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4話 たどり着いたマール連邦と、それぞれの役割②

「はあ、もういいわ。じゃあ、次はあなたね」


「初めまして、イライザと申します。困ったことがお有りでしたら、何なりとお申し付け下さいませ」


 赤茶色の前髪を真ん中で分けていて、後ろの髪は団子形にひっつめている。

 目の色は青で、そして何より背が高い。

 俺の身長は170前半だが、彼女はおそらく180近い。体格もよく、戦闘にも長けているのではないだろうか。


「そうそう、こういうのでいいのよ。それじゃあ……あなた」


「……ウルスラよ。よろしく。以上」


 黒い髪のショートヘア。目の色は薄い紫か? 確か相当珍しいはず。

 背は低く、150くらい。華奢ではあるが、薄っすらと筋肉がついているのが分かる。


「……ウルスラ。あなた、後で私の部屋に来なさい」


「な、どうしてですか!? 私がダメなら、アルマだって」


「姫様! 先ほど、ウルスラが種馬さんにとても失礼な態度を取っていました!」


「アルマ! お前、なに告げ口してんだよ!」


 途端に口調が荒くなるウルスラ。ざまあみやがれ。


「いい加減にしなさい。あなた、どこまで私に恥をかかせれば気が済むの?」


「……申し訳ございませんでした」


 よく見ると、ウルスラは目に涙を浮かべている。

 流石に気の毒になってきたので、助け舟でも出してやろう。


「ええと、エリノア王女。多分その子は、王女の事を物凄く敬愛しているんだと思うんだ。だからこそ、俺の存在が許せないんじゃないかな? その、まあ、俺の役割というかさ……」


「うわ、種馬くんってば優しい! 嫌っていた人間に手を差し伸べられたウルスラの心境は如何に!?」


「アルマ、あなたは黙ってなさい。……ウルスラ、そういう理由で失礼な態度を取ったの?」


「……はい。だって、あまりにも姫様が可愛そうで……」


 ボロボロと涙を流すウルスラ。

 それを言うなら俺達だって負けず劣らず、十分に可哀想な立場だと思うが。


「馬鹿ね。それが私に出来る役割なのだから、あなたが気にする事は無いわ」


 王女はウルスラを抱きしめ、頭を撫でている。


「うっ、うっ、ぐすっ、ひめさまぁ……」


「……俺達は一体何を見せられてるんだ?」


 ライエルがぼやきたい気持ちも分かる。

 だがまあ、いいじゃないか。雨降って地固まる。

 こうして、王女と侍女の絆はより一層深まりましたとさ。


「……あの~、姫様。一応私も挨拶したいな~、なんて……」


「あっ! そ、そうね。さあ、どうぞ」


「こほん……初めまして、エメリンと申します。お料理が得意です。食事の際は皆さんに楽しんでいただけるよう、精一杯頑張りますね~」


 金髪に緑の目。背は女性としては高く、170くらいか。

 料理をするという事で、帽子を被っているのだろう。

 帽子からはみ出ている髪から、彼女がくせっ毛である事が分かる。

 料理といえば力仕事から逃れることは出来ないが、彼女は十分に重労働に耐えうる体型だ。


「……ふう、ようやくこちらの挨拶が済んだわね。それじゃあ、あとはあなた達二人の番よ」


「はい、えっと、僕は杉下……あ、そうか。マモル・スギシタと言います。《盾》の神能を持ってるらしいんですけど、ジークベルト王子に捨てられちゃって。偶然ライエルさんに拾ってもらって、ここまで来てしまいました」


「まあ! 盾の神能といえば、とても強い神能だと古い書物で読んだことがあるわ。お会いできて光栄よ」


「こいつ、ジークベルト王子が大嫌いらしくって。神能の力が発動しなかったらしいですよ」


「ちょ、ライエルさん! 別に僕は嫌いだなんて」


「じゃあ、好きなのか?」


「……それは、ちょっと」


「とりあえず、俺が挨拶して終わりにしよう。ソウマ・タケダ。よろしく頼む」


 挨拶の時間が随分と長引いてしまった。これくらいでも許されるだろう。


「ソウマ。あなたには《種馬》の神能を持つ人間として、我々に協力してもらいます。よろしいですね?」


「脱獄させてもらった礼もあるし、可能な限り協力するつもりだ。……あ、ていうか、言葉遣いが……」


「……お前は本当に、どうしてやろうか」


 殴られはしなかったが、ライエルに足を踏まれた。

 ヘクトル王子に続きエリノア王女もとなると、流石に堪えがたいのだろう。


「言葉遣いに関してですが、ここにいる間はそのままで結構です。ライエル、ソウマの足を踏むのを止めなさい」


「……仰せのままに」


 鈍い痛みから開放されたので、まずはこちらの正直な気持ちを伝えておく。


「すまない、ヘクトル王子の時と同じ言い訳をさせてもらう。無理やりこんな世界につれてこられて、友人も何人かが耐えきれずに自殺している。その原因を作ったあなた達に、好意的な感情を持つのは難しい」


