森の黄金の出所
ハチミツがアスラスム国で大流行したことによって、周辺国にハチミツが高値で流通するようになった。
藍介のハチミツでの成功を妬む者達は、ハチミツ採取経路を調べ上げ、禁足地である魔蟲の森から採取を行っていることを突き止め、傭兵を雇いハチミツ採取に向かわす者達が沢山現れた。だが、彼等が雇った傭兵や冒険者では、魔蟲の森の魔物達に対抗する事ができなかった。
「ふぅ、今回もあたいが沢山殺したわね」
血だらけの釘バットを片手に百合姫は人間の死体を蹴り飛ばした。
「百合姫ちゃん、ずるいですよ、私にも戦わせてください! 私の大切な仲間の巣に火をつける非道な奴らにはえい!えい!私だってぶん殴ってやりたくなるんだから!」
菊姫は人間の死体に2回殴った。
「そうだ! オラも、もっと戦いたかっただ!」
金色丸の両手は血で汚れていた。
3人の様子が伺える場所で銀次はガールゥダと一緒にオセロを楽しんでいた。
「弱すぎて話にならないのぉ、わしはゆっくり、オセロじゃな!」
「俺も戦いたかったが、あいつらは弱すぎる。よし! 端をとったぞ!」
ガールゥダも戦いに参加しようとしていたが、相手があまりにも弱すぎるので戦う気が失せ、暇つぶしに銀次にオセロを教わりながら遊んでいた。
百合姫は主人様に思念伝達を使い報告した。
『主人様、人間20名倒しました。供養は虫達にさせます』
『20人ね。勝手にハチミツを盗むのが悪いんだから、まぁ、うん。彼等を虫達に手厚く供養してほしいと伝えて頂戴』
『今回も!あたいが一番人間を倒しましたよ』
『悪い事したんだし、仕方ないわよね。うん、百合姫凄いじゃない!』
凪は人間を殺すことに最初は躊躇していたが、人間が蜂の巣に火をつけた以降、情けをかける必要はないと考えるようになっていた。
そして、人間、亜人、魔族が共存しているコウイグ国では、亜人種であるエルフがアスラスム国でのハチミツ大流行を聞きつけ、自分の故郷がとうとうアスラスム国の魔の手にかかってしまったのだと騒ぎはじめ、故郷を守るためにコウイグに住んでいたエルフが帰省し始めていた。
こうして、コウイグ国の冒険者ギルドはハチミツの調査を行うことにした。
ドワーフ族の女性フィリはコウイグ国一の冒険者ギルド『タイラント』のギルドマスターエルフ族男のメモリーと話をしていた。
ドワーフ族は人間のおじさんが体長1メートル程の体型であり、腕力、手先の器用さ、などから物を作る職人が数多く存在する種族であるが、男女比は脅威の9対1であり、ドワーフ族の女性はとても珍しい存在で、男性とは違い、ドワーフ族の女性の見た目は幼い少女の見た目であるが、胸は少女とは似つかわしい豊満な成長を遂げているため、一部の人達から熱狂的な人気を誇っていた。
「傲慢な細枝達が慌てて帰っていくなんて一体何があったんだい?」
「フィリ、ギルドマスターである僕の前でよく傲慢な細枝って言えるね」
「エルフは皆、細枝さ!」
「じゃあ、僕がおチビちゃんを呼んだのはどうしてだと思う?」
「あたしをおチビちゃんなんていうんじゃないよ! あたしはドワーフ族の戦士!にして最高峰の鍛治士!フィリだ!」
「君は27歳独身、ギルド所属のAランク冒険者にしてボロボロの武器屋を経営している。頑固で口が悪いおチビちゃんだね」
「はぁ!? あたしが口が悪いだって!? ドワーフの中じゃ、あたしは一番優しい方だよ! これだから、細枝は精神も肉体もヒョロヒョロが多いんだよ!」
「で、雑談はここまでにして、おチビちゃんに仕事なら依頼だ」
「その前におチビちゃんを訂正しろ!」
「嫌だね。それで、内容なんだが、アスラスム国の近くに禁足地『魔蟲の森』へ調査に向かってほしいんだ」
「魔蟲の森?はぁ!? あんな、虫の魔物がうじゃうじゃいる場所に行けっていうことかい!?」
「そう言うこと、今、アスラスム国で大流行中の森の黄金こと、ハチミツなんだけど、それは僕の故郷にしか採取できない物だったんだけど、今回、アスラスム国に潜入させたチームによると、森の黄金の出所が禁足地である魔蟲の森と言うことが分かったんだ」
「で、あたしにその森に調査に行けって言うことだね」
「今、僕のギルドだと君ぐらいしかまともに動ける奴がいないからね」
「細枝達が帰っちまったもんだから、動けるのかあたし、しか、いなかったってことだね」
「そう言うこと! そもそも、僕もギルドマスターじゃなかったら帰省していたからね!」
「魔蟲の森が出所というなら帰省する意味なんか、なかったんじゃないか?」
「それはね、違うよ。ハチミツは僕達にとって黄金と同じ価値のある物なんだ、そして、禁足地でも採れるとしても、あそこにいる魔物は手強い、人間は何度も禁足地に挑むが、無駄足ばかり、それなら、次は何処に目をつけると思う」
「アスラスムの奴隷にされちまったエルフから、エルフの国では森の黄金が採れると情報が出回る可能性がある」
「そう言うことだよ。僕は人間は嫌いじゃないけど、あの国の人間は大嫌いだね。そして、禁足地なんかよりも奪いやすいのか、僕の故郷だと考える人間が現れるのは時間の問題さ、だから、同胞達はいち早く故郷を護るべく帰省しているのさ」
「ふーん、まぁ、ドワーフのあたしには関係ないことだね」
「フィリ、酷いことを言うなよ。僕達の仲じゃないか、この依頼受けてくれよぉ」
「禁足地に行くんだ、それなりに装備を揃えなきゃならないし、あたしが死ぬ可能性もある。それなりの報酬を提示してもらわないと割に合わないね」
「そう言うと思ってさ、じゃーじゃーん!!! 君の店の土地の所有権、買い取っちゃいましたー」
「えぇ!? あの馬鹿がやっと土地を手放したの!?」
「まぁ、君が彼のパーティーのパートナーとして出席するのが条件だったけどね」
「はぁ!? 何勝手に決めてるんだよ!!! あたしはあの馬鹿野郎のパートナーになんてなりたくない!」
「でも、やっと土地問題を解決できるんだよ? しかも、一回のパーティーでパートナーになるだけでいいなんて破格じゃないか!」
「そうだけど、あたしはあの馬鹿と一緒にいたくない。あいつに触られるだけで、鳥肌立つんだから」
「イケメンで伯爵家、地位も名誉、富さえ持っている最高優良物件である彼を嫌うなんて、フィリは変な女だよな。僕がフィリの立場ならニース様に嫁ぐんだけどな」
「あたしは嫌なの!!!」
「まぁまぁ、それで、今回の依頼受けてくれるよね?」
メモリーはフィリに土地の権利書をヒラヒラと見せつけた。
「分かった、やるよ!やればいいんだろ!それて、帰ってきたら、あんたをぶん殴ってからパーティーに行ってやる!!!」
「よし!交渉成立!フィリよろしく頼むね!」
「で、あたしは魔蟲の森の調査だけど、森の黄金の他に何を調べてくればいいんだ?」
「それはね」
こうして、ドワーフの冒険者フィリは魔蟲の森へ行く為に家に帰り支度を始めるのでした。
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