は整ったぞ。

 ここまで読んでいただき、有り難うございます。


 もし宜しければ、ブックマークや星評価などして頂けたら小躍りして喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