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12話 ジンバールの子供達と、合流したクラスメイト①

「攻撃が甘い! 適度に不規則な動きを混ぜるのです!」


 いつもの昼下がり。

 俺の渾身の連撃は、先程から当然のごとく躱されていた。

 こちらも特に当たるとも思っていなかったが、やはり空振りは体力の消耗が激しい。


 それでも成長を見せる為、自分なりの攻めを試した。

 少し粘った後は体を休ませつつ、今度はそっちの番だという仕草を相手に示す。


「うむ、体捌きは中々! では今度はこちらから!」


「ちょっ!? おっ! ぬぐっ! ひえっ!」


 稽古相手の、目にも止まらぬ連撃。

 俺は情けない声を出しながら、剣と盾で死に物狂いで防御を試みる。


 この世界に来てから三年の月日が流れたが、剣の鍛錬には時間を費やしてきた。

 走り込みも行い、体力と筋力はそれなりに付いたと自負している。

 だがそこはやはり、相手が悪い。


「そう、その調子だ、ソウマ! ほら、お前達も応援してやれ!」


「ちちうえ、がんばって!」


「おとうさま、そこよ!」


「とうさま、まけるなー!」


 木陰に置いたテーブルと椅子。

 そこから聞こえる妻と子供達の応援に、折れかけた闘志に再び火が灯った。

 集中力を極限まで高めた俺は、反撃の機会をひたすら待つ。


「ふっ!!」


 そして相手が見せた攻撃の切れ目を狙い、今日一番である会心の突きを放つ。

 だがそれは相手も読んでいたらしく、攻撃はあっけなく躱された。

 びたりと喉元に剣が突きつけられ、俺は降参のポーズを取った。


「ふーっ……どうだ? 今日は、それなりにやれていた気がするが」


「お疲れ様でした。ソウマ様、段々と体の使い方が上手くなってきましたな。私とあれだけ打ち合えるのであれば、人間相手にはそうそう遅れは取らないでしょう」


「そうか? お前がそう言ってくれるなら、多少は自信が付くよ。これからもよろしく頼む、ブルーノ」


 獣人けものびと、ブルーノ・デューラー。年齢は34で、背は190を超えている。

 黒髪に褐色の肌、淡い茶色の目。


 彼はもともとジンバール家で剣術指南役を務めていたが、ジンバール家がヴォルック家との争いに負けた事を契機に出奔。

 

 その後はパルティーヤ共和国の東にあるノヴァリス神聖王国で自ら剣奴となり、闘技場で己を罰するように日々戦いに明け暮れていたらしい。

 

 そんな彼の耳に、ジンバールの家に三人の子供が生まれたという噂が届く。


 生きる意思を取り戻したブルーノは、奴隷主に懇願。

 提示された金額の二倍を稼ぎ自由を勝ち取った彼は、再びジンバールの元へ馳せ参じたという訳だ。

 彼がジンバール家に帰ってきたのは一年前で、それ以来俺は彼の指導を受け日々腕を磨いている。


「少しずつ、構えがさまになってきました。この調子で鍛えていけば、三年後に行われるであろう武闘大会に出場しても、そこそこ勝ち上がれるのでは?」


「武闘大会か……。正直、あまり興味が無いな」


 必要だから稽古は欠かさず続けているが、そこは俺も日本生まれの日本育ち。

 他人と競うのは苦手だ。


 そんな事を思っていると、水の入ったグラスと手拭いを持ったグラーネが寄ってきた。グラーネと一緒に、子供達も俺の元へ駆け寄ってくる。


 俺はグラスと手拭いを受け取り、グラスの水を一気に飲み干した。

 すると二番目の子供、長女であるモニカが両手を差し出す。


「ありがとう、モニカ」


 空になったグラスを渡すと、モニカはそれを駆け足でテーブルに置きに行った。

 手拭いで汗を拭きながら、ブルーノと同じく剣の師匠である我が妻にも批評を求めた。


「どうだ、グラーネ。お前から見ても、俺はそれなりにジンバール流を使えるようになってきたと思うか?」


「ん? ああ、だいぶマシになってきているな。ブルーノの言う通り、人間相手なら十分に通用するだろう」


 ジンバール流剣術。

 グラーネの祖父であるサイラス・ジンバールが開祖である、獣人けものびとの身体能力を活かした剣術。


 サイラスは剣の他に槍と弓もかなりの達人だったらしく、グラーネとブルーノはサイラスから直接指導を受けていた。

 そして厳しい修練の結果、二人共サイラスから免許皆伝を許されたそうだ。


「最初の頃は、人間の俺がジンバール流を学ぶ事に意味があるのかと思ったけどな。二人のお陰だ」


「お前が普通の人間ならば、そもそも最初からジンバール流など教えていない。だがお前は召喚された人間で、神能と人能を持っているのだ。ならば身体能力も人並み以上になるだろうし、それならばと思ったまでの事」


