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16話 お騒がせな暗殺者③

 次の日。俺はグラーネ、オーレリアと共に海人うみびとの領地に来ていた。

 ボズウェルとの戦いで使う矢の制作状況と、他の件について族長のレイラに提案する為だ。

 オーレリアは視力が殆ど残っていないので、安全を考えて俺の馬に二人乗り。


 乳母としての仕事が落ち着いてきてから、俺はたまにオーレリアを連れて外に出かけるようにしている。

 まあ俺達をくっつける為に、グラーネがあれこれと機会を作っているというのが正しい。


 昨日、俺達の仲間に加わったマリカには、取りあえずクラスメイト達と交流をしていろと言っておいた。

 暫くは無茶な事をさせずに、落ち着いた時間が必要だろう。


 港町カッサーナ。海人の領地の中で最も栄えている町だ。

 レイラにアポを取りたいなら、とりあえずここに来て誰かしら近しい者を探せという場所になっている。


 果たして、お目当ての人物はすぐに見つかった。

 自警団の詰め所にキヨマサとトモエが来ていて、自警団の者達と談笑をしていた。

 二人は陸を歩けないレイラの代わりに、付き人としてマール国内を忙しなく回っているそうだ。


 俺達に気付いたキヨマサが、こちらに駆け寄ってきた。


「皆さん、どうもです!」


「久しぶりだな、キヨマサ。トモエも、久しぶり」


「……どうもです、ソウマさん」


 トモエはその場を動かずに、こちらに向かってぺこりと頭を下げた。


「レイラに用があってきたんだが、どこに行けば会えるかな?」


「レイラ様でしたら、ここを出て右に真っ直ぐ行った先の浜辺にいるはずです」


「なるほど、ありがとう。今日はちょっと忙しいから、また時間があるときにゆっくり話そうか」


「はい! あっ、そういえば、ソウマさん。ソウマさんの燻製、最近この辺りでもよく売れてるらしいですよ」


「へえ、そりゃ良い事だな。そのうち工場の方にも、顔を出さないと。……じゃあ二人共、レイラの所に行こうか」


「ああ、そうだな。またな、キヨマサ、トモエ」


「それでは、また」


 詰め所を後にして、浜辺を目指した。

 オーレリアと手を繋ぎながら、三人で潮風を受けながら砂浜を歩く。


「やあ、レイラ! 調子はどうだ?」


 砂浜に寝転び日光浴をしているレイラを見付け、俺達三人も近くに座った。


 彼女は体の一部に鱗がある海人の中でも、特に変わった姿をしている。

 上半身は水着を身に付けているが、下半身は人魚のような見た目だ。

 日の光を反射する鱗に眩しさを感じながらも、まずは世間話から入った。


「ええ。悪くないわ、ソウマ。それと……久しぶりですわね、オーレリア。ヴォルック家から恩赦をもらったと聞いたけど、新しい生活は慣れましたの?」


「久しぶりね、レイラ。ずっと、挨拶に来られなくてごめんなさい。割と最近まで、グラーネの屋敷で乳母の仕事が忙しかったの」


「もちろん分かっているし、気にしなくていいわ。……グラーネ、あなたオーレリアをこき使っていたりしないわよね?」


 グラーネは心外だという表情で、レイラに反論した。


「おいおい、いきなり何を言うんだ、お前は。オーレリアは私の盟友なのだぞ? むしろ頼んでもいない仕事をやろうとしていて、こっちが困っているくらいだ」


 そんなやりとりを眺めていたが、俺は早くも砂浜の暑さに辛さを感じ始めていた。

 砂の性質のせいか、下半身がじりじりと焼かれるような感覚がある。

 三人には申し訳ないが、さっさと本題に入らせてもらおう。


「なあ、レイラ。急かすようで悪いが、頼んでいた矢の方はどうなってる?」


「ああ、その話ね。 少し前に確認したけど、もう作り終わっているそうよ」


「おお、そうか。助かるよ」


「まあ、海人は長時間、水の無い所で活動するのは難しいですもの。それくらいはさせてもらいませんと」


「そうか、そう言ってもらえると助かる。……それで、レイラ。今日は別の話をしに来たんだ」


 俺は両手をぱしりと合わせ、頼み込むような姿勢で話を切り出した。


「……まあ、取りあえず言ってみなさいな。内容にもよるでしょうけど」


 レイラはあからさまに嫌そうな顔をしたが、これはマール全体に関わる話だ。

 だから、やるべき者にやってもらう必要がある。


「今までのような自警団ではなく、海軍を設立して欲しい。砲撃機を搭載した軍用船で、海と陸から敵を攻撃出来るようにしたいんだ」


 グラーネからその辺りの話を聞いたが、この大陸では殆どの国が海軍戦力に関して力を入れていないらしい。

 首都が海から離れていたり、別大陸から他国が海を渡って侵略してきた事例も無いのが理由なのだろう。


 「……ああ、確かに……。そろそろ、いい加減に必要ですわね、海軍。でもまあ、その……ねえ?」


 レイラは言葉にはしなかったが、人差し指と親指で丸を作ってみせた。

 そちらの問題をどうにかしろと言いたいらしい。


 俺は苦笑しながらも、予想していた話の流れに安心しつつ提案を続ける。


「俺も金は出すが、この国全体の国防に関わるからな。族長の中でもしっかり話し合って、それなりの予算は捻出してほしい」


「そうですわね。私たち海人としても、自分たちの海や町を守りたいですもの。最初は陸だけの問題だとしても、結局こちらに被害が及ぶことになるでしょうから」


 レイラは上体を起こして、砂を払いつつ声を落とした。


「……でも、具体的な話は? 船と人材、それに砲撃機? とやらの性能も。 今の造船所で建造できるのは、せいぜい中型の商船か漁船。それを軍船にするには、かなりの改装が必要よね」


