【6】
入院中はとにかく安静が必要で、綾は時間をもてあましていた。受験生なので、参考書やテキストを見るが、頭に入らなかった。それよりも、子どもたちと話している方が楽しかった。
「今、何歳なの?」
「4つ」
手で4を作った子どもに、綾は微笑みかける。髪はサラサラしており、肌もスベスベだった。天使のような存在に、綾は救われる。救われるといえば、明の存在もそうだった。子ども達には見えないので、何も告げていないが、明はずっと綾の側に居た。守られている感じは家にいる時と同じく、リラックスしていたのだった。
「明、ありがとうね。一緒にいてくれて」
礼を言うと、明が頭を撫でてくれる感触があった。嬉しくて、つい顔がほころぶ。
「やっほー! 来たよ」
急に佳奈が現れ、綾はビックリする。綾が入院することは母親の義子が連絡してくれたので、見舞いに来てくれたようだった。
「佳奈、いらっしゃい」
「はい! 来ました」
佳奈は敬礼の真似をすると、綾の状態を聞いてくる。
「どう? 痛い?」
「痛くはないけど、不便なことが多いかも」
「だよね、仕方がない」
そう言い、持っていたチーズやヨーグルトを差し出してくる。
「カルシウムとって、カルシウム。早く治るかもしれないし」
「ありがとう、佳奈」
「どういたしまして。冷蔵庫に入れておくね」
「名前を書いておかないと」
「そっか…、マジックはえっと…」
「ナースステーションに行けばあると思う」
「ナースステーションね。分かった」
佳奈は行動的で、テキパキと動いた。綾はそのポジティブさが羨ましく、佳奈が改めて、自分の友だちで良かったと思う。
「戻ってきました。後で食べてね」
「うん」
綾が頷くと、佳奈が側にあった椅子を引き寄せる。
「綾が居ないとつまらないよ」
「そう? そう言ってもらえると嬉しいな」
「早く退院してよ」
「うん。お医者さん次第かな」
白い天井を見ながら言うと、明はクルクルと回っているようだった。佳奈には見えないが、警戒しているのかもしれなかった。
「そっか、お医者さん次第か。ま、元気出して」
肩をこづかれ、綾は微笑む。そうだと思い出し、綾は佳奈に言う。
「実はねー」
幼少の頃、入院していたことと、久しぶりに見た子どものころの夢を話す。
佳奈はビックリしたようだった。
「綾、体が弱かったの?」
「喘息でちょっとね」
「喘息か…。私は元気だからよく分からないや」
佳奈の素直さがありがたかった。
「それにしても昔から病院に縁があるんだね」
「そうだね。学校へ行くのも大変だったし」
「どうやって、喘息を治したの?」
「クラシックバレエをしていたの。それで治ったんだ」
「そうなんだ。クラシックバレエか…。私には無理だわ」
佳奈は腕を組むとうーんと声を出した。
「それにしても、夢が気になるね」
「うん。一番仲が良かった子どもの事を覚えていないの」
「そっか…。じゃあ…」
佳奈は立ち上がると部屋を出ていった。何をするのかと思えば、車椅子を借りてきたのだった。
「探そうか? まだ居るかもしれないし」
「えっ? 迷惑だよ」
「いいから行こう。ベッドに横になっていても暇でしょ?」
「…うん」
実は綾も気になっていたのだった。綾が15歳なら、彼は17、8歳だろうか。小児科から内科へ移動しているかもしれない。
「1人1人探すの?」
「そう! 散歩しているふりをしながら、探すの」
「分かった、私も知りたいし」
「やった!! 行こう、行こう」
佳奈の元気さに救われ、綾は車椅子に移動したのだった。