《第0話ー②》幻の故郷
初投稿作品です。
今はまだストーリーがゆっくり展開していますが、
もっと加速させていくつもりです。
読んでいただけたら幸いです。
彼女達の故郷は、幻の島と呼ばれていた。遠い東の大洋の向こう––––あちら側のどこかに存在する、霧に覆われた島。サクラの咲き誇るその地には、西側の大陸––––こちら側の人間がたどり着くことは不可能であり、あちらとこちらを行き来できるのは幻の島に住んでいる者たちだけ。島の民はこちら側の人間とは違う特別な存在で、人間離れした身体能力を持ち、全員が––––。
……このように、こちら側では伝説として語り継がれてきた彼女達の故郷。ほぼ神話と同じ扱いなだけあって、誰もがおとぎ話の中だけの存在だと思って疑わなかった。
ところが今から百五十年程前、突如としてそれは作り話などではないと判明する。西側の人間が、伝説だったはずの島を見つけ出したのだ。
こちら側の者が、どうやって幻とすら呼ばれたその島に辿り着いたのかは、今も明確な事は分からない。だが、島に上陸した彼らは思ったのだろう。
伝説として語り継がれる幻の島の、その民。
彼らは、伝説で謳われているほど大した存在ではない、と。
仕方はなかったのだ。あの頃にはもう、彼らの力は、血は、大分薄まってきていたはずだから。伝承ほど特別な存在じゃなくなっていたとしても。
しかし、そのような事情など露ほども知らないこちら側の人間によって、彼らは目も当てられないような悲惨な歴史を、ほんの僅かの間に辿ることになる。
伝説ほどで無いにしても十分人間離れしていた彼らは、大陸の人間にとってたまたま手に入った、何にでも使える、とても便利な道具だった。
老若男女問わず、全てのものが当時勃発していた世界大戦の為の兵器であり好奇と醜悪のそそる実験物であり資源発掘のための道具であった。
その為少しもすれば、かつては伝え話の中でもはや神々のような扱いを受けてきた彼らなど、見る影もなくなっていた。
西側の人間が幻の島に辿り着いてから半年程で、島の人口はかつての三分の一程となった。島の外に連れていかれた者たちが故郷の霧に触れる事は、二度と無かった。島でかろうじて生き残った者も、ろくな食料も与えられない、過酷を極めた労働下の中で痩せ細り、生気を衰えさすばかりだったようだ。
しかし現代の彼らには不思議で堪らないだろう。
当時の『島の巫女』が、まだたった一歳半の赤子だったからだとしても、彼らの信仰する神々の教えによって人間の殺生が禁止されていたからだとしても、彼らの文明が大陸の人間が馬鹿にしてしまうようなレベルだったからにしても、一個体では非力でしかないただの人間に、自分達民族が支配されてしまうなんて普通であれば考えられない。兵器を使ったとしても彼らは自分達には勝てるかどうか分からないというのに、一体どうしたというのだろうか、と。
更にそんな絶望的な祖先達の状況が、唐突に救われたのだから。
西側の人間に支配されて一年が経とうとしていた頃、東の大洋に存在する霧が今までよりも数段濃くなり、大陸の技術では彼らの島にたどり着く事を不可能にしたのだ。
なぜ霧が濃くなったのか、彼らは知らない。
きっと世界から虐げられている我々を見るに見かねて、神が救いの手を差し伸べてくれたに違いない、くらいに思っている事だろう。
そして突如姿を眩ましたその島は、再び伝説と呼ばれる様になったのであった。
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