「そこは、こっちでも技術者と相談して、図面を出す。砲撃機や火薬についても開発が進んでいて、そこから流用できるはずだ」


 なるべく早く海軍としての体裁を整えて、訓練を始めたい。

 急ぎすぎても良くないが、実戦で攻撃に参加するとなると、一定以上練度は必要だ。


「レイラ。ソウマの話では、海軍の攻撃相手はノヴァリスを想定しているそうだ。亜人にとって、ノヴァリスは許しがたい怨敵。海軍の創設、しっかりとやってくれ」


 グラーネの言葉に、レイラは目を細めて頷いた。


「確かに、ノヴァリス側の海岸は通行可能ですものね。私のキヨマサとトモエは、ノヴァリスの人身売買の被害者。……調子に乗った生臭坊主どもに、大きな鉛玉をぶち込んで差し上げませんと」


 この大陸に於いて、亜人の価値は非常に高い。それゆえ、他国を訪れた亜人は誘拐の対象となる事例が多発している。

 キヨマサとトモエは幼少時代、マールを訪れたノヴァリスの商人に誘拐されて、パルティーヤの娼館で見世物のように扱われていたそうだ。


 その娼館の名前が『ウタマロ』という名前で、二人の名前はその娼館の主に付けられたのだろう。


 レイラはパルティーヤの娼館に海人が囚われているという話を聞きつけ、二人を買い取った。

 数年後、その娼館は潰れ、主の消息は不明のままという。


「……あの、ソウマさん。ノヴァリスが攻めてくるとしたら、どのくらい先になると考えていますか?」


 聞き役に徹していたオーレリアから、そんな質問があった。

 以前は最前線で戦っていた彼女からすれば、やはり気になる事柄なのだろう。


「それについては……正直、分からない。ただ、マールへの侵攻自体は可能だし、準備だけは必要だと思ってな」


「はい。ソウマさんの考えは、間違っていないと思います。……でも、ノヴァリスがどうやってマール大森林を突破するのか、私には方法が思いつかなかったので」


「そこなんだ、オーレリア。……もし、突破する必要が無くなったら?」


「それは、どういう……」


「自然災害の可能性を考えてる。乾燥して火災が発生したり、森林に雷が落ちて、そこから火が燃え広がったり。可能性としてはあり得るだろ?」


「! 確かに、もしそうなれば……大変なことになりますね」


 オーレリアは俺の言葉に驚きつつも、納得したようだ。


「くくっ。 オーレリアよ、我が夫の用心深さに驚いただろう? ……だが、その可能性を考えて対策を講じておく必要はあると思った。レイラ、お前はどうだ?」


「……ええ。その話を聞いて、ますます海軍の必要性をハッキリと理解できましたわ。すぐに海人を集めて、具体的な行動に………」


 レイラはそこで黙ってしまい、動かなくなった。

 なんだろう。何かが気になるようで、ある一点を見つめているようだった。


「ん? どうした、レイラ。どこか具合でも悪いのか?」


 グラーネに心配されたレイラは、こほんと咳払いをしてから、申し訳なさそうに言った。


「……そ、その、オーレリア。あなたの、その、お胸が……」


 俺はついオーレリアの方を見てしまって──理解した。

 彼女の体質により、胸の部分が母乳で濡れてしまっていた。


「……あっ! もう、やだ……どうしてこんな時に……」


 オーレリアは両腕で胸を隠し、体を丸めてしまった。


「ふむ。これは、町で替えの服を調達する必要があるな。私が買ってくればいいのか? だがまず、体を拭いてからがいいような……」


 グラーネもどう対応すればいいのか、考えているようだった。


 そこで俺は、オーレリアと出かける時の為に用意していた物の存在を思い出した。

 腰の鞄からケープを取り出し、オーレリアに渡した。


「……その、オーレリア。とりあえずこれを羽織って、宿屋にでも行こう。そこで体を拭いている間に、グラーネに服を買ってきてもらうってのはどうだ?」


「あら! 機転がきくわね、ソウマ。用意もいいし、良かったじゃない、オーレリア」


「は、はい……。ありがとうございます、ソウマさん」


 オーレリアはケープを羽織り、落ち着きを取り戻したようだ。


「うむ。ソウマ、よくやった。……レイラ、どこか適当な宿屋を紹介してくれるか? 一応、宿の店主は女だといい。その方が、色々と気を利かせてくれるだろうからな」


「ええ、もちろん紹介してあげましょう。……そうね、あの宿がいいかしら」


 俺達はレイラに紹介された宿に向かった。

 変わり者の女将がやっていて、結構繁盛しているらしい。 

 ここまで読んでいただき、有り難うございます。


 もし宜しければ、ブックマークや星評価などして頂けたら小躍りして喜びます。

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