シルビーの護衛
ネルガルは水面に出ると、ピアノを作り出し、演奏を始めた。
「この音は一体」
「なんて、素敵な曲なんでしょう」
来客達はどこで演奏しているのか気になり辺りを見渡しても誰も演奏者を見つけられずにいた。
「ナバン様、このピアノの音は一体どこから聞こえてくるのでしょうか」
「さぁ、ピアノはあそこにしかないと言うのに、一体誰が」
水槽に近付いた人が中に入っていた魚人の奴隷ががいなくなったことに気付き、そして、水槽の上からピアノの音が聞こえた。
「もしかして、この素晴らしい演奏は」
上を見上げると、水槽の水面に透明なピアノが浮かび、そのピアノを魚人の奴隷が弾いていた。
「なんと、美しいメロディー」
そして、演奏者が分かると、皆、彼の演奏に聴き惚れた。
演奏が終わると、ナバンに次々に奴隷を買わせてくれと貴族達が集まった。
「ナバン様、彼を私に売ってくれませんか」
「いや、それは、彼はとても珍しい奴隷ですから、お売りするのは」
「なら、彼を買った時の2倍はだそう!」
「いいえ、私ならその3倍の値段で彼を買いたいですわ!」
「待ってください、彼はまだ売れません!」
ナバンは魚人の奴隷がここまで素晴らしい演奏をする事は知らずにメビドゥース家に売ることしか考えていなかったが、他の貴族達が彼を買いたいと言われると、魚人の奴隷を手放すのが惜しくなった。
「すみませんが、今はパーティー中ですから、この話は後日話し合いましょう」
そして、エビィ•メビドゥースは彼のピアノが何処から現れたのか気になっていた。
なんて、素晴らしい奴隷なんだ! だが、あの美しいピアノは一体どこから持ってきた物なんだ? あのピアノも彼と一緒に購入したいものだ。でも、貴族達が彼をあれほど欲するとはな。そうなるの、彼の値段も上がってしまうか。はぁー、仕方ない、私に妻はいらないが、彼を手に入れるなら受け入れるしかないか。
ネルガルは演奏が終わると水槽に入り、皆に見えるようにお辞儀をした。
すると、演奏を聴いた全ての人が拍手を彼におくった。
そして、パーティーが終わり、次の日、ナバン家には沢山の手紙が送られ、全て魚人の奴隷を売ってくれという内容であった。
「まさか、あの奴隷がここまでの価値があるとはな、藍介さんも勿体無い事をしましたな」
「お父様、ネルガルを売らないのでしょう」
「シルビーは嫁ぐ準備をしていろ」
「お父様、それって」
「あぁ、メビドゥース家からの手紙だ。公爵家に娘が嫁げば、これで、我が家門も安泰と言うものだ。まぁ、条件として持参金をあの奴隷となっているがな。それでも、安いものだ!」
「お父様」
シルビーは父親の執務室から出ると、自分の部屋に戻った。
まずい、まずい、まずい、私が殺人鬼の妻なんて絶対に嫌よ!!!! でも、口の軽いお父様に真実を伝えるわけにもいけないし、沢山手紙があるんだからもっと、迷いなさいよ!!! こうなったら、ネルガルを連れて逃げるしかないわ。
シルビーは使用人の服に着替え、ネルガルのいる水槽へ向かった。
「ネルガル!ネルガル、まずいわよ。このままじゃ、私、結婚させられちゃうわ」
「シルビーにもらい手なんて、いたんだな」
「冗談言っている場合じゃないの! ネルガル、私と一緒に逃げるわよ」
「おい、そんなことしたら、相手の家が怒るぞ」
「別にいいのよ。本当の私を何も知らない、自分自身しか見ていない家族なんていらないわよ。で、一旦、私の同僚の家に匿ってもらうつもりだから、ほら、行くわよ」
「それがな、俺は潜入しなきゃいけないから、シルビーだけでも、逃げていてくれ。藍介さんから俺が行く所がどんな場所なのか教えてもらったし、あいつの尻尾を掴む為にも俺が行かなきゃいけないんだ」
「何言っているのよ! ネルガルは王子なんでしょ、なら! 今すぐに逃げなきゃ!」
「俺は兄弟の中の落ちこぼれだから心配ないさ」
「そんなこと言わないで! ネルガルが落ちこぼれと言うなら、貴方よりもピアノが下手な私はどうなるのよ!」
「そこ重要か?」
「そこまで、潜入したいの」
「まぁな」
「はぁーーーーーーー。分かった。分かったわよ。私も一緒に行くわ。元々、嫁ぎ先なんだし」
「おい、シルビーは逃げろ。屋敷に行ったら流石に逃げる算段はないだろ」
「まぁ、いざとなったら、親友に助けを求めるから大丈夫よ」
「シルビーに俺以外の友人、いたんだな」
「失礼な! まっ、彼は魔塔の当主だから、ネルガルよりかは信頼できるわね」
「それじゃ、シルビーにはこいつを付けておくか。ゴーエイ! 降りてきてくれ」
するすると天井から1匹の手のひらサイズの蜘蛛が降りてきた。
「な、く、く、くもぉ!? でか!? え!? 屋敷の者は何やっているのよ!!!」
「こいつはゴーエイ、他にも仲間がいるけど、一番話を理解できるのはこいつだからな」
蜘蛛はネルガルの手のひらに乗ると、私にお辞儀をした。って!? 蜘蛛がお辞儀!?
