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【8】

着いたのは内科の個室だった。8畳くらいの部屋で、トイレも完備されていた。中央にあるベッドには横たわった青年がいた。青白い顔で、点滴をしている。しかし、顔は綺麗な青年だった。綾が戸惑っていると、長尾が言ってくる。

「ー山下亮君、覚えている?」

「山下亮…」

呟いた途端、視界がクリアになっていく。心の奥底に秘めていた思いが湧き上がってくる。

ー山下亮。亮君だ!!

昨日のことのように思いだされる。次々と過去の映像が浮かんできた。

「綾、大丈夫?」

佳奈に聞かれ、頷く。長尾は亮を見ながら教えてくれる。

「綾ちゃんが退院してから、寝たきりなのよ、ずっと…」

「そうなんですか!?」

「そうなのよ」

改めて亮を見ると、やせ細ってはいるが、りっぱな青年に育っていた。身長は高そうで、綾と比べると、スイカ1個分は違いそうだった。長尾が言いにくそうに言う。

「実は…、脳死の診断がくだされたのよ」

「脳死!?」

ビックリして亮を見る。ただ寝ているだけじゃないことを知り、綾は慌てる。

「治らないのですか?」

「治る見込みが無いのよ。全然、起きてくれないし」

「そうですか…。えっ?」

いきなり明が動き出した。何をするのか思ったら、亮の体にかさなるところだった。

「ちょっと、待っ…」

慌てて立ち上がろうとすると、転びそうになった。佳奈が支えてくれ、何とか立ち止まる。明は亮の体の中に消えていく。すると、不思議なことに布団から出ていた手が動き出す。

「えっ…」

その場にいた全員が動きを止める。しかし、亮は気にせず、瞳をゆっくりと開いてくる。

ーちょっと待って。心の準備が。

明と亮は2人は離れた心と体だったのだと知る。では、ずっと自分を見守ってくれたのは、亮ということになるのだった。

ー亮君。亮君。亮君。

思い出が次々と蘇ってくる。誰にも優しく、穏やかだったのは亮だったのだ。

ー近くに居てくれたなんて…。

すっぽりと記憶をなくしていた事を恥じる。ここに入院しなければ、一生気づかなかっだろう。

「綾、目が…」

佳奈が興奮している。それは長尾も同じくナースコールを押している。

「亮君!!」

綾が叫ぶように言うと、彼の眼球がこちらに向けられる。いつもの視線と同じものを感じ、やはり同一人物だったのだと知る。

ー何で忘れていたの。私…。

亮の優しさと思いやりに、綾は感謝していた。亮はうっすらと笑う。

「ーやっと会えた」

かすれた声で呟いた気がした。綾が両手で彼の手を包み込むと、彼はふと笑った気がした。

「目覚めるなんて、奇跡だわ」

長尾が興奮し、外に出ていく。医者を呼んでくるのかもしれなかった。佳奈が綾の背を押してくる。

「よく顔を見せてあげなよ」

「うん」

ズイッと体を出すと、亮が手を上げてくる。綾の頬に触れ、嬉しそうに撫でてくる。

「俺だよ、俺。分かる?」

「分かるわ」

なぜか涙が溢れてきた。ずっと見守ってくれたのは彼だったのだ。

「ありがとうね」

礼を言うと、彼の頬が血色よくなっていく。周りがバタバタしている中、2人は見つめ合うのだった。

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