【5】
綾に与えられたのは、4人部屋の1角だった。しかも、まだ中学生なので、小さな子ども達と一緒だった。年齢の差に驚くが、仕方なかった。ほかの子ども達も骨折なのか、首や腕を固定されている。
「よろしくね」
隣の子どもに挨拶をすると、笑顔が返ってきた。それで、救われた気がし、ベッドに横になる。ベッドの脇には棚が置いており、義子が用意したバスタオルや洗面器などが入っていた。
「もう寝よう」
横になると、明が頭を撫でてくれる感触があった。彼の手にすがりつくように、手を重ねる。
「明が居るから、心配ないよ」
本心だった。いつも一緒だから、入院に対して抵抗感はなかった。
「おやすみ」
目をつむると、キスの感触がした。またされて、赤くなるが、ほかのベッドはカーテンで仕切られており、見られる心配はなかった。
その夜、綾は夢を見た。体は子どもの状態だった。懐かしさが込み上げてくる。
ーこの頃、入退院ばっかりだったからな。
外では遊べず、主に暮らすのは病院だった。だから、遊び相手も同じような年齢の子ども達だった。いろんな症状の子がおり、余命が数ヶ月という残酷な子どもや肺炎を起こして入院した子どもも居た。
ー皆、良い子だったな。
仲間外れにされたことはなかった。年上の子どもは面倒をみてくれ、年下の子はかわいく甘えてきたのだった。
ーそういえば。
夢の中で、綾の前に1人の男の子が立っている。彼は年上で綾の面倒をよくみてくれていた。
ー懐かしい。
顔はよく覚えていないが、賢い子どもで優しかった記憶が蘇ってくる。
ー今、何をしているんだろう。
名前も覚えておらず、綾は残念に思った。大きく成長し、喘息の気が治まった綾は、彼に感謝したかった。
ー無事に退院出来たのかな。
彼に救いがあることを祈り、綾は深い眠りに落ちたのだった。