《第0話ー③》真実と決意
初投稿作品です。
今はまだストーリーがゆっくり展開していますが、
もっと加速させていくつもりです。
読んでいただけたら幸いです。
「……これが、今までじいちゃんから聞かされてきた俺たち民族の歴史。ここまでは本当の事だったんだ。でも、その後…」
「その後の、島が滅ぼされる話が嘘だった」
サクラが、アラタの言葉に続いた。
「少し前までは侵略者も何もなく、私達民族は平和に暮らしてた。でも、十年前に『あれ』があって……」
サクラは少し怯えたように目を伏せる。
「その後すぐ、島に『奴ら』が来たんだよな」
アラタは、サクラに何も考えさせまいとするように話を続ける。
「じいちゃんは今まで、俺達の故郷に『奴ら』が攻めてきて島民の皆殺しを始め、その中でじいちゃんは俺とサクラとシュンを抱えて命からがら島を脱出して、この地に逃げてきたって俺達に語ってきたけど…それが全部嘘だった」
アラタの言葉にサクラは頷く。
「うん。本当は島には誰も攻めてきてなんか無かったって。故郷は滅んでなんかないし、今も島の皆はちゃんと生きてるって。島を出た理由は他にあるって」
彼らの祖父はそれ以上は語らなかった。どうして今まで嘘をついていたのか、『あれ』が起きたのにも関わらず、なぜ故郷やその人々が無事だと断言できるのかなど、不明のままな事が多い。
しかしサクラはそのほぼ全てが、十中八九自分のせいであると理解していた。
けれども彼女がその事について嘆くことはない。彼女からしたら、そんな事は今更だった。
「じいちゃんの奴、急にそんな話し出して、しかもほとんど何も答えてくれない上にぽっくり逝きやがって。まあ、この話をするのも随分迷ったんだろうな」
アラタは淋しそうに笑う。
「おじいちゃんはきっと、私達にいちおう、選択の権利を与えてくれたんだよね。本当はこのままここで平和に暮らして欲しいと思ってる。けど、私達には知る権利があって、立ち向かう権利もあるから渋々教えた、みたいな」
「渋りすぎて情報開示が少な過ぎるけどな。どうやってここまで来て、どうやったら帰れるのかさえ教えてくれないんだからさ。ここから外に行かせたくなさすぎなんだよ」
アラタは今度は苦笑する。
「そうなんだよ!…でもだからこそ、おじいちゃんが教えてくれなかったことも全部合わせて、本当に私達の故郷が存在するのか確かめに行きたい」
サクラの言葉に、アラタは固まる。しかしサクラは遠慮なく続ける。
「私、おじいちゃんを故郷の土で眠らせてあげたい。故郷で眠る私の……家族、に挨拶したい。それに、五年前突然いなくなったシュンの事だって見つけられるかもしれない。その為に、世界中を旅して島に帰る方法を見つけて、里帰りしたい」
サクラの言葉に、アラタは固まる。しかしサクラは遠慮なく続ける。
「私、おじいちゃんを故郷の土で眠らせてあげたい。故郷の私の家族に挨拶したい。それに、五年前突然いなくなったシュンの事だって見つけられるかもしれない。その為に、世界中を旅して島に帰る方法を見つけて、里帰りしたい」
「……それがどれだけ危険なことでも? 簡単に死んでしまうようなものでも?」
アラタはサクラを試すように、彼女の目をじっと見つめる。
「うん。それに、私は島の巫女。島の長たる存在なんだよ。それが、故郷の民を放っぽり出して、自分だけ平和に生き続けるなんてあり得ないでしょ。私はもう、十分助けてもらった。次は私が皆に恩を返す番。その為にも、島に帰らなきゃ」
サクラは目を逸らさずに断言した。アラタはしばらくの間、その目を見つめ続けた。しかしやがて諦めたように息を吐き、
「……やっぱり引き留めても無駄そうだな。こうなる事はわかってたけど、実際に言われるとなあ。結局、俺もじいちゃんと同じで、本当はサクラを危ない目に遭わせたくないんだな。でも、そうはいかないよな…」
と、眉を顰めて独りごちる。そしてサクラの両肩を強く掴み、真剣な眼差しを向ける
「いいか?これはただの里帰りじゃない。軽い気持ちで行くようじゃ、簡単に死ぬような過酷なものだ。それに世界中を旅して『俺たちの』故郷に関する情報を集めるとなると、『奴ら』とはどうしても関わることになると思う。––––それでも?」
