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第二話 ノルンの町

 「あれがノルンの町だ。この辺りじゃ一番大きな町だな」

 「ほう……随分と立派な防壁じゃの」

 

 遠くに見えた街並みは人の背をはるかに超える防壁に囲われていた。

 一方で町は小高い丘に作られたのか、ここからでも防壁の奥に並び立つ街並みがよく見え、町そのものの大きさや建物から経済力が窺える。

 防壁の外、町の周囲は田畑となっており青々とした絨毯が広がっていた。

 

 「魔王城跡の周りは魔物も多くてな。ノルンも数年に一回は大量の魔物に襲われることもあるくらいだ。だからああやって防壁で守っているんだよ」

 「そんな危険な場所なのに町を作るのか」

 

 自分の命と金儲けを天秤にかけた様な町だなと思う。

 そもそも魔王城の周りは言わずもがな、このあたりだってもともとは魔族の土地だ。

 だというのにたった二十年そこらでここまで立派な町を作りあげてしまうほどにこの土地は魅力的なのだろうか。

 

 「そりゃ魅力的さ。魔力が多い土地だから薬草は元より、魔力を回復する魔力草も多く生えているし、高級食材とされる黄金実やディープフォレストボアも多い。さらに魔王城跡地を訪れる観光客も多い。国にとっても冒険者にとっても商人にとっても、ここ以外でどこで稼ぐんだってくらい最高な場所だよ」

 「お、おう……」

 

 薬草が生えているのは知っていたが、魔力草なるものは初めて聞いた。

 エリィに「足元にも生えているわよ」と言われてみれば、赤い小さな花をつけた草花が目に入る。

 

 「これが?魔力の欠片も感じないが」

 「錬金術師がポーションにしなきゃ効果はないって話だぞ」

 「ふうむ……」

 

 魔力草の存在に二十年前気付けていたら、戦争の結末は変わっただろうかと、つい考えてしまう。

 

 「今、魔力草が戦争の頃にあったら、と思っただろ」

 「な、何故にわかる!?」

 「はっはっは」

 

 ガイが笑い、エリィが肩をすくめ、ブラコはいつもの通り無口。

 四人は町を目指して一路草原を歩いていく。

 

 「どうしてわかったのじゃ」

 「はっはっは。簡単なことさ、前例があるんだ」

 「前例じゃと?」

 

 そう言ってガイがエリィを指差す。

 魔法使いの彼女は「指差すんじゃない」とガイの手を払い、つばの広いとんがり帽子を目深にかぶる。どうやら恥ずかしがっている様だ。

 

 「エリィも小さい頃に魔王病に罹ってな。あれはなんだこれはなんだと聞かれたよ。そんで『これがあの時にあれば魔族は人族なんかに絶対に負けなかった!』っていっつも騒いでいたよ」

 「なんと、そんな事があったのか」

 「ああもうっ、人の過去を笑い話にするんじゃないわよっ」

 

 エリィが足早なり歩いていく。

 それを見てブラコが何も言わずにエリィの後ろに追いつき、我とガイは少し後からついていく形になる。魔王使いが先行して魔物にでも出くわしてしまったら困るのか、その辺りはきっちりしている様だ。

 

 「しかし、魔王病か」

 

 我が目覚めた夜。

 ガイから聞かされたのは我が魔王病なる奇妙な病気であることだった。

 無論、我がそんな病気ではないことは看破スキルで一目瞭然ではあったのだが、興味深い事が聞けそうだったので黙って聞いていたのだ。

 そうしてわかったことがいくつかある。

 

 ——まず魔王病とは何か。

 

 口で説明するのは難しいが、つまりは「自分が魔王であると思い込む」病気である。

 冒険者ギルドや教会の調査による見立てでは、魔王城跡に訪れた者のなかで封印魔法から漏れ出した魔王の魔力に当てられ、発症してしまうのではないかということらしい。

 罹った者は一ヶ月から、長いものでは五年ほど自分を魔王だと思い込み、そのように振る舞う。

 とはいえ別に魔王の魔力が宿るわけでもないし、病気にかかった本人に染み付いた「普段通りの生活」により、それほぞ違和感なく生活できる。さらにその普段通りの生活を通していく中で「あれ、自分はなにやっているんだろう」と気づき、魔王病は克服されるのだとか。

 ただし厄介なのが一時的に生来の記憶を失う事こと、そして魔王の記憶があるということだ。

 そうでなければ自分を魔王だと思い込むこともない。

 そんな厄介な病気ではなるが、一方で魔王の記憶は人々に恩恵をもたらした。

 それは魔族が有する魔法の知識であったり、先の戦争における魔族の戦い方や戦術といった知識だ。

 これにより人族と亜人族であるエルフの魔法への理解が進み、かつては魔族しか扱えなかった様な魔法も使える様になったという。

 さらに魔法の知識はドワーフの鍛冶や錬金術士にも影響を及ぼし、魔法剣の製造やより高い効果のポーションなどが作られる様になったという。

 まったくもって、我の預かり知らぬところでこの様な情報漏洩が起きていることに憤慨ものだ。

 

 「町に着いたらまずはギルドと教会だな。ティアスティールの捜索願いが出されているか調べないと」

 「捜索願い?」

 「ああ。一応魔王病のことがあるから、魔王城跡にいくやつはみんな身元がわかる書類を出していくんだ。それを調べればそいつが誰だってすぐわかる様にな」

 「我はそんなもの出してないぞ」

 「だからそれは記憶を失っているからだって。あんまり魔王病のやつに言うことじゃないんだが、どう見てもお嬢ちゃんが魔王に見えるわけもないだろうに」

 「むっ……」

 

 それはギブリンに力を奪われたからなのだが、それを言ったとして信じてもらえないだろうし、そもそも本当に魔王であると露見したら面倒じゃ済まないことが待っているのでこれ以上は何も言うまい

