犬猿の仲
黄結姫は藍介よりも早くテンサーの店に着き彼の工房で彼の話を聞いていた。
「ママ〜! 僕の魔道具見てみて! すごいでしょ! それでね、今日は僕の魔道具を作る所をママに見てもらいたいな」
子供のようにテンサーは黄結姫の胸に抱きつくと黄結姫は優しく彼の頭を撫でていた。
「でも、この後藍介様が来るので藍介様とのお話が終わってからにしましょうね」
「はーい! 僕はずっとママと一緒にいたいな。どうしたら、ママと一緒にいられるんだろう」
「ブッ、ブフォッ! し、失礼しました。私はお邪魔になるようなので店番でもいたします」
テンサーは自分ができる限りの愛嬌を使い黄結姫に甘えた。その、彼の姿を見たガメツイは笑いを堪えきれずに部屋から退出した。
そして、藍介がスミスを連れて店にやってきた時、スミスにとって考えられない光景が広がっていた。
「ママ! 僕ね、もっとママと仲良くなって、それでね、ママに子供がいたとしても、僕ならいつでも本当の家族になってあげられるよ」
「紫水の弟になりたいのですね。でも、紫水が弟が出来たら仲良くなってくれるかしら? 一度紫水に聞いた方が良いわね」
「いや、弟じゃなくてね。ママの夫になりたいな」
「夫ですか、私はもう結魂しているので、結魂はできないんじゃ?」
「え! 一体だれと結婚しているんだ! 未亡人じゃなかったのか!」
この会話を全て聞いたスミスは目の前の状況を理解できずに混乱していた。
「あの、藍介様、どうして、テンサー様が黄結さんに抱きついているのですかね?」
「それが、昨日からテンサーさんが黄結の事を母親だと言い始めたのですよ」
「はぁ」
テンサーは黄結姫に甘えていたので藍介とスミスが部屋にいる事をやっと気付いた。
「うわっ! ムカつくイケメン2人組だ! そのイケメン面を僕に見せないでくれ!」
スミスは臆することなくテンサーに挨拶をした。
「テンサー様、お久しぶりです。ヤバラン伯爵のパーティー以来ですね」
「あー、そうだね。平民出身が貴族のパーティーに出れるなんてあの時のパーティーは低俗なパーティーだったね。あそこまで酷いパーティーは初めてさ」
スミスは一瞬暗い顔をしたが、すぐに元の顔に戻った。
「そうですね。私もそう思います。まさか、伯爵婦人が平民出身である私をベッドに誘うなんて、貴族品位が落ちるというもの。あっ、でも、あのパーティーでの、テンサー様は令嬢達とはお話をしたことがないようでしたね。令嬢に踊りなさそう勇気もなく、1人寂しくワインを飲んで、酔い潰れていましたからね!」
「だからこいつは嫌いなんだ! この腹黒クソイケメンが! 藍介! こいつと手を組むのは絶対にダメだ! こいつと組むなら僕は降りる!」
テンサーは黄結姫の胸に抱きついた。
「あらあら、テンサー様寂しかったのですね。私が寂しくないように撫でてあげますね」
「まぁまぁ〜」
テンサーは頭を撫でられて上機嫌になった。
「ふっ、成人している男が子供真似をしないと女性に相手にされないなんて、なんて可哀想な方なんだ」
話に置いて行かれている藍介はガメツイに話しかけた。
「スミスさんとテンサーさんがここまで敵対していたのですか?」
「それが、元々、商談が被ったりする時があって彼とはよく会ってはいたのですが、その時まではライバル関係であったのですよ。ですが、ヤバラン伯爵家のパーティーを境に、スミス様をお嫌いになられたそうで、彼の名前を出すと怒り出してしまうのですよ」
「あー、これが、犬猿の仲ということですかね。まぁ、私も紫水とはその関係に近いですが、お二人みたいに歪み合うことはあまり無いですね。たまに、足の引っ張り合いをしますけど」
その間もテンサーとスミスの罵り合いが激化した。
1時間ほど、2人はずっと罵り合い最終的に黄結姫がテンサーとスミスの口を髪で拘束して、強制的に喧嘩を辞めさせたのでした。
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