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15話 下準備と、現状の確認を②

 勿論、花火の方は副産物だ。

 銃弾に使う火薬や、爆弾の開発が目的でこの研究をさせている。


 ただ、どうしても軍事目的だけでは、研究を続けるのは難しい。

 他国を欺くという意図もあるし、研究に関わる者達の精神的なダメージを和らげる意味もあった。


(……ここは重要な施設だし、そろそろこの施設の近くに適当な理由を付けて、泊まり込みで警備の兵を配置しないとな)


 その辺りは、少し不用心だった。

 帰ったらグラーネと相談しよう。


「そういえば、試しで作った花火がある。せっかく視察に来たんだ、お前さんたち、打ち上げるところを見てから帰るか?」


「おっ、そりゃいいな。こんな所まで来たんだ、マモルも見ていくよな?」


「うん、そうだね。花火かあ……ちょっと楽しみかも」


「んじゃ、打ち上げてみるか。おい、馬鹿ども! 研究費を出してくれるパトロン様に、おもてなしの時間だ!」


 俺とマモルは外に出て、花火の打ち上げ準備を見守った。

 命知らずの馬鹿ども四人と、おっさんがてきぱきと動いている。


 やがて打ち上げ機を設置し、花火玉の準備も出来たようだ。


「よーし、お前たちはひとまず離れろ! ……そんじゃ、点火するぜ!」


 俺達は馬鹿ども四人と一緒に、おっさんが点火するのを待った。  

 じっ、という音がして、おっさんが一目散にこちらへ逃げてきた。

 

 すると──大きな音と共に花火が打ち上がり、上空200メートル程の高さで破裂した。

 灰色の煙と共に、ぼんやりとした白い光が空に滲んだ。

 打ち上げ自体は、成功とみていいだろう。


「ふーう。……んで、どうだった?」


 研究にたずさわった彼らの視線から、感想を求められているのが分かる。

 地味な絵面ではあった。だが正直な感想を述べて、やる気を削ぐ事もないだろう。


「いや、かなり驚いたぞ。この調子なら、色の付いた花火を夜空に打ち上げられる日も遠くない。だよな、マモル?」


「えっ!? あっ、うん! 皆さん、凄かったです!」


 マモルも俺の意図に気付き、彼らを褒めてくれた。


「へへっ。やったな、お前ら!」


「ああ! こりゃ予算も増やしてくれるに違いねえ!」


「なるほど、今までの作り方だと……」


「ふうー! もっと爆発させたいですねえ!」


「よーし、もっと実験じゃあああ!!」


 うん。きっと、こいつらならやってくれる。……そう思いたい。


「……とりあえず大丈夫そうだな。じゃあ俺達はそろそろ行くよ。マモル、次だ、次」


「あっ、うん。それじゃ皆さん、無理せず頑張って下さい!」


 五人に見送られ、研究施設を後にした。

 施設を後にしてから、俺はふと平原の先に目をやった。

 そこにあるのは、広大な森林。マール大森林と呼ばれている場所だ。


 元はそこも平原だったそうだが、300年前にこの国が戦争に敗れた後、豊穣王が言い残したらしい。


《この地に大小様々な岩を運び、ただひたすら木を植えよ》と。


 それから数百年が経ち、立派な大森林が出来上がった。

 無数の岩が木々の間にあるため、兵が列を成して進軍するのは難しいし、攻城兵器の類を通すことも出来ない天然の要塞だ。


(《豊穣王》オーウェン……そいつの片腕シシリーが築きあげた中立国パルティーヤといい、大きな贈り物を残してくれた)


