彼女の目覚め
結魂式が終わり魔蟲の洞窟には平穏な日々が来るかと思いきや、参列者達は温泉施設や新たな遊びなど思い思いに魔蟲の洞窟を楽しんでいた。
オビリオン一家とゴウライ一家は一緒に温泉に入り、男女それぞれ温泉を楽しんでいた。
魔王はラヒートの側で師匠であるアビーサと共に彼女を見つめていた。
「師匠、ラヒートはいつ目を覚ますのですか」
「彼女の体は緑癒のお陰で完全に回復しているが、あとは彼女自身の問題じゃな。そうじゃ、大昔に流行った物語があってな、愛する者がキスする事で眠りについた者を目覚めさせることが出来るという話があったのじゃ。いっそのことその物語みたいにキスでもしてみればいいんじゃないか?」
「あー、異世界人が流行らせた物語か、キスして目覚めるなら何度だってキスするさ」
「やらないのか?」
「いや、久しぶりにキスするのも、いい、よな?」
「わしに聞くな、やりたいならやればいいだけなのじゃ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて、師匠邪魔なので出ていってもらえませんか」
「その言い方はムカつくが、いいじゃろ。もし何かあったら呼ぶのじゃぞ」
「はーい」
アビーサは部屋から退出し、眠っているラヒートと魔王だけとなった。
「ラヒート、愛してる」
魔王はラヒートの唇に口付けをした。
すると、彼女が金色に光り輝いた。
「うわっ!!! 眩しい!!!」
魔王が叫ぶとアビーサが慌てて部屋に入った。
「どうしたのじゃ! うわっ! 眩しいのぉ!!!」
そして、光が弱まると今まで目覚めなかったラヒートが目を覚ました。
「ラヒート! 師匠! ラヒートが目覚めました!」
「あのまじないって効くのじゃな。わし、冗談で言ったのに」
ラヒートは魔王の顔を見て涙を流した。
「どうして、私、生きているの。私は死ぬべきなのに、どうして、どうして」
「ラヒート!」
魔王は涙を流すラヒートを強く、強く抱きしめた。
「そんなこと言わないでくれ、俺にとって君は大切な人なんだ」
ラヒートはより一層涙を流した。
「わたし、貴方を利用していたわ。それに、私はリリアーナ様みたいに美しくない」
「そんなことないさ、君は美しい」
アビーサは2人仲を邪魔をしたくないのでこっそりと退出し、緑癒を呼びにいった。
魔王はもう一度ラヒートに口付けをして、抱きしめた。
「魔王様、あの、ここはどこですか。私はあの時、魔王様に殺された筈じゃ」
「いいや、俺はあの時君を殺さずに封印したんだ。そして、君にかけられた呪いを魔蟲の洞窟に住む長にお願いして解呪してもらったんだ」
「どうして、そんな事をするのですか。私が生きていたら、リリアーナ様が激怒してしまう」
「リリアーナの事は考えなくていい、俺が君のそばで守り続けてあげるから」
「魔王様でも私を守る事などできません。あの男のせいでリリアーナ様は変われてしまったのですから」
「あの男? それって誰のことなんだ?」
「ぐっ!」
強烈な頭痛が彼女を襲った。
「ラヒート!? 緑癒! 緑癒は今どこにいるんだ!」
すると、廊下で待機していた緑癒とアビーサが部屋に入った。
「緑癒はここですよ。ラヒートさん目覚めたのですね。はい、僕の鱗粉で痛いの取れますよ」
緑癒はラヒートに緑色の鱗粉をかけた。
すると、激痛だった痛みがすぐに消え去った。
「鱗粉だけであの痛みを消せるなんて、もしかして、貴方は2層目の長さん?」
「おや、僕のことを知っていますか?」
「えぇ、私ここに住んでたから、でも、私が知っている長さんは白くてフカフカな可愛い虫だったような? どうして、人の姿に?」
「僕は主人様のお陰で新たな種族虫人として進化したのですよ!」
「虫人ですか、その、私を助けてくれてありがとうございます。でも、私はあのまま死にたかった」
「ラヒートさん、貴方が死にたがっていたとしても、貴方を死なせることはできませんし、そもそも、僕達にとって貴方は、リリアーナを見つけ出す手掛かりなので、貴方が自殺しようとしても、僕の力で死から甦らせますので面倒な事はしないでくださいね」
「緑癒! 物騒なことを言わないでくれ、ラヒートは目覚めたばかりだから今日はゆっくり休ませたいんだ」
「わかってますとも、でも、彼女は死にたい様子だったので、忠告だけさせて頂きました。僕にとってリリアーナの情報は今すぐにても欲しいのですよね。僕は主人様と早く交尾したい!」
「わかった。わかったから、すまないが俺とラヒートの2人だけにさせてくれ」
「仕方ないですね。主人様と仲間には伝えてもいいですよね」
「あぁ、よろしく頼む。明日話し合いの場を設けるから、それまでは休ませたいんだ」
「ラヒートさん、貴方はこんなにも魔王さんに愛されているのですから、今は彼に甘えてもいいんじゃないですかね。それでは、僕は主人様に報告してきますね」
「わしはイデア達にはなしにいってくるわい」
緑癒とアビーサは部屋から退出し、それぞれラヒートが目覚めたことを報告しに行ったのでした。
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