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4話 たどり着いたマール連邦と、それぞれの役割①

 追っ手を撃退してからのマール連邦への旅路は、順調そのものだった。

 パルティーヤで雇った護衛は、ライエルの昔なじみの者達。

 今回の作戦が立ち上がるとライエルがすぐに手紙を送り、待機してもらっていたそうだ。


 荒くれ者のような見た目とは裏腹に気さくな人達で、食事やトイレ、睡眠も第三者に見つからぬよう協力してくれた。

 流石に移動中はまた追っ手が来るかもとのことで、御者台に押し込まれる事となったが。


 あれよあれよという間に馬車はマール連邦の入り口となる、マール大要塞の門前まで来ていた。

 当初は14日の予定ではあったものの、結果として17日でここまで来れたのは上出来だろう。


 マール大要塞に関しては、道中の会話の中で話題になっていたので少しだけ知っている。山と山の間を長大な壁で無理矢理塞いだ、大陸の中でも屈指の要塞らしい。

 ある程度自由に動けるようになったら、是非とも見学してみたいものだ。


 そろそろ要塞の門に着く頃合いだ。いつも通り、横の板を少しだけ空けた状態で大人しくしておこう。


「お前達、そこで止まれ!」


 門番の命令に従い、馬車は停車した。


 この要塞は門が二つあり、俺達が使うのは旅人や観光客、商人や要人等が通過する為の大きな通路に繋がる門だ。


 ここまでの道中でマール大要塞の話題が出た時、なぜ門が二つあるのかライエルに聞いた。

 要塞の肝心な部分を外部の人間に見せる訳がないだろ、と至極全うな理由を聞かされ納得したのを覚えている。


「ふむ。騎士らしい男と、ごろつきのような見た目の男が数人。馬車の後ろには小太りの男、と。お前さん達、何しに来た?」


「たまにこの国には来てるが、知らない奴もいるよな。俺はライエル・クリーヴ。リヒトブリック王国で護衛隊長をやらせてもらっている。マール連邦で療養しているエリノア王女に、物資とルガール国王陛下の手紙を届けに来た。」


「なるほど。いくら王族の関係者といえど、荷物は確認させてもらうぞ。……おい、俺達二人で確認しよう」


「お? ああ、そうだな。その方が早いか」


 門番の二人が荷台の方へ行き、荷物を調べ始めた。 

 

「えっ! ちょ、ちょっとライエルさん!? その、あの人達、人間じゃないですよね……!?」


「あん? ああ、そうか。マモルは鉄人(てつびと)を見るのは初めてだよな。一応パルティーヤにもいるみたいだが、まあ宿にずっといたからな……。マール連邦は鉄人だけじゃ無い。いろんな種族が住んでて面白いぜ?」


 異世界モノといえば異種族が出てくる作品が沢山あるが、ようやくそのような存在と出会えた。

 ただ残念ながら俺は今、彼らの容姿を確認する事が出来ない。


 荷台を調べ終えた門番達が定位置に戻っていくようだ。


「よし、荷物の方は問題無さそうだ。ええと、ひい、ふう、みい……六人で入国という事でいいか?」


「いや、このガラの悪い四人は護衛で来てもらっただけなんでね。入国は俺と荷台にいるこいつ、二人だけだ」


 分かってはいたが、やはり俺は密入国扱い。

 あまり厳密に出入国を管理している感じではなさそうだが、心情的には後ろめたい気持ちになってしまう。


「このまま、お前達二人でエリノア王女の屋敷に滞在という事か」


「ああ。だが、その前にエリノア王女に早馬を頼みたいんだ。頼めるか?」


「金さえ払ってもらえれば問題無い。手紙でも渡すか?」


「いや、口頭でこう伝えてもらうだけでいい。『荷物は二つ』、だ。覚えたか?」


「簡単だな、いいだろう。おい、そこのお前!

 『荷物は二つ』だとよ! エリノア王女様の屋敷までお使いだ! 大至急だぞ! ああ、ついでに開門だ!」


 多分、壁の上にいる見張りに呼びかけているのだろう。鈍い音と共に、門が開く音が聞こえてきた。


 ゲームや小説で早馬という単語は聞いたことがある。

 そのまま屋敷に到着した時に伝えればいいのではと思ったが、やはり王族としてのメンツがあるのか。


 恐らく、荷物というのは俺とマモルの事。

 応対の準備は可能な限りしておきたいという事情はあるはず。

 俺としてはまともな食事は勿論の事、一刻も早く風呂に入りたい。


「んじゃまあ、お前らとはここまでだな。世話になった。ありがとよ」


「あばよ、ライエル。簡単な仕事で稼がせてもらったぜ」


 護衛の皆と軽い別れの挨拶を済ませ、馬車は走り出した。


 いよいよマール連邦に入国。

 脱獄してから20日もかかっていないが、ここまでの旅は本当に長く感じた。

 勿論、この国で安全に暮らせるという保証はどこにも無い。


 それでも俺には友人が一人、側にいてくれるのだ。

 あの日再会する事が出来ていなければ、俺は随分と心細い思いを抱えていただろう。


「予定としてはこのままゆっくり、屋敷までだ。お前ら、喜べ。早馬が着いたら、侍女達が大急ぎで飯と風呂の準備を始めるだろうぜ」


「うわあ、嬉しいなあ! ……でもまあ、こんな格好じゃ屋敷に入れたくないですよね」


「はは、確かにな! ……っていうかマモル、そうなるとお前の服が必要じゃねえか。仕方ねえ、どっかで買っていくか! 多分、お前が着られる服が屋敷にはない」


「あはは……すみません」


 寄り道になってしまうが、別にそれで損をする人間はいない。

 むしろ、エリノア王女の権威を傷つけまいとする良い行いだ。

 屋敷に滞在する客人の服がありませんでした、などあってはならない事。


(この世界じゃ、今まで以上に他人の動向や意図を気にしながらやっていく必要があるな……)




