巨人の少年と綺麗な石 前編
アはフローゼラー、花茶、ライネルに遥か昔の話を始めた。
アは魔石を使い目の前に砂漠を投影した。
「遥か昔、巨人族は常に争い、小さな生物から全てを奪い、他の生物達から嫌われていました。そして、巨人族の少年は誰も到達した事のない楽園。豊穣の森へ一人で向かったのでした」
巨人族の少年の体長3メートル、褐色の肌、巨人族の中で珍しく精悍な顔つき、強靭な肉体、膨大な魔力を持ち、神から全てを受け取ったと思われる程、少年はこの世界で1番完璧な存在と言われてもおかしくない実力を秘めいた。
少年は村の大人達が誰一人行った事のない、砂漠の果てを目指していた。
砂嵐吹き荒れる中、少年は一歩、一歩確実に前へ進んでいた。
「僕ならいける。僕なら争いを止められる」
だが、砂嵐はより一層強くなり、前へ進めなくなってしまった。
少年は砂嵐を防ぐ為に魔力を使い防壁を築いた。
「食料が尽きたか、もっと、持ってくるべきだった。いいや! 重たい荷物を持ってたらここまで進めるわけないだろ! 弱気になるなラトム! 僕は、僕は、前に進むんだ!」
そうして、ラトムは食料が無い中ひたすら前へ前へ進んだ。
進む方向は夜空を見て確認し、食料が無くなり10日が経った時であった。
ラトムの体力も底がつき、空腹、喉の渇きがピークを達し、ラトムはその場で倒れた。
少年の体は砂に埋まり、彼は走馬灯を見ていた。
だが、少年に奇跡が起こった。
「あら、こんな所に巨人の子供なんて珍しいわね。私に見つかって、貴方は運がいいわね」
とある人が少年を運び出した。
その人は綺麗な石を変形させ少年を石に乗せ、砂嵐吹き荒れる中、彼女は歌を唄いながら少年を森へ運んだ。
少年は目覚めるとそこには緑が生い茂る美しい森の中にいた。
「ここは、神の園か、僕は死んだんだ」
少年は森の中に美しい湖を見つけた。
「水だ!!!」
少年は湖の水を飲んだ。飲んで、飲んで、喉の渇きを癒した時、まだ自分は死んでいないと気付いた。
「僕は、生きているんだ」
少年は涙した。それと、同時に安堵した。すると、腹が大きな音を出して鳴った。
「ここなら食べ物が沢山ありそうだ」
少年が立ち上がった時、上空から湖に向かって、巨大な綺麗な石が降ってきた。
湖の水は森全体に飛び散った。
「なんだ! 何故、石が上から降ってきたんだ!?」
少年は目の前光景に驚いた。
「あら、貴方起きたのね」
石の方角から女性の声が聞こえた。
「誰だ!お前は!!!」
「ちょっと助けてあげたのにお前なんて失礼じゃない! ほんと、巨人族って体と同じで態度までデカいんだから」
「僕を助けてくれたのか」
「そうよ。貴方が目を閉じる前、何処にいたか思い出してみなさい」
「僕は砂漠の中で、砂に埋もれていって」
「そんな貴方を助けたのが私よ。命の恩人なんだから感謝しなさい」
「そう言う君も態度デカく無いか?」
「恩人に向かってその口の聞き方しか出来ないのかしらね」
「すみません」
「あら、素直に謝れるのね。巨人族にしては、珍しいわね」
「その、気になる事があるんだけど、君は何処にいるんだ?」
「目の前にいるじゃない」
「下にいるのか?」
少年は足元を見た。
「私は貴方よりも大きいわよ」
「魔力を持つ木は話し始めるとお婆様が言っていたけど、君は木なのかい?」
「ドライアドじゃないわよ。私はもっと上位の精霊よ」
「精霊、もしかして、君は! 湖の精霊なのか!」
「ウンディーネじゃないわよ!」
「それなら、君は一体何の精霊なんだ! そうか! 風の精霊なのか!」
「馬鹿なの! 目の前に貴方よりも立派で大きな物があるでしょ!」
「もしかして、さっき上から降ってきた石なのか!?」
「正解! 石は石でも莫大な魔力を持つ魔石よ! そして、私はその精霊。魔石精霊、その名もアよ!」
「魔石精霊なんて初めて聞いたよ。名前がアヨか、僕を助けてくれてありがとう!アヨさん!」
「違うわよ! ア! 私の名前はアなのよ!」
「ん? 名前はアナノヨさんなのか?」
「だから!!!! 私の名前はア!名前はア!!!」
「ア? 名前はア、なのか?」
「そうよ。私の名前はア!なのよ」
「不思議な名前なんだね」
「そう言う少年の名前はなんて言うのかしら?」
「僕の名前はラトム! オオガリ村の長の息子! ラトム!」
こうして、魔石精霊アと巨人族の少年ラトムは出会ったのでした。
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