王様の想い
王様に食事を招待された藍介と灰土一向はメイドに案内されテーブルについた。
「ふむ、あのような場所で長話も大変じゃろ。それに、我の話を聞いてもらいたくて招待したのじゃ」
「招待ありがとうございます。それで、王の話というのはどのような話なのでしょうか?」
「それはじゃな、我が若かりし時の話じゃ」
王様は自身の若かりし頃の話し始めた。
「我は昔、亜人種と人間との国、コウイグで留学していた時があってな、ライサルとはその時に知り合ったのじゃ。まぁ、あの時のライサルはそれはもう、自由を楽しんでおったな。我も楽しんでおったけとな!」
「えぇ、まぁ、あの時は楽しかったですからね。何もかも規則だの、礼儀だの、口うるさく言われ、将来は騎士になる為に剣の腕を磨けとか、私、運動苦手なのですよ。藍介さん、すみませんが、この本にサインお願いしてもよろしいですか?」
宰相は朝から立ち上がると藍介の元へ向かった。
「え? えぇ、はい。サインでしたら」
宰相は藍介が書いた料理のレシピ本を藍介に渡してサインをしてもらっていた。
「あ! ライサルずるいのじゃ! 抜け駆けは卑怯なのじゃぞ!」
「先手必勝ですね!」
「で〜、コウイグって〜言うところで〜、留学〜? して〜、楽しんだ話〜。その後〜、何かあるの〜?」
「あー、それでじゃな、我は思ったのじゃ、我の国には奴隷制度があり、魔人や亜人種達を道具のように扱っておる。我はこの国をコウイグのように、亜人種達と共存できる国に変えたいのじゃ。彼等にも、我等と同じ感情があり、愛する家族がおる。なのにじゃ、我等は彼等の平和な日常を、自身の私欲の為だけに、荒らしておる。だから、我とライサルはこの国を良くしたいと意見が一致してな、戻りたくもないこの国へ帰り、それぞれ、王になる為に」
「宰相になる為に色々とやってきたと言うわけです」
「じゃがな、我が王になったところでこの国が変わることができなかった」
「どう言うこと〜? 王様なら〜、何でも〜、思い通りに〜、できるじゃん〜」
「我も当時は思っておった。じゃがな、この国には王よりも上がいるのじゃよ。建前は我を上としているが、この国を裏で操っているのが、勇者教の教皇なのじゃ」
「やはりですね。王族派が衰退し、貴族派が勢力を増しているのは、教会と手を組んでいるからと言うことですね」
「藍介は知っておるのも当然じゃな、悲しいことに我は王だが、お飾りに過ぎん。じゃかな、今回の件で、我とサイラスの夢が叶う可能性が出てきたわけじゃ」
「英雄の頼みであれば貴族も反発しずらいと言うことでしょうか?」
「勇者さえも倒せなかったパラディンボーンを倒した功績は大きい。だがら、君達にはこの国の英雄となって欲しい。英雄の頼みなら勇者教であっても、聞かざる得ないだろう」
「そんな簡単にうまくいかないと思いますが?」
「そんな事分かっておるのじゃ。じゃがな、夢を叶える為には時に強行突破で突き進むしかない時もあるのじゃ。そして、今この時こそ! 今まで眠り続けていた夢を叶える時! 我は勇者教から凪教に改宗するのじゃ!」
「おっと、この場で決めてもよろしいですか?流石にもう少し彼等の宗教が広まったタイミングで改宗した方が良いのでは?」
「サイラス、我は今しかないと考えておる。我はいつ殺されてもおかしくないからな。なら、先手を打ち続けなければ、この国が前に進むことができなくなってしまうからな」
「分かりました。私も改宗したいと思いますが、その前に、その女神様と一度会って話してみたいのですが、そうですね。出来れば早めに会っておきたいです」
「それでしたら、今からでも大丈夫ですよ」
「え?今からですか?」
「ちょっと〜、藍介〜、主人様〜、驚くんじゃない〜」
「一応、こうなった場合はお願いしますと伝えてありますし、大丈夫でしょう」
「うわ〜、根回し早過ぎ〜」
「こんなにも話しが進むとは考えてませんでしたからね。それでは、女神凪様を呼びますね」
「この場に来られるのか?」
「話すだけでしたら、こちらの魔道具で十分なので」
