女神シンカは呼び出される
天界には神々が住み、神達は自身の力を使い、自身が管理している星を守るために日々仕事に励んでいる。女神シンカもまた、生命の進化を促す力を使い、主神が経営している会社に勤めている。
オフィスの一室には、背中から羽を生やし頭上には淡い光を放つ輪が浮かんでいる人。そう、天使が、椅子に座り机にあるパソコンにそっくりな魔道具を使って事務仕事をしていた。
「シンカ様今日大丈夫かな? 恒例のあの日だろ」
タレ目の男の天使はピンク色の髪をした女の天使に話しかけた。
「ああー、そういえば今日がその日だったわね。そうそう、さっきシンカ様、社長に呼び出されたみたいよ」
「え! うわっ、仕事増えるのかな。俺これ以上残業したら妻に怒られるわ」
「私も今日は早めに帰りたいわよ! 神ドル男性グループ『アロンズ』の生歌配信あるんだから絶対に21時には家に着きたい」
「俺にそう言われてもな、シンカ様にお願いしてみたらどうだ」
「今日のシンカ様はピリピリして話せる雰囲気じゃないわよ。はぁ、早く帰りたい」
すると、黒髪の顔が恐ろしいほど整った男が進化管理部を訪ねてきた。
「シンカ部長はいるか?」
「クエス様! シンカ様は社長に呼び出されているので社長室にいるかと思います」
男の正体は男神クエス、クエスト管理部の部長である。
「社長に呼び出されているのか、そうかぁ、教えてくれてありがとう、社長室行ってみるか」
男神クエスは進化管理部を後にした。
スーツを着た金色の髪の美しい女性は目の前にいる椅子に座った美少年と話をしていた。
「ねぇ、シンカちゃん。もうそろそろ、君の星に新しい知能の高い種族を追加して欲しいんだよね、そうだな、魚の姿をした人ってよくない? 魚人追加しようよ」
「魚人ですか」
「あー、君、魚嫌いだったね」
「いえ、大丈夫です。魚人ですね。生物制作部に魚人の姿のベースを作ってもらい次第、追加いたします」
「シンカちゃんさ仕事し過ぎてない大丈夫? 僕で良かったら話聞くよ」
「いえ、これぐらい大丈夫です」
「そうそう、君の星の魔石精霊はどんな感じかな、鉱物から精霊が発生するなんて神である僕もびっくりしたんだよね」
「魔石精霊達は皆仲良くしていますよ」
「例の(仮)君は名前考えられた?」
「それは、その、まだ名前を認定していません」
「それは何でかな? 彼、毎週名前申請しているって聞いたけど」
「前にも話しましたが、名前が長すぎるのです」
「でも、少しずつ短くなってきてるんでしょ。もうそろそろ、ステータス表記に入るぐらいになったんじゃ」
「5万文字、名前欄だけに入ると思いますか」
「減らしても5万なの」
「はい」
「うわー、彼凄いなぁ。シンカちゃん、もう、君が決めちゃえば」
「私が考えた名前はカッコよくないから嫌だと断れてしまいました」
「神が考えた名前を断るとか彼肝が据わっているね」
「私が名前をつける権利を与えてしまったばかりにこんなことになってしまい申し訳ございません」
「いや、僕には何の被害もないから謝らなくていいよ。あっ!そういえばさ、彼のダンジョンにまだ人型に進化していない種族いたじゃん! 魚人はやめて、虫を人型に進化させようよ!」
「虫をですか」
「いいじゃん、虫、ねぇ、アート来てくれない」
「はいよっと、ゼス君どうしたー、俺仕事多くて忙しいから呼ばないで欲しいんだけど」
シンカの後ろに青白い光を放つワープゲートが出現しそこから絵の具まみれの少年が現れた。
「アー君、仕事中ごめんよ。面白い話あるから呼んだんだ」
「どうせ、仕事の話だろ。手短に話してよね」
「虫の人型の種族を考えて欲しいんだ」
「虫の人型ねぇ、ふーん、珍しく面白そうな仕事だね」
「どう、仕事受けてくれるかな?」
「虫でも色々な種類があるだろ、全ての種類の人型を考えるのは流石に時間がかかるな」
「それなら、僕が種類を選んでいいかな」
「それで、どれを選ぶんだ」
「ゴキブリと蜘蛛、ムカデ、蚕、蝶。後は、カブトムシとクワガタと蜂もいいよな、ミツバチとスズメバチ」
「ゼス君もしかして、元々考えてたんじゃ」
男神アートはキャンバスを取り出し筆をとり虫の人型を描き始めた。
「僕のお気に入りの魂が虫になってしまってね。人に戻してあげたいんだよね」
「それなら、魚人のくだりは何だったのよ」
シンカはさっきまで話していた会話が無意味だったと知り、つい小さな声で愚痴を溢してしまった。
「それは、シンカちゃんの仕事ぶりを見たかったからかな」
「申し訳ございません」
「謝らなくてもいいって、それで、アー君出来そう?」
キャンバスにはカブトムシの人型が描かれていた。
頭にはカブトムシの特徴である一本の角が生え、目は単眼を大きくしてあり、まるで人間が仮面を被っているみたいであった。体は筋肉質で、その絵は少年の心を鷲掴みしてしまうぐらいかっこいいカブトムシの人型であった。
「めっちゃかっこいいじゃん! 流石、アー君だ!」
「他もこんな感じにすればいい?」
「いや、完璧に人にして欲しいのがいるんだよな」
「5:5の割合で描いたみたけど、ゼス君が考えている割合は?」
「虫1の人間9かな」
「それって、虫要素入れるのめんどいな」
「虫要素なくてもいいよ」
「それは唯の人間だよ」
ゼスとアートが2人で話している中、1人取り残されてしまったシンカは苛立っていた。
今日はあの馬鹿の名前申請の日なのに社長に呼び出されてきてみれば新しい種族の催促だったし、最初から虫を人型にして欲しいならそう言えばいいじゃない、あの魚人のくだり要らなかったわよ! はぁ、早く帰りたい。
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