「おっ、屋敷の門は開けてあるみたいだ。お前ら、綺麗な侍女の皆さんがお出迎えだぜ!」 


 マモルの服も調達し、ようやくエリノア王女の屋敷にたどり着くことが出来た。

 やがて馬車は速度を落とし、屋敷の敷地内で停車した。


「長旅、お疲れ様でした! ……ライエル隊長、その子が噂の?」


「久しぶりだな、アルマ。いや、こいつは種馬の友人だよ。肝心の種馬は、俺のケツの下さ」


 ライエルは御者台を叩き、俺の存在を示した。


「おおっ、そんな所に! っおっと、その前に。イライザとウルスラは門を閉めるついでに、辺りに人がいないか見てきて。エメリンは姫様にお知らせしてきなさい」


「「了解」」


「わ、わかりました~」


 多分アルマって人が侍女のまとめ役なんだろう。

 やっと、この狭い場所ともお別れ。


 だがしかし、今の薄汚れた姿を異性に見られるのは気が引ける。

 ……いや、別に堂々としていれば良いのだ。

 利害の一致はあるものの、そもそもが向こうの都合でここまで連れてこられたのだから。


(でも、匂いがなあ……)


 こればかりは理屈の話ではないのだから、どうしようもない。

 マモルを見習って少しでも愛想良く振る舞えば、いくらかマシな印象を与えられるかもしれない。


「アルマ、辺りに人はいないみたいよ。ふふっ。それじゃあ、いよいよ種馬さんのお披露目ね?」


「……ちっ」


「おいおい、ウルスラちゃんよお。まだ顔も見せてないのに、その態度は流石に可哀想じゃないか?」


「別に。種馬なんて、いやらしいだけでしょ」


 ……どうやら、存在しているだけで許されないようだ。

 それならいい。開き直って、いつもの俺でやらせてもらう。


「そんじゃいくぜ……? なんとこいつが! 噂の種馬君だっ!? ……てめえ、さっさとツラ出しやがれ」


「……どうも、種馬です」


 思いっきり半笑いで、卑屈な挨拶を披露してしまった。

 もう、どうでもいい。なるようになれ。


「お、おお……。なんか、元気ないねっ!」


「アルマ。彼は今までずっと大変な思いをしてここまで来たのよ? きっと凄く不安なのよ」


「……最悪」


(こいつ、ウルスラだったか? はあ、色々と面倒そうだな)


 ただまあ、一応俺も客人という扱いな訳で。

 向こうも配慮はしてくれるだろう。そのうち慣れる。そうに決まっている。


 そんなやりとりをしていると、屋敷の正面玄関の扉が開く音がした。

 エメリンと呼ばれていたであろう侍女が扉を開けた状態を維持していると、屋敷の主であろう人物が歩み出てきた。


「三人とも、長旅ご苦労様でした」


 ライエルが片膝を突き、跪いて頭を下げる。

 俺とマモルもそれに(なら)い、跪いて頭を下げた。


「ライエル、それに二人共。楽にして良いわ。まずは、私たちに挨拶をさせて頂戴」


「はっ! ……ほら、お前らも立て」


 ライエルに促され再び立つと、ようやく王女と侍女達の姿をはっきりと捉える事が出来た。

 なんというか、みんな見た目がいい。気持ちを切り替え、挨拶を済ます事に専念しよう。


「それじゃあ、まず私から。初めまして、私はエリノア。リヒトブリック王国の第一王女よ。体があまり丈夫ではないから、ここでのんびり生活させてもらっているわ」


 長い金髪に青い目、身長は160を少し超えたくらいか。

 華奢な体系をしていて、室内暮らしが殆どというのが分かる肌の白さだ。


「さあ、次は侍女のあなた達よ」


 エリノア王女に促され、アルマと呼ばれていた侍女が手を挙げた。


「どうも、アルマです! お仕事頑張ってます、以上!」


 セミロングの金髪に茶色の目、身長は160半ばで、エリノア王女より少し高いくらい。

 明るい性格で、この屋敷の中のムードメーカーみたいな存在なのだろう。


「……あなたは仕事自体は出来るのだけど、そういう所は相変わらずね」


「えー? 姫様が硬すぎなんですよう。ねえねえ、キミたちもこういう感じの方が落ち着くよねっ?」


「あー、まあ、確かに」


「そ、そうかもしれません」


 別に、どこでもこういう振る舞いという訳ではないのだろう。

 俺達に合わせた、彼女なりのもてなし方だと解釈しておく。

 ここまで読んでいただき、有り難うございます。


 もし宜しければ、ブックマークや星評価などして頂けたら小躍りして喜びます

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