緑癒の挑発
王城にて王様に謁見中、王の話を聞いていたのは灰土だけであった。
王の隣にいた宰相が初のSランク冒険者チームナギハクルの活躍を話し始めていた。
「彼らは長年討伐出来なかったパラディンボーンの討伐、そして、鉱山にてメタルリザード達の討伐、ましてや、変異種であるミスリルリザードを討伐した功績となります」
「ふむ、長年パラディンボーン討伐は我らの悲願であった。ナギハクルの方達よ。ありがとう、褒美として何か欲しいものはあるか?」
灰土が話そうとした時、緑癒が灰土を遮り、話し始めた。
「ご好意ありがとうございます。欲しい物ではなく、出来れば、私達の宗教活動を許可していただきたいのです」
「宗教活動とな? して、そなたらは勇者教の信者ではないと言うことなのか?」
「はい、私達の産まれは禁足地である魔蟲の森です」
「あそこに人が住める筈なかろう」
「いいえ、現に私達は集落を作り魔蟲の森で生活していました。そして、昆虫種の魔物と日々、闘っていました。ですが! 私達の生活を平和にしてくれたのが、私達が信仰する女神、彼女は勇者様と同じ、異世界の転移者であり、女神は、昆虫種と私達の争いを終わらせ、共存を実現させた転移者様なのです! 彼女のその行いから、私達は女神と崇め、私達の宗教、凪教が誕生したのです!!!!!」
「そなたらの宗教を何故、我の国で広めようとするのじゃ?」
「女神凪様は私が凪教を広めるのは否定的です。ですが、彼女の行いは全ての人に知ってもらうべき功績! なので、私は彼女の功績を広めたいだけなのです!」
すると、話を聞いていた勇者教の司祭ハインズが話に入ってきた。
「この国では勇者教以外の宗教を禁じられています」
「知っていますとも、ですが! 勇者様と凪様は同じ異世界者、彼女を神として崇めるのはいけないことなのでしょうか? そしたら、異世界者である勇者様を神と崇めることもいけないと言うことになりませんかね?」
「勇者様とあなた達の神とは功績が違います。勇者様は魔王を倒しこの地を平和な地へ変えたのです」
「凪様だって、勇者様と違って平和的な交渉によって昆虫種の魔物と平和的な交流を果たしたのです」
「勇者様と違ってですか? 貴方は、勇者様の行いを否定するつもりなのですか」
「否定ですか、彼の行いは人間にとっては素晴らしい、行いですが、淘汰された魔族を奴隷にするのは、素晴らしい行いなのでしょうか。彼等にだって生活があり、私達と同じように平和に暮らしているにもかかわらず、奴隷として売られ、死ぬまで働き続けなければいけないなど、女神様は奴隷という制度に心を痛めているのです」
「魔族は人間の敵なのですから当然です。貴方の女神様が心を痛めているとしても、我等には関わりのないことです」
「なら何故、人間すらも奴隷として販売しているのですかね? 魔族を奴隷にするのは敵だから、と言うことにしましょう。ですが、同族を奴隷として扱っているのは何故なのですか?」
「彼らは邪教信者なのです。邪教となった者達は勇者様の敵、ならば、人間に非、人間としてではなく道具として使うのか適切なのです」
『うわ〜、俺〜、こいつ〜、大っ嫌い〜。ぶん殴っていい〜?』
『紫水、耐えろ。俺だって、殴り飛ばしたいの我慢しているんだからな』
『皆さん、僕がやっつけますから黙っていてください』
『もし、無理だったら、俺様がこいつらを皆殺しにすればいい話だからな! こんな奴ら生きていても無意味な争いしかしないだろう!ハッハー! 人思いに殺した方が世の中良くなるんじゃないか!』
『氷月に賛成〜。珍しくいいこと言うじゃん〜』
『俺も、賛成だな』
『ちょっと、皆さん腹立つのは分かりますけど藍介さんに怒られますよ』
『いや〜、緑癒もあいつに喧嘩売ってるじゃん〜。こりゃ〜、藍介に〜、怒られるの〜、確定だよね〜』
「なら、私達は勇者教ではないので邪教ということなのでしょうか?」
「勇者様と同じ異世界者を神と崇める行為はいいですが、ここで広めるのはこの国では違反となります」
