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帰郷の花々  作者: 宇羽野 葉月
2/8

《第0話ー①》別れ

初投稿作品です。

今はまだストーリーがゆっくり展開していますが、

もっと加速させていくつもりです。

読んでいただけたら幸いです。

 肉の焼ける匂いが少女の鼻腔を突いた。少女は微かに体が、手先が強張るのを感じる。掌からじんわりと汗が滲み出る。少女は息を止め、心の中で深呼吸をする。

 

 大丈夫。このくらいは、まだなんともない。

 あの日嗅いだのよりは、遥かに薄いから。

 

 そう自分に言い聞かせ、今は葬式の最中なのだ、と切り替える。少女は手に持っていた白い、綺麗な花を火にくべる。それは、死者への最後の贈り物。

 この花を火葬の際に遺体と一緒に燃やすと、花が死者を無事あの世へ導いてくれる、少女の故郷ではそう信じてられているのだ。

 

 –––– 偉大なる我が主人(あるじ)らよ、あなた方の敬虔なるこの信徒を、どうか、どうか天国へお導きください。

 

 花を贈り、少女は最後の祈りを捧げる。

 その後ろでは、少年が膝を突き、首を垂れていた。

 花は火に触れた瞬間から炭と化していく。ほんの数秒で、跡形もなく消えていく。

 その呆気なさに淋しさを感じながら、少女は目を閉じる。

 これで、本当に最期なのだ。

 これで本当に、本当の、お別れ。

 

 焼け残った骨を、白い、円柱形の骨箱に納める。骨箱には綺麗な模様が緋いラインで彫り込まれている。彼女らの民族模様の一種で、これは死者への敬意を表す模様だ。

 しかし昨日急いで作ったせいで、箱のラインや模様が少し不恰好な骨箱である。


 ––––ごめん、おじいちゃん。こんな骨箱で悪いけど、いつもみたいに大目に見てね。

 そう、少女は心の中で祖父に語りかける。

 

 遺骨を納め終わり、彼らは家へと向かう。家の近くに作った花畑の前で(囲いがあるわけでもなく花が無造作に植えられているだけの上、花畑と呼べる程大きくも無いが)、少女の後ろを歩いていた少年が足を止める。


「……ほんの一昨日までここでサクラの世話をしていたっていうのに…。本当に、人っていついなくなるか分からないな」

 

 足を止めた少年––––アラタは、植えられた花たちを眺めながら独り言のように呟く。穏やかな風が、彼の髪を緩やかに揺らす。


「……そうだな」


 少女も眼前の白い花に目をやった。先程故人に贈ったのと同じもので、それは儚げながらも凛としてそこにある。

 「あの地」にしか存在しないと言われている、幻の花。今も世間ではそう言われているであろうその花が、今、彼らの眼下では咲き誇っている。他にもいくつかの別称を持つその花は、正称をサクラと言った。

 そして奇しくも、少女もまた、サクラという名であった。

 

 サクラは視線を、横にいる自分よりも年上の少年の方にやる。身長は二十センチもの差があり、少し目をやっただけでは相手のあごしか見えない。なので更に首を上に傾けると、特徴的な、オレンジがかった赤い短髪が目に飛び込んできた。髪の毛は少し反りながら外に向かって撥ね、花を見下ろす髪色と同じその瞳は、静かな淋しさを湛えている。硬く結ばれた唇は、口角と共に少し垂れ下がっている様に感じる。

 それも当然であろう。彼は、唯一の肉親である祖父を亡くしたばかりなのだから。


 サクラはそんなアラタの横顔を眺めながら、しかし、と思う。

 この死は、なんとなく予想できたことなのだ、と。

 ––––あれは、本当に突然だったから。

 きっとおじいちゃんは、自分の死が近いことを悟ったが故に、あの事を私達に打ち明けたのだ。でなければ、あの祖父があんな話をするはずがない。ならば、私は––––

 サクラは、覚悟を決めて口を開く。


「…アラタ、私ね、とっても感謝してるの。身寄りのない私を引き取って育ててくれたおじいちゃん。突然現れた私を妹だって言って面倒見てくれたアラタ。私と同じで引き取ってもらった身なのに、前々から兄妹だったみたいに優しくしてくれたシュン。そんな皆に、心の底から感謝してる。私、して貰った事の全部があったかくて、嬉しくて、嬉しくて……堪らなかった。本当にありがとう。それで、こんなに良くしてもらったのに身勝手かもしれないけど、私……」

 

 ––––ああ。


「私、おじいちゃんの言っていたことが本当か、確かめに行きたい」


 ついに言ってしまった、とサクラは思う。

 彼女が、祖父–––正確には養父、に聞かされてから、ずっと考えていたことを。

 アラタもサクラがこう言うと、ある程度予測していたのだろう。少し驚いた表情をしたが、すぐにサクラの見慣れている落ち着きのある大人びた顔に戻って、


「別に身勝手なんかじゃないさ。サクラが言ってるのは、あの事だろ?」


 と言った。

 サクラはコクリと頷き、アラタと声を合わせる。


「「俺達の、

      故郷がまだ存在するって話」」

「「私達の、

ここまで読んでいただきありがとうございます。

もし面白いと思っていただけたなら大大大感謝です。


ご感想、ご指摘などなんでも大歓迎です。

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