「それは……分かるかも」


 マモルにもそういう気持ちがあるのが分かり、少し安心した。

 そういう感情を見せない友人だからだ。


「あなた達には、本当に申し訳なく思っています。勿論、自ら命を絶ってしまった方達にも。王家の人間として、私に出来る事は可能な限りさせて頂きたいと思っています」


「その辺りはまあ、そのうち話そう。……それで、一番大事な話だ。俺達は元の世界に帰れるのか?」


 意識して、考えていなかった事。いつまでも向き合わずにいるわけにはいかない。


「……私が今まで読んできた過去の書物の中に、そのような事例は確認出来ていません」


 そして帰ってきたのは、予想通りの答え。


「だとよ、マモル。俺達の夢も、将来も、人生も、全部ぶち壊されたらしい」


「……うん。まあ、そんな気はしてた」


「だよなあ……」


 ここまでくると、怒りさえ消え失せてしまう。

 圧倒的な事実の暴力に、俺達に出来る事は何も無いのだから。


「ねえ、ソウマくん、マモルくん! 私達に出来る事、やって欲しい事とかあるかな? 精一杯お世話させてもらうよ!」


 彼女の物言いに少々苛つきを覚えたが、同時に有り難いと思った。

 どうせ、このままじゃ何も進まない。この重い空気を変えさせてもらおう。


「本当に何でもいいのか?」


「う、うん! ……確か今日の下着は、ちゃんと大丈夫なやつだし!」


「ソ、ソウマ? え? まさか君……」


「……マモル、そんな訳ないだろ」


「だ、だよね」


 俺の、俺達のさしあたっての要求は。


「とりあえず、風呂に入りたい。飯を食って、温かいベッドで眠りたい。それくらいはいいよな?」


「……うん! 私達にお任せあれ、だよっ!」


 とびきりの笑顔でアルマは応えてくれた。




 逃避行の末、俺達はエリノア王女の屋敷で生活する事になった。


 まずは体を綺麗にしようという事で、風呂に入っている。

 先にマモルが入った後、また新しくお湯を張ってくれた。


 髭に関しては、当然剃刀で剃るしか無い。

 だが俺とマモルは剃刀を使った事が無かった為、アルマに剃ってもらうことにした。

 先にマモルが剃ってもらっていたが、顔は傷一つ無い綺麗な仕上がりだった。


「ふうー……やっぱ風呂には入らないと駄目だな。これがあるだけで、大抵のことはどうでも良くなる」


 この世界に来てからの理不尽や不条理も、風呂には勝てない。

 我ながら単純な奴だと思いながら、お湯の温かさに幸せを感じていた。


 ……しかしまあ、それにしても。


(これ、神能の力が影響してるのか? 別に大きさには困っていなかったんだが)


 俺はお湯の中の、体のある部分に視線をやった。


 もともと、その部分のサイズに関しては特にコンプレックスを感じた事は無かった。

 それどころか修学旅行の際にはサイズに関して褒められたり、からかわれることもあったくらいだ。


 そんな事を思っていると、浴場のドアがノックされた。


「おーい、ソウマくん。今のうちにお髭を剃ろうと思うんだけど、入ってもいいかな?」


「あ、ああ。なんだ、アルマか。別に髭を剃るのは、風呂から上がった後でもいいんじゃないか?」


「うーん。他にも仕事があるから、出来れば今剃らせて欲しいなあって」


 確かに、この屋敷の中を四人の侍女でどうにかするとなると大変だ。

 裸を見られる恥ずかしさはあったが、ここは侍女のスケジュールを考え俺の方が折れるべきだと判断した。


「それなら仕方ないな。さっさと済ませてしまおう」


 俺がそう答えた途端、ドアが勢いよく開かれた。


「わーい! 若い男の子の裸が見放題じゃー!」


「アルマ、仕事中なのよ。静かにしなさい」


 うきうきした表情でやって来たアルマと、どこか楽しそうな顔をしているイライザ。

 二人共、仕事の時間だという事を忘れているような様子だった。


「なっ! いや、ちょっと待て! なんかお前達の布面積、減ってないか!?」


 明らかにそうだ。屋敷の玄関で着ていた給仕服とは違っていた。


 腕の部分は二の腕から先が露出しており、下はスカートの丈が太股の真ん中辺りまでしかない。

 これではまるで、そういう感じのお店に来てしまったような。

 未成年なので、勿論行った事は無いが。

 ここまで読んでいただき、有り難うございます。


 もし宜しければ、ブックマークや星評価などして頂けたら小躍りして喜びます。

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