「勇者様は心が狭い方だったと言うことですね。ならば、灰土、紫水、氷月、もうこの国での活動は終わりにしましょう。やはり、この国ではなく、人間と亜人種が共存している国があるみたいなのでそちらに向かいましょう。そうそう、藍介さんにも相談してみましょうか」
緑癒が謁見の間から外に出ようとした。
『緑癒〜、勝手に藍介の名前使っていいの〜?』
『これは、まずいな。黄結姫様、藍介さんに繋いでもらっていいですか!』
『きゃっ! びっくりしましたぁ。えぇ、藍介さんに繋げますね』
灰土は緑癒の話を全て藍介に話し、藍介は大慌てで王城へ向かった。
「何話しちゃってるんですか!もう! 腹立つのは分かりますけど、まだ明かすタイミングじゃないのに! これまでやってきた信頼がパァーですよ! パァー!もう! こうなったら強行手段です。私も凪教だと明かされた以上、やることは一つ! 緑癒の話に乗っかるしかないと言うこと! 後で主人様に怒って、もらわなくてはいけませんね。はぁー、私、頑張ってきたのに、こんなことになるなんて、主人様がこちらへ来られたら楽だと言うのに、はぁー。移動中、主人様に報告するとしましょう。はぁー」
王は緑癒が藍介との関わりがあることに驚いていた。
「藍介? あの天才魔道具技師テンサーを超える男、藍介と知り合いなのか」
「えぇ、彼は私達と同郷ですし、彼もまた、凪教の信者なのですよ」
「なんだと!?」
王の趣味は魔道具収集であり、この頃は藍介本人が作る魔道具を収集している。彼が凪教信者だと知り、王は驚いていた。そして、彼とは一回程度のしかも顔合わせしかしておらず、もう一度会いたくて、彼を招待したが、彼の予定は埋まっていた為、王でさえもなかなか会えない人物が藍介であった。
「なら、藍介をここへ呼ぶことはできるのか」
「出来ますとも氷月、藍介さんにきて欲しいと伝えてください」
『氷月、僕の話に合わせてくださいね』
『わかっているさ!』
「分かった」
氷月は藍介に魔法で連絡しているように見せかけた。
「丁度近くで仕事をしていたから直ぐに来れるみたいだぞ」
「おー!!!!! やっと、我も天才藍介に会えるぞ!」
「王よ! どうして、喜ばれているのですか! 彼らは勇者教信者ではないのですよ!」
「その話だが、勇者様は異世界の知識をもって産まれた人、そして、彼らの神は異世界から来て彼らを救ったのだ。それなら、彼らにもその女性を崇める事は我らが勇者を崇めるのと同じだ。パラディンボーンの討伐とミスリルリザードの討伐など、彼らの功績に相応しい褒美を渡さなければいけない。なのに、司祭風情が我とナギハクルの会話を遮り、彼らを挑発した事により、彼らを招待した我の顔に泥を塗った。お主はどんな罰を与えなければいけないか、我は今それを悩んでいるところじゃ」
「そんな、私は、勇者教司祭として勇者様の教えに従ったまでです!」
「あれ?勇者は異世界から転移した方ではないのですか?」
「勇者様は異世界の知識をもって産まれた転生者なのじゃ」
「あれ?そうでしたっけ?」
すると、兵士が1人慌てて謁見の間に入ってきた。
「王様! 待ちに待った方がやっと来ました!!!」
「もしや、藍介か!」
「そうです! 天才魔道具技師、藍介様が王に謁見を申し込みたいと門の前で待っていらっしゃいます!」
「そうであったか!!!! なら、早く彼を通してくれ! ライサルやっとあの天才に会えるぞ! 我、ワクワクしちゃう!」
王は宰相に嬉しそうに話しかけた。
「王様、今は威厳を保ってください。嬉しいのは分かりますけど、私も後でサインお願いしよーと」
「あ! ライサルだけずるいのじゃ! 我だってサインお願いしちゃうもんねー」
「その話し方どうにかなりませんかねぇ。ほら、皆、驚いて目が点になっちゃってますよ」
「父上、せめてこの場では素に戻らないでください」
たまらず第一王子バーストンも発言した。
「だって、なかなか会えなかったんじゃもーん!」
今までの威厳は無くなり、王座に座っているのは、会いたかった人に会える喜びでウッキウキしている、おじちゃんが座っていたのでした。
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