12話 ジンバールの子供達と、合流したクラスメイト③
グラーネ達の元へ戻った俺は、先に帰っていてくれと断りを入れた。
妻はニヤニヤした視線を俺に向けていたが、特に何も言わなかった。
遅くなるから夕飯はいらないと伝えているので、俺の足取りは緩やかだ。
季節は初夏であり、多少の暑さは感じるもののまだまだ過ごしやすい気温。
気候の関係か湿度もそこまでではないので、例え真夏になったとしても、日本の夏のような不快感はあまり感じず過ごせるのはいい。
生産拠点から15分程歩いたところで、俺の目的地である農場にたどり着く事が出来た。
幸いにも、用がある人物の一人はすぐ見つかった。
この農場の経営者であり、俺のクラスメイト。
「おーい、ミドリ!」
俺の声に気付いた彼女は、手を振ってから俺の元まで駆け寄ってきた。
「ふいー。どしたの、ソウマ君。……なーんて、あの子に会いに来てくれたんだよね? 案内するから一緒に行こうぜ」
「ああ、助かるよ」
西沢 翠。
《耕す者》の神能を持っていて、農業に関して大いに助けられている。
高校では帰宅部だったが、実家で暮らす祖父の農業を時々手伝っていたそうだ。
リヒトブリックで気の良い農家の元で住み込みで働いていたが、俺達が集まり始めている噂を聞き、一年半程前にマールに移住。
彼女は現在グラーネの屋敷では生活しておらず、ここの農場に建てた家で同居人と共に暮らしている。
「少しづつ暑くなってきたけど、ここは日本みたいに湿度高くないからいいよね」
「だな。……そういえばここでの暮らしで、何か問題はあったりするか?」
「んー? ……うーん……」
特に問題ないという返答を期待していたが、その反応からすると何かあるようだ。
「なんだ? 言い辛い事なのか?」
「いや、まあ……。とりあえず、後で話すよ。あ、ほら、いたいた。おーい、ターニャ! ソウマ君が来てくれたよー!」
ミドリの声にくるっとこちらを振り向き、農作業を中断した彼女はかなりの勢いでこちらへ駆けてきた。
「あ、あの、ソウマさん、こんにちはっ!」
「ああ。こんにちは、ターニャ」
ターニャはミドリの同居人であり、この農場一番の働き手。
セミロングの赤毛に緑の目をしていて、農作業で日に焼けた肌が健康的な印象の女性。
背は170より少し下くらいで、毎日の力仕事により体格もいい。
「そ、その。それで、ソウマさん。今日は、出来ますか? もう何日もしてないから、その……」
俺にしなだれかかり、甘えた声をだすターニャ。
いつもの事なのだが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
「あー、はいはい。とりあえず、今収穫できるやつは収穫しちゃおう。それが終わったら……ね?」
「本当ですか!? それじゃあ、早く仕事を終わらせないと!」
「んじゃ、三人で手早くやろうか」
「そだねー。さてさて、この子たちの状態は……うん、いい感じ。ソウマ君、収穫出来るやつの見分け方は前に教えたよね? 覚えてるかな」
「ああ、問題ない」
俺達は三人で手早くキャベツを収穫した。
そしてそれらを三つの大きな籠に入れ、三人で一つずつ背負い、倉庫まで運んだ。
「これでよし。それじゃ、一旦家に帰って休もうか」
家の側にある井戸水で手を洗ってから、ミドリ達が暮らす家にお邪魔した。
すると、玄関には既に靴が二つ。先客がいたらしい。
「お? なんだ、ソウマじゃないか」
「あら、ほんと? あはは、なんか賑やかになっちゃった」
「なんだ、ここに来てたんだな。センゾウ、ナナミ」
五十嵐 千造。
《建築家》の神能持ちで、デカい図体をしているが気は小さいという奴。
祖父が大工をやっており、跡を継ぐために早くから建築について学んでいたそうだ。
竹内 七海。
《料理人》の神能を持ち、ジンバール家でピーター達と共に厨房で働いている。
親が弁護士で勉強の毎日を送っていたが、小さい頃から料理に興味があったらしい。
センゾウはパルティーヤ、ナナミはリヒトブリックで活動していたが、俺達の話を聞いてマールへの移住を決めた。
俺とマモルを含めると、合計八人がマールに集まったことになる。
「今ねえ、ミドリちゃんたちが朝に収穫したトマトを料理してたの。ソウマ君も食べてみる?」
「おお、そりゃ助かるよ。今日は夕飯いらないって、グラーネに伝えてここに来たからな」
