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7話 盟友オーレリア③

「うん、そうだな。ソウマ、お前はしばらくここにいろ。私が先に行って、何か上に着させてくる。……おーい、オーレリア! 私だ、グラーネだ! 今日はお前に紹介したい男を連れてきたから、とりあえず服を着てくれ!」


 グラーネから合図を貰い、気恥ずかしさを隠しながらオーレリアの元へ向かった。


「やあ、初めまして。君がオーレリアだよな? 俺の名前はソウマ。よろしく頼む」


「初めまして、オーレリア・エリオットと申します。ソウマさん、よろしくお願いしますね」


 綺麗な長い茶髪で、背は俺と同じくらい。

 体全体に戦うための筋肉が付いているのが、服の上からでも分かった。

 しかしそれでいて、女性らしい体のラインも両立しているという体型。

 獣人特有の動物由来の耳は勿論、牛のような角が生えている。

 そしてグラーネから聞かされていた通り、蝋で焼かれた両目は白く濁っていた。


「うむ、挨拶も済んだな。早速本題に入ろう」


 グラーネは姿勢を正すと、静かに続けた。


「オーレリア、私はつい最近ソウマと結婚したのだ。結婚式は明日、ウェヌスの神殿で執り行うことになっている」


 唐突な報告に、オーレリアの眉がわずかに跳ねた。


「……おめでとう、グラーネ」


 彼女は少し笑って頷く。


「急な話で驚いたけど、あなたが選んだ人だもの。ソウマさん、グラーネをよろしくお願いします。……ところで、結婚式は私も出席してもいいのかしら? その場合、服はあなたから借りることになりそうだけど……」


 冗談めかすように言いながらも、どこか遠慮がちだった。


「ああ、勿論だ。是非、出て欲しい」


 グラーネはしっかりと頷き、表情を引き締めて続けた。


「そしてオーレリア、急な話だが、お前の立場についてヴォルック家から沙汰が下った。お前がいない場所で決まったことだが……聞いてくれるか?」


 オーレリアは静かに息を呑み、わずかに頷いた。


「……ええ。聞かせて、グラーネ」


「ヴォルック家からオーレリアに恩赦が与えられ、今日からお前は自由の身となった」


 グラーネの声には、普段の様子とは違った慎重な硬さがあった。


 「――そんなお前に、私から一つ、お願いがある」


 友に対する言葉を選ぶように、静かに続けた。


「いずれ生まれてくる子供のために、我が屋敷で乳母として働いてもらえないか?」


 オーレリアは暫し考え込み、口を開いた。


「……あなたの結婚といい、今日は驚く話ばかりね。私としては、ヴォルック家にそんな決断が出来るとは思えないのだけど……」


「ははっ、勿論そうだな」


 グラーネは苦笑しながら頷いた。


「だがまあ、そこは私とソウマが周りを上手く利用したのだ。後日、正式な書類も届くことになっている。――屋敷で働くことについてはどうだ? 勿論、お前が嫌だというなら諦めるが……」


 オーレリアは視線を落とし、言葉を探すようにしばし黙り込んだ。

 やがて彼女は顔を上げ、それが肯定の意であると分かる、穏やかな笑みを浮かべた。


「他に行く当ても無いし、お世話になろうかしら。乳母としてなら……私の体質も、少しは役に立つかもしれないわね」


「体質」という言葉に引っかかりを覚えたが、首をかしげるだけに留めた。

 プライベートな話だろうと思い、あえて聞くことは(はばか)られたからだ。

 そんな俺の様子に気づいたのか、グラーネがオーレリアの体質について教えてくれた。


「まあ後で分かる事だから、ソウマには教えておこう。オーレリアは今までずっと純潔のままでいるが、ある時期から母乳が出るようになってしまったのだ。医者に診せてもどうにもならんし、今の所健康面で悪い影響が出ている訳ではないらしいがな」


 グラーネが淡々と語ったそれは、あまりに私的で、反応に困る話だった。

 何とも言いようのない体質を知って、俺はただ口を閉ざすしかなかった。

 オーレリアが小さく息を吐いて、少し困ったように笑った。

 

「はあ……。服がよく濡れてしまって、困っているのですけどね。仕方がないので、定期的に自分で絞っては捨てているんです。でも、そのせいか小屋の周りがちょっと、あの……乳臭いというか……」


 もちろん凝視するわけにはいかないが、目のやり場に困るほどには、服越しでも彼女の胸の大きさがわかった。

 胸が大きいというだけで、不便なことも多いだろう。そのうえ、母乳まで出るとなれば尚更だ。


 変に意識してしまわぬように、セクハラにならぬように、できる範囲で彼女を支えようと心に決めた。


「うむ、オーレリアも特に異論は無いようだな。あとは屋敷に着いてから話そう。……ソウマ、森を出るまでオーレリアと手を繋いでやれ。お前の馬は私が引く」


 意地悪そうな笑みを浮かべたグラーネは、俺から手綱をひったくった。

 両手が空いた俺は、少し気恥ずかしさを感じながらも、オーレリアに手を差し出した。


「あー……その、転んだりしたら危ない。少しの間だけ、我慢してくれ」


「……まあ。ふふっ、有り難うございます、旦那様」


 女性二人にからかわれては敵わない。

 手汗よ止まれと心で念じながら、俺たちはゆっくりと森を後にした。

 そして森を抜けた後は、馬上でオーレリアが俺の背にしがみつく――そんな帰路が待っていた。

 ここまで読んでいただき、有り難うございます。


 もし宜しければ、ブックマークや星評価などして頂けたら小躍りして喜びます。

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