村人の企み
馬車で寝泊まりすることになった灰土と紫水の元へ胸元が少し肌けた女のから差し入れがあった。
「こちらをどうぞ食べてください」
彼女はこの村では貴重な砂糖を使ったクッキーを渡した。
「ありがとうございます。美味しくいただきます」
「何かありましたらいつでも声をかけてくださいね」
「なに〜、あ〜、クッキーじゃん〜」
「紫水、きちんとお礼を言わなきゃダメだぞ」
「う〜ん? まぁ〜、ありがとうね〜」
「はい! それでは、失礼します」
女性はそそくさとその場から立ち去った。
紫水と灰土は同じ馬車に入り、灰土は早速クッキーを食べようとした。
「灰土〜、これ食べない方がいいよ〜」
「何をいっているんだ、折角のご好意だぞ。無下にする事はできない」
「特に灰土は食べちゃダメ〜」
「どう言う事だ?」
「このクッキー、媚薬入りだよ〜」
「媚薬? 何故、媚薬入りって分かるんだ?」
「俺は〜、毒を操ることも出来るからね〜。匂いで毒の種類分かるんだ〜」
「初耳だな」
「だって〜、俺〜、毒使わなくても余裕で強いからさ〜、毒なんて使ったら〜、俺に〜、誰も勝てなくなっちゃうからね〜。何もかもを沈めることも出来るし〜、それを毒に変えることだって〜、出来ちゃうんだよ〜。俺って〜、この世界で1番強いんだよね〜」
「で、紫水の自慢話はそこら辺に置いておいて、何故、俺達に媚薬なんか盛るんだ?」
「簡単だよ〜、この村の男見たでしょ〜。ブサイク多くて〜、女の人可哀想〜」
「それで、俺達に媚薬を盛ったと?」
「そう言うこと〜。人間ってさ〜、外見至上主義なんだよね〜。で〜、俺達はイケメン〜、美女揃いだからさ〜、もしかしたら〜、宿の方も大変かもね〜」
「今すぐに助けなくては!」
「いいや〜、護衛いるから〜、いいんじゃない〜? ネルガルは〜、やる時はやる男だからね〜」
「俺の中のネルガルはサーフィンしかしていないような?」
宿屋では女性陣が泊まっている部屋の前でネルガルが警備していた。すると、夜に男がお菓子の差し入れを持って来た。
「これを彼女達に渡してください」
「なんだこれ? クッキーか? わかりました。明日渡しておきます」
「いや、今すぐに渡して欲しいんだ!」
男は強引に部屋をドアを開けようとドアノブに手をかけた時、ネルガルは男の腕を握った。
「いててててぇえ!!!!」
「おい、これ以上そのドアに触るな。腕をへし折られたいのか」
「やめてくれ! 俺は、ただ、このクッキーを食べて欲しいだけなんだ!」
「じゃあ、手をどかせ」
「分かった。分かったから離してくれ!」
「痛い目に遭いたく無かったらさっさと失せろ」
「ひぃいいい、奴隷のくせに」
男はクッキーをネルガルに押し付けて走り去った。
「あいつ、絶対に変なこと考えてるよな。このクッキー、怪しいな」
ネルガルと村人のやり取りを聴いていたライネルが部屋から出て来た。
「おー!ネルガル、楽しそうな事してるじゃねぇか」
「交代の時間だな。ライネル、ここの村人絶対何かやって来るはずだ、気を抜くなよ」
「わーかってるって、何かやって来たらぶん殴ってやるぜ」
「できれば平和的な解決でやってくれ、何かあったら面倒だからな。それに、俺達は目立っちゃいけないって事は頭に入れておけよな」
「目立つも何も、紅姫さんや灰土さんがいたら目立つに決まってるだろ」
「だからだ、俺達だけは動きやすくしていた方がいい」
「了解、暇だから筋トレでもしようかね」
「お前なぁ」
ネルガルは部屋に入りベッドで休息を取り、ライネルは女性陣泊まっている部屋の前で筋トレを始めた。
ライネルが筋トレを始め2時間ほど経った時であった。わらわらと、5人の男がライネルの前に現れた。
「おい、今俺は取り込み中なんだ。要件を言ったらさっさと失せろ」
恰幅の良い男が言い返した。
「奴隷のくせに生意気な、俺達はこの部屋の女達に用があるんだ、失せるのはお前の方だ、今すぐにどきやがれ」
「ふぅ、まぁ、この頃暴れてねぇし、今日ぐらいいいよな?」
「邪魔だどきやがれ!!!」
3人の男がライネルに殴りかかった。が、ただの村人と魔王軍の隊長クラスの実力を持つライネルとでは、力の差は歴然であった。
ライネルは殴りかかって来た男の腕をへし折り、挑発をして来た男の顔面に強烈なパンチを喰らわした。
4人の村人は泣き喚き、残りの1人は慌ててその場から逃げ出した。
「弱すぎるじゃねぇか」
その物音で目覚めた花茶がドアを開けた。
「ライネルお兄ちゃんうるさいよぉ。花茶眠い」
「おっごめんな。悪いやつは退治したからベッドで寝てろ」
「悪いやつ? ふぁーあ。花茶寝る〜」
「おうよ! おやすみ」
「おやすみなさい」
花茶はドアを閉めてベッドで眠りについた。
隣の部屋で騒動を聴いていた氷月は喧嘩に参戦しようとしていたので、緑癒は必死に止めていた。
「ダメですってば! ライネルに任せれば良いんですって」
「何を言っている! 喧嘩となれば俺様が登場する方が良いに決まってるじゃないか!」
「良い訳ないでしょ! 貴方だとやり過ぎるんですよ」
「そんな事ないぞ! 俺様も手加減が出来る!」
「そう言いながら人間を真っ二つにしそうじゃないですか! それを治すのは僕なんです! 僕の仕事を増やさないでー!!!!」
こうして、村人達の企みから守ったライネルは、次の日やり過ぎだとネルガルの緑癒に怒られたのでした。
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