生徒を集めよう! 蚕編
凪と真白と黒常は新たな生徒を求め、2層目の蚕達に会いに行った。
蚕達は主人様が来ている事を知らずに必死に子孫を残そうと躍起になっていた。
「俺の子孫を残してくれー!!!!」
「きゃー!!! 私はもっとイケメンがいいわー!」
「メス!メス!メス!」
交尾が終わってもなお、生殖器官が繋がってしまっている蚕カップルがいた。
「誰か、助けて!!!」
「離れられなくなっちゃった!」
魔力が高い者は本来の寿命から長生きする為、お局達が交尾し終わったカップルを引き離していた。そして、魔力が高いのはメスが多かった。
「離れられなくなっちゃった!じゃねぇよ!!!おい!コラ! オスども! てめぇらが交尾下手すぎるんだよ!!! ちゃんと終わったら離れやがれ!!!」
そう、蚕の成虫の寿命は短く彼等は子孫を残す為にその短い人生に新たな命を繋ぐべく常に蚕達は交尾と言う名の戦場で戦っていたのであった。その為、他の虫達は蚕を襲う事はせずに寿命が尽きた者だけを捕食していた。
その様子を遠くの物陰から見た凪は今までのプリティーな可愛さとは違う蚕の逞しさのギャップに少し引いてしまっていた。
「今、思うと、ここって凄いところだったのね。私、蚕達がパタパタ羽を広げて幻想的で癒しスポットって思ってたけど、違ってたのね」
「蚕はいつもこんな感じですよ?」
「生徒にするなら幼虫じゃないと話にならないんじゃないか?」
「主人様の前だからあんなに自分可愛いアピールしているだけであって、本性はあんな感じなんですよ。それに、主人様!真白のほうが可愛いですよ!」
「そうね、真白は白くて可愛いわね」
凪は真白が手の平に擦り寄ってきたので親指で頭を撫でてあげた。
「幸せ」
「真白はそれでいいのかよ」
「真白は可愛いですからね!」
「そうよ、真白は可愛いからね!」
「で、だ、主人様は誰に話しかけるつもりなんだ?」
「うーん、そうね。あそこでカップルを引き離す作業をしている子なんてどうかしら?」
「あいつは、まぁ、蚕にしては魔力があるほうなんじゃないか?」
「それなら、あの子に声を掛けてみましょう!」
凪は蚕に話しかけようと物陰から出た時、蚕達は一斉にその場から逃げ始めた。
「やばい、あいつくる!」
「僕達になれなかった奴がくる!」
「茶色がやってくるよ!」
蚕達は近くの木に隠れてしまった。そして、蚕達が逃げた原因が凪の前に現れた。
虫時代の緑癒の大きさと同じだが、体の色が茶色であった。
「あら、主人様ではないですか!? まぁまぁ!? こんな所に一体何用ですか?」
茶色の蚕から大人びた女性の声の思念が凪に送られてきた。
凪は茶色蚕なんていたかしらと首を傾げていた。
「えーと、初めまして」
「そんな、初めましてなんて、私、主人様に一度お会いしているのですよ」
「えっ!? そうなの!? 思い出せなくてごめんなさい」
「いいえ、覚えてない事は仕方ないですよ。なにせ、私が卵から孵化した時にちょうど主人様が緑癒様に会いに向かわれた時のことですから。知らなくて当然です」
「そうなんだ、その、少し聞いていいかしら?」
「はい! 私に話せることでしたら、何なりとどうぞ!」
「どうして、他の子達が隠れちゃったの?」
「あ、その、私の体の色が仲間と違うのと、この巨体ですから、間違えて潰しちゃいそうになっちゃうのです。それに、私、仲間達よりも飛ぶ力が強く、羽ばたいた時に発生する風のせいで幼虫が転がってしまう事件がありまして、私、仲間から嫌われてしまったのです」
「でも、緑癒も貴方と同じ大きさだったけどそんな事なかったわよね?」
「緑癒様なら癒す力があるので、怪我をさせてしまっても癒してあげていたのではないかと思います。その点、私には仲間とは違い、癒す力がないのです。どうして、何でしょう。私だって、仲間と仲良くしたいのに、私が外から帰ってくるとみんな隠れちゃって、主人様、私、どうしたら、仲間と仲良くなれるでしょうか」
「うーん、それなら、本人達に私が話を聞いてみましょうか?」
「主人様!? いいのですか!」
「そうね、その代わりに私のお願いを聞いてくれるかしら?」
