マラン、紅姫と闘う 屋台編
灰土の説明は簡潔だった。
「今回の戦いでは武器は禁止、拳だけの勝負となる。だが、紅姫様とマランさんの戦闘力があまりにも差があるので、マランさんは魔法を2回だけ使える。その魔法も制限があり支援魔法だけとなっている。紅姫様を直接攻撃する魔法は禁止になっているからな。そして、精霊は参加禁止だ。マランさんだけで戦ってもらう」
「シェーフ勝手に出てくるなよ」
『マラン頑張るのよ。私がお膳立てしてあげたんだもん、私を楽しませてね』
「やっぱり犯人はお前か!!!」
『じゃ、屋台が並んでたから見にいこうかしらね』
シェーフは姿を消した。
「くそぉ、あいつ、俺の手紙を変えやがって、後で痛い目に合わせるからな」
「精霊はいなくなったみたいだな、あとはこれを渡しておく」
灰土は黒色のボクシングパンツを渡した。
「上着はないんですか?」
「主人様が言うに男は上裸みたいだからな、紅姫様はキチンと上を着ているぞ」
「俺の男らしさをアピールするにはちょうど良いか」
「説明は終わったから明日になるまで自由時間だ。外には屋台が出ているから屋台巡りでもしてみたらどうだ? 俺がおすすめの屋台は射的だな。銃という武器を使うんだが、あの武器はかっこいい。それに、玉を景品に当てて落とすと貰えるんだ」
「情報ありがとうございます」
「それじゃあ、俺は主人様の警護に向かう。明日、頑張れよ。死んでも緑癒様が生き返られせてくれるから安心して紅姫様と戦ってこい」
「流石に紅姫さんは俺を殺さないですよ」
「いいや、紅姫様は自分に果たし状を送ってきた相手なんだから自分を倒せる相手だと考えているんだ。だから、全力で倒しにかかってくると俺は予想している」
「死なないように、頑張ります」
「頑張れよ」
灰土はマランの肩に手を乗せ励まして部屋から出て行った。
「俺、明日死ぬのか。でも、少しでもかっこいいところを見せてつけて、紅姫さんと結婚してみせる! よし、暇だし屋台でも観に行くか」
マランは控え室から出て、外へ出た。
彼の前にはお祭り騒ぎの虫達の姿と多くの屋台が広がり、屋台の割合は食べ物が多く、弔い屋と言う名前の虫の死体を広げている屋台や、花の種類ごとにハチミツの屋台があり、その中でも1番人気は花茶のハチミツ屋だった。その他には菊姫と百合姫のパンケーキ屋、銀次とアビーサの型抜き、金色丸の丸太で力試し、蝋梅妃の簡易型鏡の迷宮。主人様の射的、紫水の休憩所、緑癒のプチ教会があり、長以外の虫達も皆思い思いの屋台を開き、楽しんでいた。
「すごいな、豊穣祭並みの活気だ」
「花茶のハチミツ美味しいよ! 食べて食べて!」
アホ毛が長い茶色の髪の少女がハチミツを売っていた。
「あー!マランさんだ! マランさん紅姫さんと闘うんだよね! 頑張ってね! これあげる!」
マランは少女からハチミツを貰った。
「お代はいいのか?」
「いいよ! 明日は死んじゃうと思うからあげるよ! これ食べて元気出してね!」
「あ、ありがとう」
マランは複雑な感情になった。その後も、屋台の人にマランは呼び止められ皆明日は死ぬからとマランに屋台の商品をあげていた。
両手いっぱいになったマランは一度控え室に戻り荷物を下ろしてまた外へ出た。
「タダであんなに貰えるなんて嬉しいけどさ、死ぬ事を同情されて渡させるのがキツいわ。そんなに俺が弱く見えるのか? こう見えても俺はエリートだぞ」
「そこのエリートさん、私の射的やってかない?」
マランが右を向くと主人さんがいた。
「うわっ! 主人さん!?」
「同情されるわよ。だって相手が紅姫だからね。仕方ないわよ。それで、射的やってみる?」
マランは射的屋を見るとぬいぐるみやお菓子や小物などが台の上に置かれていた。
「ぬいぐるみか、紅姫さん喜ぶかな?」
「ふふふ、さっきね紅姫あそこにあるぬいぐるみが欲しくてやったんだけど取れなかったのよ。もし、マランさんが取ることができれば」
「紅姫さんに喜んでもらえる! 俺やります!」
「よし! 玉は10発で装填の仕方はと」
主人さんに銃の扱いを教えてもらって俺は紅姫さんが欲しがっているウサギのぬいぐるみを狙った。
ウサギのぬいぐるみは右から2番目の位置になった。俺は狙い澄まして銃を撃った。パァッンと音が出て玉がウサギのぬいぐるみに当たったが、右にずれただけで落ちはしなかった。
「よっしゃ!1発でゲット!」
「落ちてないからダメよ。あそこの台から落とさなきゃ」
「えー、一発で当てたのに、ダメなんですか」
「落としたらあげるわよ」
「まぁ、要領はつかんだから、ここから一発でぬいぐるみ取ってやるぜ!」
俺は10発全て使いウサギのぬいぐるみをゲットした。
「まさか、後少しで当たっても動かなくなるなんて思いもしなかった」
「ウサギのぬいぐるみ取れたじゃない! おめでとう!」
「俺は他のものとって紅姫さんに喜んでもらおうと思ってたのに!」
「まだやる? 次からはお金取るわよ?」
「10発でいくらですか!」
「銅貨5枚ね」
「よし! 銅貨50枚だすから100発で!」
「毎度あり!」
「全部のぬいぐるみ落としてみせる!!!」
それから、俺は日が落ちるまで射的屋にいた。そして、俺の戦利品は、クマ2、ウサギ3、ネコ2、イヌの計8個のぬいぐるみをゲットした。
「すごいわね! ここまで取られるなんて考えたなかったわ!」
「思ったより取れなかった。でも、これだけあれば紅姫さん喜んでくれるかな」
「そうだ、ちょっとした疑問なんだけど、虫達ってお金持ってるのか?」
「えぇ、私が発行したこのお札で買い物を楽しんでもらってるわ」
「へぇー、紙の金か」
「まぁ、ここでしか使えないし、皆んなには10虫札を10枚を支給したのよ。私の店だと10虫で玉10発と交換ね」
「その、お金の呼び名それでいいのか?」
「分かりやすいから良いじゃない」
「まぁ、そうだよな。そういえば、銅貨5枚で10虫札と同じ価値なのか?」
「適当に言ったわ」
「俺にも10虫札支給してくれよ!!!」
「別に良いじゃない! 貴方のお金で取らなかったら紅姫のプレゼントにならないでしょ!」
「ん、まぁ、銅貨50枚でぬいぐるみ8個は破格だよな」
「でしょ、本当は銀貨って言おうと思ったけど、可哀想だからやめたのよ」
「俺から金をむしり取る気があったのかよ!」
「虫だけにね!」
「寒いからやめてくれ、ん? どうして、俺のウサギのぬいぐるみが浮かんで、って、シェーフ!? 俺のぬいぐるみを返せ!!!」
シェーフはマランが取ったウサギのぬいぐるみを一個持って逃げ去った。
「くそぉ!!! おれのぬいぐるみがぁぁぁぁあ! 仕方も、紅姫さんが欲しがっているぬいぐるみをピンポイントに持って行きやがってぇぇえええ!!!」
マランはその後、必死にシェーフを探したが、完璧に隠れた精霊を見つけるのは困難であった。そして、屋台で腹を満たし、マランは明日の紅姫との試合に臨むために早めに眠りについた。
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