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8話 マールの未来③

「リヒトブリックの王が味方になるのであれば、心配は要らぬかもしれんな。族長会議の時間に間に合うかどうかが重要じゃが……」


「心配する必要は無いのではなくて? 仮に私達だけでソウマ達に対し、黒と裁定を下したとしましょう。その後にルガール国王陛下がやってきて、それは白だと主張する。私達が逆らう事が出来るのかしらね? 我らは族長だと偉ぶっていても、その権威は他国に対して余りにも無力なのが現状でしょう?」


「……結局、茶番でしか無いという訳かのう。じゃがまあ茶番で済むのであれば、それはそれで由とすべきなのだろうな。お前達、他の族長達からの追求に対する答弁をしっかりと考えておくのじゃぞ」


 二人には族長としての苦悩や悲哀は有るのだろうが、事は良い方向に運ぶ可能性が高い。

 あらかじめ結論が決まっているなら、あとはどう取り繕い、どうやり過ごすのかという話だ。割り切ってもらうしかない。


「エリノアとの打ち合わせは出来ないが、あいつも馬鹿ではない。ソウマ、心配する必要は無い。だが族長会議が終わるまでの間、気を抜かずにな」


 グラーネの抱擁に身を任せながら、もう一度気持ちを奮い立たせた。


「ああ、勿論だ。ダレル、レイラ、本当にありがとう。今回の件が上手くいったら、また改めて礼を言わせてくれ」


「我々からの追求があるとすれば、厳しくない事柄にしておきますのでご心配なく。お礼の言葉も結構ですけど、他にも色々と期待させて頂きますわね」


 早朝の密会は終わった。

 後はもう、最上の結果を勝ち取るだけだ。




 そしてついに、族長会議当日。


 場所はマール連邦のほぼ中央に位置する会議場で、見物人などはいない。

 閉じられた空間で行われるのが慣例のようだ。俺とグラーネは既に会議室に到着し、着席していた。

 付き人としてタリアとアルゴルとモリスの三人に来てもらったが、二人は会議室の外で待機している。


「……不安か?」


「ん? まあ、少しな。それでも、ルガール国王陛下が会議に出席してくれるそうだからな。なんとかなるんじゃないか?」


 ルガール国王陛下は昨日マール連邦に入国し、エリノアの屋敷に泊まったそうだ。

 最初から会議に同席してくれるのなら、エリノアに対する追求はそれほど厳しいものにならないかもしれない。


「む。この足音の数は……エリノア達も到着したようだな」


 暫くすると、会議室のドアが開いた。

 入ってきたのはライエル、アルマ、エリノアと、豪奢(ごうしゃ)な衣服に身を包んだ男性だった。

 おそらく、彼がルガール国王陛下なのだろう。


「ソウマ。挨拶に行くぞ。挨拶はまあ、それらしく丁寧に言っておけ。私の真似をしてもいい」


「あ、ああ。くそっ、練習しとけばよかったな……」


 俺達はルガール国王陛下の前で跪き、挨拶をした。


「お久しぶりです、ルガール国王陛下。この度は私の不躾な願いを聞いて下さり、誠に感謝しております」


「は、初めまして、ルガール国王陛下。ソウマと申します。こ、この度は拝謁の機会を賜り、誠に恐悦至極に存じます」


 国王陛下からの視線を感じるが、頭を下げているので表情を見る事は出来ない。

 怒っているのか、呆れているのか、そもそも何も感じていないのか。

 何か、かちゃかちゃと音がする。一体何をしているのか。


「二人とも、楽にしてくれ」


 グラーネが立ち上がるのを見て、俺も立ち上がる。


 金髪に青の瞳で、背は俺より少し高いくらい。年は50代半ばだろうか。

 意気軒昂とした表情で、威厳に満ちあふれている。

 そして側にはアルマが跪き、国王陛下が外したであろう複数の指輪を捧げ持っているのが分かった。


 ……なるほど。これから行われるのはつまり、そういうお約束的なものなのだろう。


「グラーネよ、久し振りだな。そなたが機転を利かせてくれたおかげで、我々もリヒトブリック国内での立ち回りが楽になる。礼を言うのはこちらの方だ」


 グラーネは国王陛下と固い握手を交わした。

 以前から交流があるのか、特に気後れした様子はない。


「……さてさて。そして君がソウマか。ふうむ……」


 俺の前に立ち、真っ直ぐに俺の目を見据える。目を逸らす事は許されない。

 俺がエリノアにした事を考えると、それは当然だ。

 しばらくそうしていると国王陛下は俺に対し、にこりと微笑みかけた。

 突然の表情の変化に気が抜けた瞬間──


「!?……っ」


 指輪を外した右手で、ばしりと頬を叩かれた。

 視界の端には、意地悪な笑みを浮かべたアルマがいた。ライエルはざまあみろと言いたげな表情。

 エリノアは子煩悩な父親に対して、やれやれといった表情を浮かべている。


「父親として、やっておくべきだと思ってな。許せ。……君はエリノアが盟友と認めた男だ。どうか、あいつの支えになって欲しい。我々も君を支え、助けよう」


 握手を交わし、抱擁を受ける。

 ──その瞬間、俺の中の何かが決壊した。


「ソ、ソウマくん!? どうして泣いてるの!?」


 先ほどまでの意地悪な笑みが消え、俺の様子を心配するアルマ。

 エリノアも驚いた顔をしている。


「ははっ……申し訳ありません、国王陛下。多分俺は、貴方に嫌われたり、憎まれたりするのが、怖かったんだと思います……」


 ボロボロと零れる涙でぼやける視界。

 声を押し殺しながら泣く俺が落ち着くまで、国王陛下は何も言わずに抱き締めてくれた。


「さあ、これで涙を拭いてくれ。君とは話したいことが沢山ある。まずはこの場を切り抜けるぞ」


 それぞれが席に着き、後は族長達を待つのみとなった。

 国王陛下から受け取ったハンカチで涙を拭いていると、グラーネから声を掛けられた。


「ソウマ、お前は天性の女たらしだな。今私が繁殖期の最中だったら、今晩お前を寝室まで引きずり込んでいたぞ? 女は男のああいう涙に弱いのだ」


「……ああ、そうかよ」


 泣き腫らした目でじろりとグラーネを睨んだ。彼女なりの励ましなのだろう。

 少し落ち着いた俺は、会議が始まるまで目を閉じ待つことにした。

 なぜなら、エリノアと目を合わせるのが恥ずかしかったからだ。

 ここまで読んでいただき、有り難うございます。


 もし宜しければ、ブックマークや星評価などして頂けたら小躍りして喜びます。

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