「はい!何なりとお申し付けください!」
「それじゃ、聞いてくるわね」
凪は近くの木に隠れた蚕に話を聞くことにした。
「ちょっといいかしら?どうして、あの子から逃げたの?」
「あいつ、僕達と似てるけど、少し違う!」
「茶色いの怖い」
「あんた達じゃ話にならないわね! 主人様、あたしが話させてもらいます!」
勝気な蚕が話し始めた。
「あの子は幼虫時代は桑の葉を食べるのは一緒なんですが、見た目が少し違うし、繭になった時も頑丈な繭ではなく黄色で柔らかな繭を作ってたのですよ。まぁ、あの巨体がいままで主人様の目につかなかったのは、あの子が幼虫時代から自分達と違うと自覚していていつも端っこで暮らしていましたからね。緑癒様はたまに話しかけに行ってましたが、彼女が成虫となると、皆と同じように空を飛ぼうと羽ばたいた時、彼女の飛翔力が私達よりも遥かに強く、何人かが葉から転がり落ちると言う事件が起こってしまったのです。それ以降、あたし達はあの子を避けるようになってしまったのです」
「そうなのね。仲良くなりたいってあの子が言ってたけど、仲良くなる事は難しいかしら?」
「あたしだって出来れば仲良くしたいのですが、あたし達はこの洞窟で一番弱い種族です。それに、寿命も短い、仲良くする時間よりも子孫を残す為に時間を使わなければいけないのです」
「そうよね、話を聞かせてくれてありがとう」
「いいえ、あの、主人様、お願いがあります。あの子は緑癒様並みの寿命を持つと思われます。ですから、あの子を主人様お側に仕えさせてあげてはもらえませんか! あの子なら力が強いですし、根はいい子なんです。どうか!どうか!あの子を!」
「そうね、真白、黒常、あの子なら丁度いいわよね」
「はい! 真白は主人様が言いたいことわかります!」
「まぁ、賛成だな、一人じゃなくなるし、あの魔力量なら寿命の方は大丈夫そうだしな」
「よし、あの子を生徒に加えるわよ!」
「おー!!! ほら、黒常もやりますよ!おー!!!」
「俺はやらん」
「黒常は冷たいですね。今度ミーライちゃんとデートでもしたらどうですか」
「おー!!!! やる気出てきたー!!!おー!!!」
「あからさまね」
そして、凪は茶色の蚕の前に戻った。凪は勝気な蚕の話を話してあげた。
「やはり、そうでしたか、私、仲良くなれないのですね」
「そこで、何だけど、貴方、虫人になってみようとは思わない?」
「虫人ですか!? あの、私なんかが虫人に進化できるのですか?」
「それを確かめる為に生徒を集めているのよ」
「虫人!? 真白初耳です!」
「虫人かぁ、もしかしたら、俺が進化したらミーライの呪縛から解放されるんじゃないか、それなら、やる気出てきた!!!!」
「呪縛って酷いですね。純粋な乙女の恋心を貶すなんて、黒常酷いですよ」
「仕方ないだろ、よし、俺は虫人になってミーライの呪縛から解放されるんだ!!!」
「虫人になったら、体も小さくなるし、緑癒がいない間、仲間を守ってあげられるようになるんじゃない?そうしたら、仲間が貴方を慕ってくれるようになると思うのよ」
「私が虫人、分かりました! 主人様の提案を受けたいです!」
「よし!5人目ゲット! でも、名前がないのは不憫ね。よし、貴方の名前を考えてもいいかしら?」
「私に名前ですか!? 是非お願いします!」
「そう、それなら、桑胡!でどう!」
「ありがとうございます! 今日から私の名前は桑胡です!!!」
「桑胡さん真白と言います!これから、よろしくお願いします!」
「黒常だよろしくな」
「はい!真白さんに黒常さんですね!よろしくお願いします!」
「よし、今日は生徒集めは終わりにしようかな、桑胡ちゃん、今日から私の家に来ない?」
「いいのですか!」
「えぇ、それに、久しぶりにモフりたいし」
「モフ?」
「それじゃあ、帰るわよ!」
「それでしたら、私がお送りします! 主人様、私の腕に捕まってください」
桑胡は主人様を抱きしめ、空を飛び、主人様の家に向かったのでした。
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