《第0話ー①》別れ
初投稿作品です。
今はまだストーリーがゆっくり展開していますが、
もっと加速させていくつもりです。
読んでいただけたら幸いです。
肉の焼ける匂いが少女の鼻腔を突いた。少女は微かに体が、手先が強張るのを感じる。掌からじんわりと汗が滲み出る。少女は息を止め、心の中で深呼吸をする。
大丈夫。このくらいは、まだなんともない。
あの日嗅いだのよりは、遥かに薄いから。
そう自分に言い聞かせ、今は葬式の最中なのだ、と切り替える。少女は手に持っていた白い、綺麗な花を火にくべる。それは、死者への最後の贈り物。
この花を火葬の際に遺体と一緒に燃やすと、花が死者を無事あの世へ導いてくれる、少女の故郷ではそう信じてられているのだ。
–––– 偉大なる我が主人らよ、あなた方の敬虔なるこの信徒を、どうか、どうか天国へお導きください。
花を贈り、少女は最後の祈りを捧げる。
その後ろでは、少年が膝を突き、首を垂れていた。
花は火に触れた瞬間から炭と化していく。ほんの数秒で、跡形もなく消えていく。
その呆気なさに淋しさを感じながら、少女は目を閉じる。
これで、本当に最期なのだ。
これで本当に、本当の、お別れ。
焼け残った骨を、白い、円柱形の骨箱に納める。骨箱には綺麗な模様が緋いラインで彫り込まれている。彼女らの民族模様の一種で、これは死者への敬意を表す模様だ。
しかし昨日急いで作ったせいで、箱のラインや模様が少し不恰好な骨箱である。
––––ごめん、おじいちゃん。こんな骨箱で悪いけど、いつもみたいに大目に見てね。
そう、少女は心の中で祖父に語りかける。
遺骨を納め終わり、彼らは家へと向かう。家の近くに作った花畑の前で(囲いがあるわけでもなく花が無造作に植えられているだけの上、花畑と呼べる程大きくも無いが)、少女の後ろを歩いていた少年が足を止める。
「……ほんの一昨日までここでサクラの世話をしていたっていうのに…。本当に、人っていついなくなるか分からないな」
足を止めた少年––––アラタは、植えられた花たちを眺めながら独り言のように呟く。穏やかな風が、彼の髪を緩やかに揺らす。
「……そうだな」
少女も眼前の白い花に目をやった。先程故人に贈ったのと同じもので、それは儚げながらも凛としてそこにある。
「あの地」にしか存在しないと言われている、幻の花。今も世間ではそう言われているであろうその花が、今、彼らの眼下では咲き誇っている。他にもいくつかの別称を持つその花は、正称をサクラと言った。
そして奇しくも、少女もまた、サクラという名であった。
サクラは視線を、横にいる自分よりも年上の少年の方にやる。身長は二十センチもの差があり、少し目をやっただけでは相手のあごしか見えない。なので更に首を上に傾けると、特徴的な、オレンジがかった赤い短髪が目に飛び込んできた。髪の毛は少し反りながら外に向かって撥ね、花を見下ろす髪色と同じその瞳は、静かな淋しさを湛えている。硬く結ばれた唇は、口角と共に少し垂れ下がっている様に感じる。
それも当然であろう。彼は、唯一の肉親である祖父を亡くしたばかりなのだから。
サクラはそんなアラタの横顔を眺めながら、しかし、と思う。
この死は、なんとなく予想できたことなのだ、と。
––––あれは、本当に突然だったから。
きっとおじいちゃんは、自分の死が近いことを悟ったが故に、あの事を私達に打ち明けたのだ。でなければ、あの祖父があんな話をするはずがない。ならば、私は––––
サクラは、覚悟を決めて口を開く。
「…アラタ、私ね、とっても感謝してるの。身寄りのない私を引き取って育ててくれたおじいちゃん。突然現れた私を妹だって言って面倒見てくれたアラタ。私と同じで引き取ってもらった身なのに、前々から兄妹だったみたいに優しくしてくれたシュン。そんな皆に、心の底から感謝してる。私、して貰った事の全部があったかくて、嬉しくて、嬉しくて……堪らなかった。本当にありがとう。それで、こんなに良くしてもらったのに身勝手かもしれないけど、私……」
––––ああ。
「私、おじいちゃんの言っていたことが本当か、確かめに行きたい」
ついに言ってしまった、とサクラは思う。
彼女が、祖父–––正確には養父、に聞かされてから、ずっと考えていたことを。
アラタもサクラがこう言うと、ある程度予測していたのだろう。少し驚いた表情をしたが、すぐにサクラの見慣れている落ち着きのある大人びた顔に戻って、
「別に身勝手なんかじゃないさ。サクラが言ってるのは、あの事だろ?」
と言った。
サクラはコクリと頷き、アラタと声を合わせる。
「「俺達の、
故郷がまだ存在するって話」」
「「私達の、
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