 しばらくはノルンの町がどう言うところなのかや冒険者ギルドとはなんなのかなど他愛のない話で歩いていくこと一時間あまり。

 聳え立つ防壁が目の前に見えてきた。

 

 「近くでみると随分と大きいな。まるで戦争でもするかの様だ」

 「まあ実際戦争だな、魔物との。こんくらいしなきゃ守れないんだよ」

 「そんなものなのか」

 

 ここまでくると出入りする人や馬車で街道は随分と賑わっている様子がはっきりとわかる。街の外と中をつなげる門はいくつかあり、多くの人が町に入るための列を為していた。四人も最後尾に並ぶ。

 

 「この列は検問の列だ。ちなみにあっちから貴族様、商人・冒険者用、その他って感じになっているから間違えない様にな」

 「貴族はわかるが、冒険者は随分と優遇されているのじゃな」

 「単純に出入りが多いってのもあるが、何かあったら町を守るために出るのは冒険者が多いからな」

 「町にも兵士くらいいるじゃろう?」

 「兵士はあくまで街の防備が仕事だ。魔物を積極的に狩ることは冒険者の仕事。じゃないと俺たちが食いっぱぐれるだろう?」

 

 それもそうか。常に兵士を雇えばそれだけ費用もかかることを考えれば、お金もかからないフリーで動ける冒険者を抱えておいた方が良いのだろう。

 

 「今回はお嬢ちゃんがいるから俺たちもこっちに並ぶけど」

 「別に我一人でも問題ないぞ」

 「おおありだよ。身元を証明するものもなければ町に入るためのお金だってもってないだろう」

 「か、金がかかるのか!?町に入るだけじゃぞ!?」

 「大きな町じゃ当たり前なんだよ」

 「な、なんということじゃ……」

 「ほれ、通行料の銅貨五枚だ」

 

 ガイから手渡される銅貨を受け取り、ふと疑問に思う。

 

 「お前さん達は随分と我に優しいのだな」

 「まぁ成り行きってのもあるが、実際は魔王病を保護すると報奨金が出るんだよ」

 「報奨金?」

 「ああ。魔王の記憶がもたらした恩恵については話しただろう?魔王病に罹ったやつはみんながみんなしっかりした魔王の記憶を持っているわけじゃなくてな。ギルドも教会もチグハグな魔王の記憶を魔王病に罹ったやつからかき集めて、有益な情報を持っていないか囲い込むんだ」

 

 嫌な話だ。

 見ず知らずの他人に我の記憶が勝手に暴かれては魔法の発展やら錬金術の発展に使われているのだから。

 

 「——っと、そろそろお前さんの番だぞ」

 

 いつの間にか検問の順番がきていた。

 衛兵に「次」と無機質に呼ばれ、我とガイが進む。

 

 「むっ、冒険者か。どうしてこちらの列に?」

 「魔王城跡でこの嬢ちゃんを保護してな。どうも魔王病らしい」

 「魔王病か。最近はあまり見なくなっていたが、また出たのか。一応調べさせてもらうぞ」

 「もちろん。——嬢ちゃん、この水晶に手を当てるんだ」

 「これは?」

 「これは能力を分析できる水晶だ。人殺しや犯罪者を見分ける事ができる。ちなみに衛兵の後ろにある赤い水晶は種族判別の水晶だ。あっちは魔族かどうかを見極めるものだな」

 「まっ……!」

 

 まずい、と体が硬直仕掛けたところをガイに腕をつかまれ、手を水晶に当てられる。

 ひんやりとしたガラス質の手触りとともにボウゥと青く光る水晶。

 

 「これは……いやまさか」

 

 水晶を見つめていた衛兵が感嘆ともとれるつぶやきを漏らす。

 そのまま水晶を見つめる事数秒、「通っていいぞ」と言われた。

 

 「ん?そっちの水晶はいいのか?」

 「ああ問題ない。ふふ……いや面白いものを見させてもらった。これほどまでに清廉潔白な魔王病とはなかなかお目にかかれるものじゃあない」

 「せ、清廉潔白じゃと!?我は魔王であるぞ!?」

 「落ち着けお嬢ちゃん。——で、どう言う事だ?」

 「はっはっは。強がりたい年頃なのはわかるがねお嬢さん。いや魔王病なのかもしれないが。しかしお嬢さんみたいな心清らかな人が魔王だといっても流石に無理があるよ」

 

 そういって衛兵は「ずい」と水晶をこちらに向けてきた。

 

 「なっ——」

 「これはこれは……」

 

 ガイと二人で覗き込めば、そこには看破スキルで見たあのステータスが表示されていたのだ。

 

 『名前:ティアスティール

  性別:女

  体力:10/ 10  魔力: 10/ 10

  才能:火1、水1、土1、風1、闇1、光50』

 

 看破スキルよりも性能は低いのか、表示される情報は少ない。それでも我の情報を表すには十分なデータであった。

 

 「普通はどんなお人好しだって、光の才能だけ(・・)が50を超えるなんてないんだ。ここまでくるともしかしたら修道女かもしれないな。魔王病だけならギルドでもいいが、お嬢さんの場合は教会にも行くといい、何かわかるだろう」

 「ち、ちがうぞ!我は非道なる魔王である!」

 「あー大丈夫大丈夫。ステータスと魔王病は関連性がない事がわかっているから。そこはギルドにある真贋の水晶で確かめてもらえるよ。——次の者」

 「そんなんで良いのか衛兵よ!?」

 

 魔族であることを証明したいようなしたくない様な、複雑な思いで我はノルンの町に足を踏み入れた。

いつのまにか4月になってました。今年もあと9ヶ月しかないかと思うとビビる

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