 この大陸の西端、東端には海岸が存在する。

 だがマール大要塞に連なる山々が大陸を塞ぐようにそびえ立っていて、その部分の海岸の幅は狭い。


 西側の海岸──つまりアドラー帝国側のその部分の海岸は湿地沿岸になっていて、兵を進めることが出来ない。

 これがマール連邦にとって、まさに天佑てんゆうとも呼ぶべき加護となっていた。


 残念ながら東側、ノヴァリス神聖王国側の海岸は軍隊が通過出来てしまうが、通過した先にはマール大森林が待ち構えている。

 おかげで今の所は、マール大要塞の守備を固めれば問題無いという状況が続いている。


「ソウマ、何か考え事?」


「ん? ああ、悪いな。じゃあ、次はヨシト達のとこだな」


「うん。……ねえソウマ、たまには僕にも相談とかしてよね。まあ、頼りないかもしれないけどさ」


「はは、ちょっと心配させたか。もちろん必要な時は相談するから、安心してくれ」


 次は近場なので一度屋敷に戻り、馬を繋いでから視察に向かった。




 屋敷の近くにある生産拠点。

 俺達は早速、ヨシトとコタロウに会いに行き、お目当ての物の進捗を聞いた。

 拠点の一角にある、厚い土壁に囲まれた実験区画へと案内された。 


「さて、こいつが皆さんお待ちかね──試作型のライフル銃だぜ。弾は三発まで装填出来る。ちょっと試しに、俺が撃ってみよう」


 ヨシトとコタロウはサバイバルゲームが好きで、銃の構造に詳しい。

 俺とマモルも何度か参加させてもらったが、なかなか楽しかった。


「ああ、そうそう。弾の見た目は現代のライフル弾っぽいけど、中身はただの鉛の尖頭弾だ。銅とか真鍮を使えるようになれば、もっと本格的にできるんだけどな」


「そこが問題だよなあ。あっ! もちろん、銃身にはちゃんとライフリングも刻んであるぞ。手作業だけど……」

 

 コタロウは《鍛冶師》の神能を持っているので、金属の加工などは得意なのだろう。

 俺は二人の言ってる事がよく分からなかったが、努力している事は伝わった。


「なるほど、色々大変なんだな。じゃあマモル、俺達はもう少し離れよう」


「あっ、確かに! 危ないもんね」


「そうそう、そのくらい離れててくれ。……じゃあ、撃つぞ」


 コタロウは足を肩幅に開き、ライフルをしっかりと構えた。

 およそ100メートル先にある円形の的に、静かに狙いを定める。


 そして──引き金を引いた。

 乾いた発砲音が響き、的の端に小さな穴が空いた。


 コタロウは流れるようにボルトを引き、素早く次の弾を装填した。

 その一連の動きから、サバイバルゲームで培った経験だけでなく、この場所で何度も実験を重ねてきたであろう事が窺えた。


 再び狙いを定め、引き金を引く。

 今度は──的の中心に近い位置に、二発目の弾が突き刺さった。


「ふぃー。ま、こんな感じだぜ。あ、三発目はまだ怖いから勘弁してくれ。試作型って事で、な?」


 俺は思っていた以上の成果に驚き、思わず拍手をした。


「二人共、よくやってくれた。この調子で、いずれは最大五発まで装填出来るようにして欲しい」


「ひえー。……ソウマ、お前分かってるか? それがどんなに大変かって」


 ヨシトの避難がましい視線を受け流しながら、俺は他人事のように笑った。


「ははっ、一応な。でも最近、新しい耐熱レンガも出来たんだろ?  金は俺が出すから、それで──コークス、だったか? それを作って、高炉を作って……って流れか」


「ま、流れとしてはそうなるな。……ちょっと前まで高校生だった俺たちが、今じゃとんでもない事してるよなあ」


 コタロウは肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。


 「あ、あの! お忙しいところ、すみません! 皆さんに、見てもらいたい物があって……」


 そこへ、ある鉄人の若者がやって来た。

 彼は俺の友人達と共に、この生産拠点で様々な物を研究、開発している。


 俺は久し振りに顔を見る事が出来た彼に、軽く挨拶をした。


「やあ、デリンじゃないか。最近はずっと籠もりっきりだったみたいだが、また何か面白い物でも出来たのか?」


 デリン・モルグ。年は俺と同じで21才。

 小柄な鉄人の中でも彼は体格も控えめで、力仕事もあまり得意ではないようだ。

 だが頭の方はなかなかのモノらしく、鉄人の族長ダレルが密かに次の後継者として目に掛けているとのこと。


「はい、そうなんです! その、皆さんのお眼鏡にかなうかっていわれると、自信ないですけど……」


 デリンは自信と不安が入り交じったような顔をしている。

 俺は彼の能力を信頼しているから、これは期待が出来そうだなと判断した。


「へえ。じゃあ折角だし、俺たちで見に行こうぜ。デリン、お前は凄いんだから、もっと自信持とうぜ!」


「そうそう。俺も負けてらんないなーって、時々思ったりするし」


 コタロウとヨシトに褒められ、デリンは嬉しそうな顔をしていた。


 俺達はデリンの工房に移動し、彼の成果物と対面した。


「作ってみたのは、これです。ちょっと待って下さいね、ええと…うん、大丈夫かな。じゃあ、動かしてみますね」


 目の前にあるのは、木製の大きなからくりだった。

 拳銃のリボルバーのような物を設置してあり、その穴に壺をはめ込み、滑車とヒモで回すという造りだろうか。


 デリンが滑車を回すと、ごとごとと軋むような音を立てながら、六つの壺がくるくる回り始めた。

 やがて彼が手を離すと、からくりはゆっくりと動きを止めた。


「っとまあ、こんな感じです。……どうですかね、何かに使えないかと」


(……これ、つまり遠心分離機って事だよな? 凄いじゃないか!)

 ここまで読んでいただき、有り難うございます。


 もし宜しければ、ブックマークや星評価などして頂けたら小躍りして喜びます。

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