『ネルガル、コノヒト、ネルガル、ノ、トモダチ?』
「これから、俺達の任務を手伝ってくれる人だ。だけど、シルビーは弱いからゴーエイにはシルビーの護衛をお願いしたい」
『ワカッタ、シルビー、オレ、ガ、マモル。シルビー、ト、ハナセル、ヨウニ、オレ、ヲ、ツカイマ、二、シテホシイ』
「分かった。シルビー、ちょっと手を出してくれ」
「え、なに」
シルビーが手を出すと、ネルガルはゴーエイをシルビーの手に乗せた。
「きゃ!!!!!」
「おっと叫ぶなって」
「だって、蜘蛛が、蜘蛛がぁ!!!」
『シルビー、サマ、ハジメ、マシテ、オレ、ハ、ゴーエイ、シルビー、サマ、マモル、ヨロシク、オネガイシマス』
「え、なに、頭の中に声、誰!? 」
「これで、ゴーエイ使い魔になれたか?」
『ナレタ。コレナラ、イツデモ、ソバニイラレル』
「シルビー心強い使い魔が出来てよかったな」
「使い魔!!!!!!! 蜘蛛が!!!使い魔!?」
「だから、声がでかいって」
「あのぉ、ゴーエイさん、体を小さく出来ないかしら」
『ワカッタ、コレジャ、スグニ、ミツカッテ、シマウカラナ、チイサク、ナクコト、デキル』
すると、ゴーエイは小指の爪のサイズまで小さくなって、シルビーの肩に跳び乗った。
「うわっ!? ちょっと、私の肩に急に跳ばないでよ」
『ソバニ、イタホウガ、シルビー、ゴエイ、シヤスイ、オレ、オンミツ、スキル、モッテイル、シルビー、イガイニハ、ミツカラナイ』
「そうなのね。なかなか、スキル持ちの虫って初めて、と言うよりも、スキル持ちと言う事は、魔物じゃない!?」
「そうだぞ、今ここに後2匹いるからな」
「うそ!? 彼らを操っているのは誰なの」
「白桜か紅姫さんの配下だな」
すると、もう1匹の蜘蛛が天井から降りてきた。
「まじか、シルビー今すぐに部屋に戻れ、シルビーが居なくなったって、屋敷が大騒ぎしているみたいだぞ」
「それなら、いっそここに居ても大丈夫じゃない?」
「あのなぁ、これから嫁ぐ女が奴隷の男と密会しているのは、まずいだろ」
「密会って、私はネルガルの事は好きだけど、友人としての好きだからね」
「俺もシルビーは女として見られないな」
「言ったわね。ダメ王子」
「詰めがあまあま諜報員」
「それじゃ、ゴーエイ行くわよ」
『シルビー、ナニカ、アッタラ、オレニ、マカセロ』
「ネルガルよりもゴーエイの方が役に立ちそうだわ。それじゃ、また後で」
「寝不足はお肌に悪いからさっさと寝ろよ」
「うるさいわね!」
こうして、シルビーはメビドゥース家に嫁ぐ事が決まり、結婚式は10日後に執り行うこととなったのでした。
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