巨人の少年の恋 後編
巨人の少年ラトムは3ヶ月間、魔石精霊アの魔法の修行によって火属性魔法を習得した。
「師匠、僕とお風呂に入ろうとしないとはどうしてなのですか?」
「急に何を言い出すのよ」
「僕が初めて師匠と会った日の時、僕を無理やりお風呂に入れたじゃないですか、あの時から一度も僕とお風呂入ってないじゃないですか」
「だって、凄く嫌がってたから、私だって、嫌われてるぐらい分かるもの。あの時は、その、やり過ぎたって反省してるわ」
「師匠! 僕は今は師匠とお風呂入るのは嫌じゃないです! だから! 今日! 僕と一緒にお風呂に入りましょう!」
「ごめんなさいね。気を遣わせちゃって、ゆっくり一人で入ってきなさい」
ラトムは渋々一人でお風呂に入りに行った。
「急にどうしたのかしら? この頃は悪魔! とか、言われなくなったけどさ」
アはラトムの変わりように戸惑っていた。
そして、半年が経ち、ラトムは故郷へ帰る決意をした。
「師匠! 僕と一緒に僕の村に来ませんか!」
「行かないわよ。坊やには説明したけど、私は神からの試練に勝たなきゃいけないの。坊やには、私の一部を渡すわ」
アは自分のカケラをラトムに渡した。
青白い光りで輝く美しい石であった。
「師匠、僕は巨人族の争いを止めてみせます! だから、僕が帰ってきたら、また僕と一緒に暮らしてくれますか?」
「無事に帰ってこれたら考えてあげてもいいわよ。私も、もうそろそろ、神の試練を受けようかしらね」
「魔法を教えてくれてありがとうございました! 師匠! 僕はもっと、もっと強くなって師匠の試練を手伝えるような男になります! だから、僕の事を忘れないでください!」
「忘れないわよ。ラトム、私にとって貴方との生活は貴重な体験になったわ。ラトム、貴方に出会えて良かったわ。大切な弟子の門出に、私からの祝福を」
森を囲っていた砂嵐は止み、空は美しい青空の下、ラトムは故郷へ帰ったのでした。
「これが、ラトムとの出会いと別れの話よ」
アビーサは少年時代のラトムに哀れんだ。
「強制的に女の体を見せるとは、少年にとって色々と可哀想なことじゃわい。アよ、そんな事をしたのにあやつを振ったのか」
「あの時はそれが最善だと考えた結果よ。今の私はそんな事しないからね」
「ねぇ! ねぇ! この話はこれで終わりなの? 花茶続き知りたい!」
「わしもじゃ、この石板には全く触れてないのじゃ!」
ライネルは退屈過ぎて眠っていた。
「まだ彼との話はあるけど、今日はここまでよ。もういい時間だから、明日、ラトムが森へ帰ってきた話をしてあげるわ」
「うん! 花茶お腹減った! ライネルお兄ちゃん! 起きて! 今日のご飯は主人様が担当なんだよ。早く行こー!!!」
「んなっ、あ? 俺、いつの間にか寝ちまってたのか」
「よいしょっと」
花茶はライネルを抱え、主人様の家へ全力ダッシュした。
「俺は走れるから降ろしてくれぇええよぉおお!」
「ほぉ、花茶は力持ちなのじゃな!」
「フローちゃん、わしと一緒にご飯でもどうかのぉ」
「いいのじゃ! 久しぶりにお祖父様と一緒ご飯食べるのじゃ!」
「ほぉっ!ほぉっ! 孫と食べれるなんて嬉しいのぉ。アもどうじゃ?」
「私は、ここにいるわ」
「そうか、それじゃ、フローちゃん行くぞ」
「行くのじゃ!」
アビーサとフローゼラーは豊穣の森を後にした。
一人残ったアは石板を指でなぞった。
「こんな薄情ものに素敵な恋文を贈るなんて、本当に貴方は馬鹿なのよ。でも、貴方の気持ちを知りながら応えることが出来なかった。私の方が、貴方よりも大馬鹿者ね」
アの頬には涙が流れ、彼女は遠い記憶を懐かしみながら、自分の本体へ帰った。
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