18話 ボズウェルの最期②
「……あんた、意外に考えているんだな。勉強になったよ」
最も、限りなく当たり屋に近いやり方ではあるが。
それでも実際、話の流れはボズウェル子爵の望む方向で進んでいるのだ。
(理屈だけでは足りない時、こいつのやり方を少し混ぜるというのも悪くないな)
「……それで、返答は如何に?」
彼の言葉に、俺は肩をすくめながら答えた。
「一騎打ちに関しては、この場で承服する事は出来ない。すまないが、俺は臆病なんだ」
「ソウマ、それでいい。私もお前も少々、こいつの毒に当てられ過ぎている」
グラーネとしても、俺が一騎打ちをするのに乗り気ではないようだ。
(まあ稽古ではなく、命の奪い合いだからな)
俺の実力をそれなりに認めてはいるんだろうが、わざわざリスクを冒す必要が無いと考えているはずだ。
それに俺自身も、そう考えている。
「……承知した。ひとまず、今はそれでいい。これから戦闘になるが、その前に、貴公は兵の士気を高めるように口上をお願いしたい。それを確認次第、攻撃を開始する」
「随分とお優しいことだな。ここまでくると、お前の兵が可哀想になってくるぞ」
呆れた様子のグラーネ。俺も同じ気持ちだ。
彼の後方に控えている兵達に視線を向けると、僅かに同情の念が芽生えた。
これから始まるのは、選別。
政治的な理由で口減らしをして、弱い者、運の無い者はこの場で死ぬのだ。
(勝ちがほぼ決まっているとはいえ、胸糞悪い話だ。……さっさと終わらせよう)
「それでは、失礼する。……互いに、武運を」
ボズウェル子爵は踵を返し、自軍に戻っていった。
俺とグラーネも自軍に戻り、他の族長達と子細を話した。
「……何というか、色んな意味で物凄い奴じゃな。その、ボズウェルとやらは」
「ええ、本当に。……ねえソウマ君、無理に一騎打ちなんかする必要ないのよ?」
ダレルとクロエの顔には、早くも疲労感が漂い始めていた。
まあ、俺も疲れ始めている。
なので両頬をぴしゃりと叩き、気合いを入れておく。
「……ソウマ。私は、一騎打ちを受けるべきだと思っている。ボズウェルの兵、全てがお前に従うとは限らない。力で示すという事は、やはり必要ではないだろうか」
オズワルドとしては、そう考えているようだ。
その事については、正直俺も考えていた。
「オズワルド、余計な口を挟むな。貴様は──」
「いや、グラーネ。いいんだ」
俺はグラーネの言葉を遮り、オズワルドを見据えた。
彼の目には、別に俺を陥れるようという邪な意図は無いと感じた。
(ま、勝つときは勝つし、死ぬときは死ぬだけだよな)
「意見をありがとう、オズワルド。もしその時は、応援を頼む」
「……ああ、分かった」
勿論、死ぬつもりは無いし、まだ一騎打ちをすると決まった訳でもない。
まずは、目の前の戦を生き延びなければならない。
「はあ。面倒だが、やるか。……口上ってやつを」
「おっ! ソウマさん、やっちゃいますか! いやあー、楽しみだなあ。ね、アルゴル?」
アルゴルと共に控えていたタリアが、茶化すように言った。
タリアの弟のように育ったアルゴルは、姉に同調する事はせず、ただふいっと横を向いた。
正直、この場にはそぐわない雰囲気ではある。
だが、いつもと変わらない様子を見せてくれた事で、俺の心は安らいだ。
そんな二人を見ながら、俺は留守にしているマール国内の事を考えた。
(オーレリアと同様、ブルーノと、グラーネの配下であるミレイユ達もこの場にはいない)
オーレリアは歯痒い思いをしていたようだし、ブルーノとミレイユ達も、戦に参加出来ない不満はあった。
だが、留守中にどうしても、ある不安材料が払拭出来なかった。
それはオズワルドの妻であるフェリシアと、森人の族長であるサイモンの存在だ。
フェリシアは、グラーネとは犬猿の仲だ。そして当然、俺も邪魔な存在。
サイモンは、マールにとって俺は異物と考えている。
二人が手を組み、俺達の留守中に何か企む可能性はある。
だからマリカと共に、屋敷とクラスメイトを守る人員が必要だった。
(……さあ、しっかりしろ。俺達は──今から殺し合いをするんだ)
族長達も配置に着き、準備は整った。
そして布陣した兵達の正面に、俺は立った。
静寂。
皆の視線が、俺に集まっている。
俺は一度深呼吸をした後、意を決し、両手を広げ、輩へ呼びかけた。
「まずは、この場にいる皆に感謝したい! 巻き込まれた身ではあるが、これは俺の個人的な戦だ! にも関わらず、これだけの者達が集まってくれた!」
戦に逸る者、不安に思う者。
または、俺の資質を推し量ろうとする者。
様々な表情を浮かべ、次の言葉を待っている。
「──俺がこの世界に来てから、数年の月日が流れた! 今や俺には妻がいて、三人の子供までいる! 俺が日々を暮らし、年老いて死んでいくのはこの地、マール連邦に他ならない! だがそんな俺の──俺達の生活を脅かす存在が今、目の前にいる。そんな奴ら、許せるわけが無い!! なあ、そうだろう!? お前達!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
怒号。
空気が震え、皆の怒りが伝播していく。
不安や恐怖に震えていた者も、それを振るい払うかのように雄叫びを上げている。
(戦意は十分。……後は、どれだけ死傷者を抑えられるかだ)
広げた両手をくるりと回すと、雄叫びはぴたりと止んだ。
一瞬、高揚感が胸を満たす。だが、それは不要な感情だ。
すぐさま俺の中のノイズを除去し、総大将としての役割に徹する。
──後はこの士気を維持したまま、戦の趨勢を決めるのみ。
「旗を掲げろ!! 今日、ここがお前らの墓場だと、奴らの体に剣と槍、降り注ぐ矢で教えてやれ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
再びの怒号と共に、鉄人、獣人、森人、竜人、それぞれの旗が大きく振られた。
布陣の後方でジンバールの旗と共に、俺のスタリオンの旗もなびいている。
さあ、来い。ボズウェル。
こちらの準備は整ったぞ。
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