「あっ……な、なるほどね! うん、それなら良かった! いろいろ作ってみたから、食べてみてね。これと、これなんかは、冷めても美味しいやつだから」
「悪い、ソウマ。食べるの手伝ってくれ」
「ああ、任せとけ。意外に少食だもんな、センゾウは」
「おおー。今日はトマトパーティだね、ターニャ」
「ミドリさんが作ったトマトはとても美味しいので、毎日でも飽きないです!」
「……ターニャちゃん、それって私の料理は美味しくないってこと?」
「あっ、違うんです! ミドリさんのトマトをナナミさんが料理してくれるから、美味しいって話でっ」
「あはは、ちょっとからかってみただけだよ」
俺達はナナミが作ったトマトの創作料理を食べながら、世間話をした。
こちらの世界に来てから体を鍛えた影響で、食べる量が増えた。
筋肉が付いた分、体がカロリーを勝手に消費してくれるので問題ないが、この場にある料理では少し量が物足りなく感じてしまった。
屋敷に帰ったら、夜食を作ってもらう必要があるかもしれない。
「それじゃ、私たちはそろそろ帰ろうかな。センゾウ君、悪いけど野菜はお願いね」
「おう、任せとけ」
センゾウがトマトが詰まった籠を背負うと、ナナミと共にグラーネの屋敷に帰っていった。
「ふー。まだ早い時間だけど、お腹いっぱいになっちゃったよ。二人は大丈夫?」
「いや、俺は大丈夫だ。ターニャもそうだろ?」
「はい。ちょっとおやつを食べたかなって感じです」
「ひえー。流石、働き盛りの若者って感じ」
「お前も若いだろうが」
「なはは! 私は省エネで生きてるから、そんなには食べられないんだー」
三人でしばらく世間話をした。
だが、肝心の用事がまだ済んでいない。
俺は意を決し、ミドリに伝えた。
「……あー、それで、だ。いつものように、しばらく二階でいろいろ励むことになる。悪いな、ミドリ」
「うん、よろしく。ターニャの事、たくさん可愛がってあげてね。私はちょっと倉庫にいって、収穫したキャベツの様子を見てこようかな。それと、体を拭きたいなら表にある井戸の水を使っていいから」
ミドリが倉庫に向かい、家の中には俺とターニャだけになった。
とりあえず、井戸水を入れる為のタライが必要だ。
「なあ、ターニャ。タライってどこに──おわっ!?」
タライがどこにあるのか聞こうとして、ターニャの方を振り返った。
そこには既に全裸のターニャがいて、すっかり上気した顔で俺を見つめていた。
今にも飛びかかってきそうな雰囲気だ。
「ターニャ、落ち着こう。どこにもいかないから、な?」
「は、はいっ。 えっと、タライはこっちです。あと、手拭いも」
「ああ、助かった。それじゃあ俺は、外で水を汲んでくるから。ターニャは脱いだ服と手拭いを持って、先に部屋に行っててくれ」
「わかりました」
階段を上がっていくターニャの、形のいい大きな尻が目に入った。
俺の中の渇きが刺激されそうになり、さっさと外の井戸で水を汲む事にした。
(しかし改めて、とんでもない体付きだよなあ……)
水汲み自体はすぐ終わり、俺は夕暮れの空を眺めながらターニャとの出会いを思い返した。
彼女は元々、ヴォルック家の領地で農奴として働いていた。
両親と三人で暮らしていたが七年前、ジンバール家とヴォルック家の争いのすぐ後に、獣人の領土で疫病が流行ったそうだ。
ターニャの両親は亡くなり、彼女は一人きりになる。
そして以前からターニャをそういう視線で見ていた男達は、無気力になった彼女を好き放題に弄ぶ事にした。
そんな日々が数年続いたらしい。
ミドリがマール連邦にやってきて自分の農場を作った後、まず探したのは働き手だ。
自分の知識や技術を、マールに住む人々に伝えたい。
そんな思いで見込みのある人物を探しているミドリに、ターニャという存在が目に入った。
ミドリはオズワルドに直談判し、ターニャを買い取った。
しかし彼女は長年の不特定多数の相手との性行為により、心を病むと共に性行為にも依存するようになっていた。
ミドリはターニャを献身的に支えた。
その結果、彼女の精神はある程度の安定を取り戻すことが出来た。
それでも性的な行為への依存性は収まらず、ミドリが俺にターニャを任せたというのが大体の事情だ。
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