「私も少々心配しましたが、剣もソウマ様の為に特別なものを拵えましたからな。このままジンバール流を学んでいく事に関して、特に問題は無いでしょう」


 身体能力は多少マシとはいえ、それでも俺は人間でしかない。

 なので、鍛錬用と実戦用に特殊な拵えの剣を二振りづつ、合計四本作ってもらった。


 普段は剣と盾を装備して戦うが、ジンバール流の特殊な構えを使用する際は剣を二本使って戦う為だ。


「ははうえ、わたしもはやくけんをならいたいです!」


「おれはぶるーのせんせいから、やりをならいたい!」


 自分の事を私と呼ぶのが長男のレオナルドで、俺と呼んでいるのが次男のユリウス。


 二人の息子達は、やはりこういった事に興味津々。

 年齢はまだ2歳であるにも関わらず、獣人特有の成長速度により体の方は人間換算で4歳ほどの大きさに成長していた。


 それでもやはり、心は2歳児なのだ。

 まずは情操教育が大事との事で、グラーネとしても二人に武器を持たせるのはまだ先だという考えを持っている。


「ふふっ。お前達はまだ体も弱く、ジンバール流を学ぶには少し早い。まずは沢山食べ、沢山遊び、沢山寝ることだ。分かったな?」


 不満な顔を見せるも、二人はグラーネの言葉に素直に頷いた。

 俺はモニカに対して話題を振ってみる。


「そういえば、モニカは何か武術に興味はあるのか? 剣がやりたいとか、槍に興味があるとかさ」


 グラスをテーブルに置いて戻ってきたモニカは、先ほどから草むらに座って花をつついて遊んでいた。


「うーん…ゆみならできるかな? おかあさま、おしえてくれる?」


「ああ、もちろんだ。……まあお前は絵本を読むのも好きだし、無理に兄や弟と同じ事をする必要はないぞ?」


「いや! わたしだってたたかえるわ、おにいさまやおとうとをまもるの」


「はっはっは! やはりモニカ様も獣人、ジンバールの女ですな!」


 豪快に笑うブルーノ。

 俺とグラーネは顔を見合わせ、お互いにやれやれという表情を浮かべた。


 別に大きくなったモニカを戦場に連れて行きたくないとか、そういう事を考えている訳ではない。

 二人の息子達と違い、モニカは少し大人びているというか、ませているような言動をする事が多々ある。


 それ自体は別に構わないのだが、問題は三人が大きくなってからだ。


 将来的にジンバールの家督は、レオナルドが継ぐことになるだろう。

 ジンバールの主を守る為にモニカが無茶をしないかと、俺達夫婦は早くも心配になっているのだ。


 ただの杞憂で終わればいいのだが、やはり今は無邪気な姿を見せてくれている方が安心出来る。


「そうか、モニカは偉いんだな……。でも、三人の中でお前だけ未だに乳離れ出来てないのは、どうなんだろうなって」


「あっ! おとうさま、ひどい! どうしてみんなのまえでいうの!? きらい、きらい、きらい!」


「す、すまん! 父さんが悪かった! モニカ、許してくれ……」


 ちょっとからかったつもりだったのだが、娘はわんわんと泣き出してしまった。

 ……子供に対する接し方は、本当に匙加減が難しい。


「はははっ! ほら、モニカ。もう泣くな。別にお前の事を馬鹿にしている訳ではないぞ? ただ、な? くくっ……普段は大人びた所を見せるお前が、未だにオーレリアの乳に夢中になっているのが面白くてな」


 グラーネはモニカを抱きかかえながら、思い出し笑いをしている。

 時々モニカはオーレリアの部屋に入って行き、やけに満足げな顔で部屋から出てくるのを目撃されている。


 以前、オーレリアからどうしますかと相談を受けたが、とりあえず今はモニカの好きにさせている。

 俺もグラーネも、いずれ自分から乳離れが出来る娘であると思っているからだ。


「ぐすっ……だっておーれりあのおっぱい、おっきくてふわふわで、きもちいいんだもん……」


 男としては、反応に困るモニカの発言。


 目が合ってしまった俺とブルーノは、お互いに気まずそうな顔をするしかなかった。

 本人がこの場にいないとはいえ、迂闊な発言は出来ない。

 それならば、いっそこの場から退散するのもありだろう。


「あー……父さんはちょっと、友達の所に行ってこようかな」

 ここまで読んでいただき、有り難うございます。


 もし宜しければ、ブックマークや星評価などして頂けたら小躍りして喜びます。

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