藍介は懐にしまっていたポーチから水晶を取り出して、主人様に連絡した。
水晶から光が上に上がり、光の中から女性が現れた。その女性の服は半袖の胸あたりにクマの絵が描かれ、その下にクマちゃんと書いてある服と動きやすそうなズボンを履いていた。
「藍介!大丈夫だった!? ん? 今はどこにいるのかな?」
「主人様、こちら、アスラスム国、国王、メルトザーグ・アスラスム様です」
「えー、始めまして、ん? 待って? 国王? え? 藍介、えーーーーっと。先に言ってよ!!! せめてもう少しマシな服着ておくわよ!!!」
「彼女が女神凪様なのか?」
「はい、彼女こそが私達が信仰している女神、凪様なのです」
「えーと、始めまして、魔蟲の森の主の凪と申します。そのぉ、こんな服装でごめんなさい! 王様と話すと知っていたらもう少しマシな服用意したんですが」
「いいや、宰相が我儘を言ったばかりに、この様なことになってしまったのじゃ、にしても、愉快な女神様なのじゃな!」
「もう!藍介! こういう時は早めに言わなきゃダメじゃない!」
「すみません。てっきり準備してくれているかと思ってまして」
「緑癒に怒る事しか考えていなかったわよ!」
「ひぃぃいいい、主人様、僕は悪くないですぅ。あのイケスカナイ勇者教クソ野郎のせいなんですぅ」
「緑癒がここまで言うなんてどんな事があったのよ? でも、その前に、王様はどうして私に会いたかったの?」
凪はもう開き直ることにした。
「それなじゃな、我も凪教に改宗しようと思ったのじゃ。それでな、女神様がどんなお人か知っておきたかったのじゃ。どうじゃサイラス、改宗する気になったか?」
「彼女を信仰するのに不安になってきましたが、でも、愉快な方なのはその服で分かりますね。その、女神様にお願いしたいことがあるのですかよろしいでしょうか」
「私にお願いしたいこと?」
「はい、女神様を信仰する宗教、凪教を広めるにあたり、女神様ご本人がこの城に来ていただきたいのです」
「えーと、ごめんなさい。私はこの場所から離れることが出来ないのよ」
「それは、どうしてでしょうか」
「それは、私が説明させていただきます。主人様は魔蟲の森のダンジョンの主人である為、その場所から離れる事が出来ないのです」
「ダンジョンの主が女神とな、普通のダンジョンであれば、強力な魔物が主として君臨していると聞くが、まさか、異世界人がダンジョンの主に選ばられてしまったのか」
「だから、私はここから出る事が出来ない」
「凪ちゃんは頑張ればダンジョン外に出られるわよ」
唐突に透き通った美しい声が聞こえた。
「え?」
「だから、凪ちゃんが頑張るのであればダンジョンから出られるのよ。だって、私も豊穣の森の主だけど、外に出る事ができるでしょ? それに、弟にダンジョン主の権限を渡せば簡単に出られるのよ」
「おい待て! アよ! 妻にその事を伝えるのは酷いぞ!」
「酷いのはそっちよ。本来ならあんたが管理するはずのダンジョンなのだからね!」
「ぐっ、そうだが」
「えーと、藍介さん、この美しい女性は誰なのですか?」
「ア様、急に出てこないでくださいよ」
「だって、凪ちゃんばっかり拘束させて、当の本人が外で自由に暴れているんですもの。やり返してあげたくなるじゃない」
「それで、その方は?」
「初めまして、豊穣の森の主人にして、豊穣の歌姫!魔石精霊のアよ!」
「ほ、ほ、豊穣の歌姫!?」
「ま、待つのじゃ、魔石精霊、とは、精霊の原点と言われ、上位精霊よりも上の存在、ましてや、神に近いとまで聞いた事があるのじゃぞ!」
「そう、この私がその魔石精霊のアよ! それで、そこにいる煩くて、妻に何もかも押し付けて自由を謳歌しているクソ野郎が私の弟の氷月よ」
「アよ! 弟である俺様にクソ野郎はないだろ!」
「言われて当然よ!」
こうして、食事会は魔石精霊の乱入によって、王様と宰相は頭の中を整理する時間が欲しいと内心思ったのでした。
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