月夜の中で
アニエスは偽シルビーに石を投げたが、魔力壁に弾き返され、驚いてその場から逃げた。
この前も石を投げたのに当たらなかった、しかも、今回は魔法まで使って、エビィ様、あの女は危険だわ、魔王軍の兵士を奴隷として従えているわ、早く、エビィ様に伝えなきゃ!!!
アニエスは空間を引き裂き屋敷ではなく別館に向かった。
別館は3階まであり、1階、2階はエビィの作品が保管されており、3階はエビィの妹のラスの作品が保管されている。
屋敷の奴隷達はアニエスが別館に向かって飛んでいるところは見たが、彼女を止める人は誰もいなかった。
アニエスは別館に着くと、エビィ様を探した。彼は今日は久しぶりに作品を創れると嬉しそうに彼女に話していたのであった。
「エビィ様!!! エビィ様!」
アニエスは一階から探すことにした。
左の廊下の1番手前の部屋から開けると、人間の男の石像があり、石像は机に手を置いていた。
「何これ、これが、エビィ様の作品?」
アニエスは石像の正面から見ると、石像の顔が削れていた。
「どうして、顔を削ったのかしら?」
アニエスはその部屋を後にして隣の部屋に入った。
その部屋には両手を広げまるで、相手を掴み掛かろうとしているようなポーズの頭部がない獣人の石像が飾られていた。
「今度は獣人、頭部がないわ。エビィ様は顔を作るのは嫌なの?」
そして、1階のすべての部屋を見たアニエスは2階へ向かった。
「一階の部屋には作品一つに対して一部屋って感じだったわ。でも、全部、頭がないとか、顔が無かったりしたけど、エビィ様は頭部を作るのが苦手なのかしら? それとも、エビィ様の美的センスって事?」
2階へ登る際、窓を見ると、陽が沈んでいた。
「もう陽が沈む時間なの!? 早くエビィ様を見つけなきゃ!」
そして、2階もすべての部屋を開けてエビィ様を探したが、見つからず、3階へ向かった。
3階へ上がると、1階、2階と変わらない普通の廊下であるが、何故か、3階の廊下は嫌な雰囲気を出していた。
「なんだろう、ここに、いたくない」
アニエスの体の毛が逆立ち、彼女は震えていた。
「でも、エビィ様に言わなきゃ」
アニエスは階段近くの部屋を開けると、一枚の絵画が飾られ、絵画以外何もない部屋であった。
飾られている絵画は、色々な花が描かれた花畑であった。
「美しい絵だわ。さすが、エビィ様の妹だわ」
「でも、美しいのに、どうして、体は震えるの」
アニエスは本能脳的にその絵を怖がっていた。
「どうして、こんなにも素敵な花畑の絵なのに、どうして、私、怖いの、どうして」
そして、アニエスは部屋からでると、陽が落ち、廊下は真っ暗であった。
アニエスは目が暗さに慣れるまで少しそこで立ち止まり、見えるようになったら、2階へ戻った。
「3階を探すのは私1人じゃ、無理、怖い、あんなに美しいのに怖い。どうして、エビィ様はどこにいるの」
2階の階段でアニエスは屈み込んだ。
すると、灯りがゆっくりとアニエスに近付いてきた。
「アニエス! どうして、君がここにいるんだい!」
「エビィ様、エビィ様!!!!」
ランタンを持ったエビィにアニエスは抱きついた。
「エビィ様、エビィ様、私、私」
「急に泣いてどうしたんだい、そもそも、僕の許可なしに別館に入るのはいけない事だよ」
「ごめんなさい。でも、エビィ様に、あの女の事を話さなきゃって、必死で」
「あの女って誰のことだい?」
「エビィ様の妻です! あの女、魔法が使えるんです!」
「そうなのかい!? 魔法が使えるとは知らなかったな」
「エビィ様、今すぐあの女と別れた方がいいです!」
「大丈夫、今準備しているから、そうだな、後、3ヶ月後には、彼女は屋敷からいなくなっているはずさ」
「エビィ様、あの女には気をつけてくださいね」
「そうだね。それで、その事を伝えにここまで入ってきたのかい?」
「はい、エビィ様が作業するって言っていたじゃないですか」
「もしかして、僕の作品みた?」
「はい! どれも美しい彫刻でした!」
「アニエス、庭へ行かないかい?」
「庭ですか?」
「アニエスには、僕の自信作を見せたいんだ」
「はい!みたいです!」
「なら、庭へ行こうか」
エビィは庭までアニエスをエスコートした。
庭の中央には台座が置かれ、月の光によってあたりの花が美しく輝いていた。
「綺麗な庭ですね」
「あぁ、この庭は僕の1番のお気に入りの場所なんだ」
アニエスはエビィが言った自信作が無いことに気付いた。
「エビィ様、自信作と仰っていたのに、どこにあるのですか? あるとしたら、そこにある台座と美しい花だけですよ?」
「アニエス、こっちだよ」
エビィはアニエスを石で出来た台座の前に連れてきた。
台座には『天使』と書かれていた。
「天使? これから、エビィ様は天使をここに飾るのですか?」
「そうだよ。さぁ、アニエス、この台座に乗ってくれないかい?」
「私が? どうして?」
「僕にとって君が天使であり、僕の人生の中で1番大切なのが、君なんだ」
「エビィ様、私が乗っていいのですか?」
「仕方ない」
エビィはアニエスの腰を掴むと、彼女を持ち上げて台座に乗せた。
「きゃっ!?」
「やはり、君は美しい! アニエス、これから僕が言う通りにポーズをとってくれないかい? 君を参考にして彫刻を作りたいんだ」
「あっ! そう言うことなんですね! はい!お任せください!」
「なら、両手を前で握り、胸の位置に、そして、羽を広げ、空を見上げてくれないかい?」
「えーと、こうでしょうか」
アニエスは立ったままエビィが言った通りのポーズをした。
「うーーーん、その姿も美しいが、なにか、違う」
「エビィ様座ってみたらどうでしょうか!」
アニエスは座って空を見上げてた。
「近い! 僕の理想の姿に近いよ! だけど、これだって思えないんだよな」
「なら、これでは!」
アニエスは何度もポーズを変え、エビィに喜んでもらおうと色々試した。そして、44回目にして、やっと、彼の思い描くポーズを取ることに成功した。
アニエスは膝をついた状態で羽を大きく広げ、空に祈りを捧げているポーズをとった。
「それだ! それだよ!!! なんて、美しいんだ!!! 」
「エビィ様! これで、作品作れますね!」
「あぁ! 僕の最高の自信作が君のおかげで作れるよ!!!」
「良かった。でも、エビィ様、私はいつまでこのポーズをすればいいですか?」
エビィは台座に登り、アニエスを見つめた。
「そうだね。もう少し、このままでいてくれないかい?」
「羽を思いっきり広げるの大変なんです」
「あぁ、君の頑張りで僕の作品がより美しくなる」
エビィはアニエスの顎に手を当ててアニエスに口付けをした。
「エビィ様、愛しています」
アニエスは頬を赤らめた。
「あぁ、僕も君の事を愛しているよ」
エビィの目を見つめたアニエスは、彼の瞳が一瞬、赤黒い光を放ったのを見た。
「エビィ様、一瞬、目が光った」
光を見た時、アニエスの体が固まり始めた。
アニエスは何が起こっているのか理解できず、最後の言葉を放った。
「な、ん、で」
彼女の体が完全に固まる直後、涙が一粒ながれた。
そして、月の光が台座に差し込み、その上には、石となったアニエスとそれを眺めるエビィが立っていた。
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