ネルガルとシルビー
「はぁー、俺はいつまで水槽で生活すればいいんだよ」
ネルガルはプカプカと巨大な水槽で浮かんでいた。
「ネルガル様、お食事ですわ」
黄色のドレスを着た女性が生魚が入った籠を持って水槽の蓋にいた。
「シルビー!ありがとうな」
「ネルガル様、昼食の後、ピアノを教えてもらいたいわ」
「シルビーは食べたのか?」
「はい、パンを一つ」
「それだけじゃ足りないだろ」
ネルガルは水をナイフに変えて、魚を捌いた。
ネルガルは紫水と良く遊んでいたお陰で水を操る力が強力となり、水槍以外にも、水を硬化させながら道具を作る事ができるようになっていた。
「まぁ、いただきますわ」
シルビーがネルガルに手を差し出し、ネルガルが彼女の手を取ると、水槽の水が固まり、2人は水の上を歩き、中央には水で作られたテーブルと椅子があり、ネルガルはシルビーを椅子に座らせた。
「さぁ、いただこうか」
「はい」
水の皿に乗った生魚を水で作られたナイフとフォークで食べ始めた。
「ネルガル様、私、ずっと、疑問に思っていた事があるのですが、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ん?疑問?俺が話せる事ならなんでも話すよ」
「なら、ネルガル様は王族だと言うのにどうして、奴隷になったのですか?」
「ごふぉ!!!」
ネルガルは盛大に食べていた魚を吹き出した。
「ネルガル様、汚いですわ」
「ごめん。シルビー、俺が王族だって、いつ気付いたんだ?」
「ネルガル様に教えてもらった曲を調べたら、王族でしか伝わっていない特別な曲であり、奴隷だと言うのに、教養があり、カトラリーを上手に使っているからです」
「もしかして、急に敬語になって、俺のことを様付けして呼ぶようになったのも」
「はい、ネルガル様が魚人族の王族の方だと、知ってしまったからです。ネルガル様、今すぐに故郷へ、お帰りください。私では、お父様を説得する事ができませんでした」
「シルビー急に故郷へ帰ればひどいな」
「ネルガル様、お父様は貴方をメビドゥース公爵家にお売りするみたいなのです」
「メビドゥース公爵家? そこに俺を売るのか?」
「はい、元々、ネルガル様を買った理由もメビドゥース家との接点を作る為であり、父は私を公爵家に嫁がせようとしているのです」
「シルビーが嫁ぐか、相手が公爵家なら良い縁談なんじゃないか?」
「いいえ、まだ決まったわけではなく、今夜パーティーを開き、そこで、私との婚約を条件として、ネルガル様をメビドゥース家に譲渡するみたいなのですわ」
「それで、相手が承諾するのか?」
「私は無理だと思います。ですが、ネルガル様の価値はそれぐらい高いものであり、ましてや、王族など、知られてしまったら、人間族と魚人族との戦争となるかもしれません。もう、どうして、捕まったのよ!」
「おっ、普段のシルビーに戻ったな」
「おっ、じゃないですわ!!!」
「いや、俺も色々あってだな」
「はいこれ!」
シルビーは籠をネルガルに渡した。
「ん? おい、なんだよこれ!」
籠の中には使用人の服と変装用の髭が入っていた。
籠の中のちょび髭を取り出した。
「これは、灰土さんぐらいしか喜ばないぞ」
「あのね! 魚人を変装させるのは初めてなのよ!ほら、馬車の準備はしてあるから、早く逃げて!今夜のパーティーに絶対に出席しちゃダメよ!」
「でも、俺の逃げた場合、シルビー、君はどうなるんだ」
「そりゃ、どっかの知らないおじさんに嫁ぐじゃないかしらね。まっ、私は全力で逃げさせてもらいます」
「シルビー、俺は友人であるシルビーを置いて逃げるなんて出来ない。それなら、シルビーこの手紙を藍介さんに渡してくれないか?」
「手紙?って、これも水で出来てるわよ!?」
「俺に紙を入手することなんて不可能だろ。なら、水で書くしかないってな。藍介さんなら、シルビーを助けてくれるかもしれない」
「そもそも、魔道具の天才藍介の知り合いなのは本当なの?」
「おい、元々俺は藍介さんの奴隷だったんだ、俺がミスったから売られたわけで」
「奴隷の手紙を受け取ると思う?」
「まっ、今すぐ渡しに行ってくれ」
「でも、これから、パーティーの準備で」
「俺の事はいいから早く、向かってくれ!」
「分かったわよ。ネルガル、メビドゥース家は表向きは評判がいいけど、裏では、何をやっているのか、分からないわ。私でさえも、彼等を調べる権限を持つ事ができないのよ」
「さすが、諜報機関『夜の蝶』シルビー•ナバンだ!」
「その話はやめなさい! もう! お父様とお母様には王宮勤めしか言ってないのに、はぁー、私も、まだまだね。もう、さっさと藍介さんにこの手紙を渡してくるわね。そしたら、ネルガル、私と一緒に逃げるでいいわよね!」
「いいや、俺はメビドゥース家に潜入するから、逃げないぞ」
「何言っているのよ。ネルガル、このまま行くと、死ぬわよ」
「シルビー、どうして、メビドゥース家に行くと俺が死ぬんだ」
「それは、言えないわ。でも、あそこは危険な場所なのよ」
「なら、行ってみるしかないだろ。俺は強いから心配するな」
「どうして、魚人の王子が私の奴隷なのよ」
「シルビーに買われたわけじゃないけどな!」
「もう! 戦争を回避しなきゃいけないのに! ネルガル! 絶対に死ぬんじゃないわよ! 私が絶対に助け出すわ!」
「そんじゃ、その手紙を藍介さんに渡しに行ってくれ」
「パーティーの時間ないからもう行くわよ! 絶対に死ぬんじゃないからね!!!」
シルビーは侍女に見つからないように屋敷を離れ、藍介の屋敷へ1人で向かったのでした。