サクラはその目に応えるように、熱い眼差しをアラタに向ける。
「うん、上等だよ。もう昔のままじゃいられないんだ。帰る方法を見つけて、シュンも見つけて、『奴ら』の事も片付けて、立派に故郷に帰るんだ!」
魂の全てで宣言する。その目には絶対的な意志が宿っている。
その目を数秒見つめた後、アラタはふ、と笑う。
「…分かった。じゃあ早速、明日出発しよう。今から急いで荷造りするぞ」
そう言うと、アラタは家へと向かう。一人取り残されたサクラはポカーンとその場に突っ立っている。が、すぐに我に返って、
「え⁉︎アラタも行くの⁉︎いやいやいや、流石に危ないって駄目だよ!」
と叫ぶ。
アラタは振り返って、はあ?と言う顔をして、
「いやいやいやいや、お前一人で行かせるわけないだろ。つか、心配される程弱くねえよ。なんだ、サクラはじいちゃんとシュンと三人仲良く島に帰って、俺だけこんな西の果ての地で一人ぼっちにしたいのか?」
と、呆れ声で言い返す。
「むぅ…それはそうだけど…」言い返すことができずにサクラは頬を膨らます。
「それに俺だって、故郷に帰って会いたい人がいるんだ」
アラタはそう言って遠くを見つめる。
「え?誰?」
サクラは間の抜けた声で訊ねる。
「…サクラは覚えてないかな。アマネっていう仲の良かった、確か同い年の女の子がいるんだ。……島にいた頃の事もこの土地に辿り着くまでの事も、俺はなぜかほとんど覚えていないし、思い出せない。この土地に住み始めた頃の事からははっきり覚えているのに。シュンも…サクラもそうだろ?」
アラタはサクラの方を向き同意を求める。サクラはそれに頷く。確かに、「あれ」を除いて十年前のあの頃の事はほとんど覚えていない。
「記憶の残り方が不自然だよな。まあおおよそじいちゃんの仕業なんだろうけど、それでも俺は、あの島での日々で確かに覚えてることがある。そのほとんどが、さっき言ったアマネって子との事なんだ。二人で木の実を食べたり花や鳥を観察したり…。顔はよく思い出せないけど、それでもあの子の綺麗な白い髪や、ふんわりと甘やかで落ち着くけど、どこか独特なあの雰囲気や…一緒にいて感じた言葉にできないような感情なんかは、ぼんやりだけどちゃんと覚えてる」
アラタは静かに、しかしなおも饒舌に続ける。
「それだけ覚えてるって事は、俺にとってとても大切な子のはずなんだ。今でだって、あの子の事を思い出すと胸がじんわり温かくなる。…二度と会えないはずのあの子に、もう一度会えるとわかったんだ。だから、会いに行きたい。会って、もう一度この気持ちを…」
そこまで喋って、アラタは我に返ったようにみるみる顔を赤くした。
「あーっえっとそのーこれは決してそういうんじゃなくてだな…」
普段は口を滑らすことなど決してないが為にどう取り繕えば良いのか分からず、アラタは慌てふためく。
そんなアラタに対して、サクラは実に平常であった。
「そっかー。そんな特別な人がアラタにはいたんだね」
「と、特別って…」
そっか。知らなかったな。
「そんなに大事な『親友』なら、絶対もう一度会わないとな!よし、旅に同行する事を許可しよう!」
「!そうそう、し・ん・ゆ・うな、親友!親友にもう一度会いたいんだよ、俺は。…てか、何でサクラに旅の許可貰わなきゃいけないんだよ!」
でも、そりゃそうだよね。
「旅の隊長としてね?」
サクラは右の親指を立て自分の方を指すと、更に胸を張ってあごを上げ、おどけてみせた。
「はあ?ったく、遊びじゃないんだからな」
分かってるよ。
「知ってるよ、もー」
そうするしかないもんね?
「ホントか?遊びのつもりなら行かせないんだぞ。俺はここでの暮らしも気に入ってるんだからな」
サクラははっとして上を見た。
見上げた先にはアラタがいる。
アラタはただ前を見ている。
「……そっか」
サクラは俯き、そう呟いた。
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