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帰郷の花々  作者: 宇羽野 葉月
5/8

《第0話ー④》出発

初投稿作品です。

今はまだストーリーがゆっくり展開していますが、

もっと加速させていくつもりです。

読んでいただけたら幸いです。

 翌日。

 家にある唯一の姿見の前に少女は立っていた。

 鏡に映る少女はどこか眩しく、物理的な光を放っていると錯覚してしまうほどだ。

 それは一重に、彼女の格好のせいだろう。彼女の羽織る裾の長い羽織もその下に着ている巫女服も足袋も草履も、全てが白色なのだ。背中の中程まである明るめの茶髪をハーフアップに結ぶ、ガラス玉のついた組紐でさえ、白。もはや神々しさまで感じるその純白の中で唯一露出した、裳から伸びるふくらはぎが異様に感じられる。それは筋肉質ながらもすらりと細い。

 

 これはあの島の巫女の四つある衣装のうちの一つで、巫女の標準服でもある。

 そもそも巫女というのは島のとある一族の女が代々務める、島で最も重要な役目を持つ存在の事である。巫女はその一族の女にしかなれず、巫女の衣装や道具などもその一族の間で代々受け継がれているのだ。

 

 つまりサクラは巫女の一族の末裔であり、今世の巫女その人なのである。


「サクラ、準備はできたか」


 アラタが部屋の戸を半分ほど開け、中にいるサクラに問いかける。


「うん、ばっちし!」


「何がばっちしだ、あれを忘れてるじゃねえか」


 アラタはそう言って部屋に入ると、机の上に置かれていた物をサクラに渡す。


「ああ、これ!完全に忘れてた、ありがと」


 サクラは軽く礼を言いながら、渡された物を腰に下げる。それは縦に細長い長方形をした、白い入れ物だった。簡素な見た目に反して重そうで、どうやら中身がぎっしり詰まっているようだ。


「こら。とても大事な物だろう、そんな軽い感じで扱うんじゃない」

 

 アラタは一瞬ぎょっとした後、厳しい顔をしてサクラに注意をした。


「え、でもこれくらいならいつでも…」


「サクラ」


 咎める為にその名を呼ぶアラタの顔は、意図せず悲しさを滲ませていた。


「あ…えと…ごめんなさい」


 その顔に、気づいたらサクラはそう言っている。


「ん。もうするなよ」


 サクラが反省しているのを感じ取ったアラタは、すぐに空気を緩ませた。しかしその反省が自分の想像しているものと違う事に、彼は気づいていない。気づかぬまま、少年は話を変える。


「…他の荷物はちゃんとまとめてるみたいだな。服も…ちゃんとしてるな。かっこいいぞ」


「…アラタもね」


 サクラは床に転がっていた彼女の背嚢の中身を確認するアラタを眺める。白の水干と括袴に紅の結び紐や股立ち。白い足袋に白い草鞋は一見サクラとお揃いなようで実は少し違う。そしてサクラのよりも一回り大きい背嚢を背負い、肩には鞄までもをかけている。


「はは、ありがとな。よし、じゃあ出発するか。昨日も話した通り、帰り方は分からないからとりあえず大陸を東に横断する。そしたら島への手掛かりが見つかるかもしれないし。その為に、まず港町に行こう。他国に渡るなら船が一番速いからな。それに、ここから一番近い港町はこの国で一番大きくて交通の便が良い。分かったな?」


「うん」


 サクラが背嚢を背負うと、二人は家中をゆっくりと見回しながら玄関へと向かう。

 

 壁や床についた傷や汚れ、四人で食卓を囲ったテーブル、三人の子供の成長を刻んだ家で一番大きな柱…。


 玄関でもう一度、二人はこれまでの人生のほぼ全てを過ごしてきたこの場所を見つめる。それはほんの数秒の事だったが、二人には何十秒にも、何時間にも感じられた。やがて覚悟を決めたようにそれに背を向け、アラタがドアノブに手を掛ける。目を瞑り一呼吸を置いた後、二人は小さく頷き合った。


「「行ってきます」」


 庭ではまだ花弁を閉じて眠るサクラが、無数に揺れていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

第0話これにて完結です。

めちゃくちゃ旅立った感ありますけど、次話ではまだ例の港町は出てきません。完全に旅立つと言えるまでもうちょっとかかるので。

展開が遅くてつまらなく感じるかもしれませんが、どうか

もう少しだけお付き合いください…。


もし面白いと思っていただけたなら大大大感謝です。



ご感想、ご指摘などなんでも大歓迎です。


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