道中での会話
藍介と黄結姫はスミスエレガントを出ると、テンサーの店へと向かっていた。
道中、黄結姫は何故スミスに自分達の情報を話したのが気になっていた。
『藍介さん、スミスさんに話してもよろしかったのですか?』
『彼なら大丈夫かと、仲間にも見張らせていますし、それに、彼もこの国を恨んでいるようですからね』
『恨んでいる? もしかして、あの店に通い続けた理由は仲間から彼の素性を調べさせていたということですか?』
『その通りです。テンサーさんだけじゃ、戦力不足、それなら、テンサーさんに並ぶだけの力を持つ方を味方につけなくてはいけません。それに、味方の条件として、この国に対して恨みを持つ事が重要ですね』
『恨みですか、それでしたら、スラム街の方達も相当な恨みがあると思うのですが、彼等も仲間に引き入れるのですか?』
『黄結姫さん、私の話をちゃんと聞いていましたか? スラムに住む人達は、これから造る工場の労働者として雇い入れるのですよ。あれほど沢山の人が居れば、大量生産も可能そして、スラムを発展させることで富裕層地域との対立を加速させていく事が目標なのです』
『富裕層との対立ですか? どうして、スラムを発展させたら富裕層の方達と対立できるのですか?』
『簡単ですよ。スラムが発展すれば国は貧困が無くなり豊かになります』
『ん? それは、この国を強くしてしまいますよね? 私達は国力を削がなければいけないのに強くしちゃ意味がないですよね?』
『人間には必ず底辺層が存在するのですよ。下級層という所でしょうか。下級層から上級層の自分達よりも力を付け、裕福になっていくのを見ていたら、上級層にいる人達はどのように考えますかね』
『えーと、自分より下なんだから、自分よりも裕福になるのはおかしい、ということでしょうか?』
『まぁ、そんな感じです。特にこの国の貴族はプライドが高く、下級層の人間を人間として見ていません。そして、今まで虐されていた人達が貴族よりも自分達を上と考えるようになった場合、どうなると思いますか?』
『争いが起こるんじゃないでしょうか?』
『その通りです。貴族と平民で内戦を起こすことによって、国力は一気に低下します。だから、私はスラムを発展させ、彼等に貴族と戦う武器として技術と知識を与えるのですよ』
『藍介さんは主人様にお願いされた時からこの計画を練っていたのですか!?』
『ふふふ、私は魔蟲の洞窟で1番賢い虫ですからね! 当然です! が、この計画は大掛かりな為、準備に時間がかかりますし、莫大な資金力がなければ実現不可能、そして、圧倒的な人員不足。だから、スミスさんを引き入れたのです』
『藍介さんすごいです!!! 私も藍介さんと同じぐらい頑張らなきゃ!』
『あっ、黄結姫さんは今のままで大丈夫です。転ぶ頻度も減ったのに、下手に頑張ってドジを踏まれる方が1番リスクが高いですから。今まで通り、私の側でお茶を飲んで寛いていてください』
『そんなぁ〜。私、やっと主人様のお役にたてると思ったのに、変な男たちをえい! するしか、やってないですよ』
『いや、そのえい! が、凶悪すぎるんですがね。今までに何人死にかけた事か、殺しはダメですよ。殺しは!』
『でも、人間が弱すぎて、私の髪が触れただけでも皮膚が簡単に切れちゃうんです。力加減が難しくて、つい、貫いちゃうんですよね』
『分かりました。これから、黄結姫さんの仕事は力加減を覚えることにしましょう。ちょうど、スラム街の男達は女に飢えています。その人達を使って力加減を覚えてください』
『はーい。あの人達、私を見ると、いつも、ヘイ彼女〜。そんなヒョロヒョロやろうよりも俺たちの方が楽しませてやれるぜとか、言ってくるんですよ。もう! それに、息子がいるって言うと、なんだ、ババァかよって言ってきて酷いんですから!』
『まぁ、まぁ、落ち着いて、そのせいで彼等はその分貴方に痛い目にあっているので、私としては黄結姫さんに声をかけたあの人達が可哀想だと思いますね』
『酷いことを言ってきたんだから痛い目に会うのは同然です! 緑癒さんに聞いたのですが、主人様の素晴らしいお言葉にはこうあります! 悪い事をされたら、何十倍にしてやり返してやれ! です! 私は主人様のお言葉を実践しただけなんですから!』
『主人様なら言いそうですね。はぁー、この頃主人様と会えなくて寂しいです』
『私は毎日主人様と会話してますし、時々、紫水が私を心配してくれて話しかけてくれるのです』
黄結姫は息子の紫水の話し方を真似して藍介に思念を飛ばした。
『母さん〜。大丈夫〜? 藍介の邪魔はしてないよね〜? 母さんは〜、頑張ろうとすると〜、逆に〜、邪魔になるから〜、お茶でも飲んで寛いでな〜って。あれ? さっき藍介さんに言われたことと同じ事を私、紫水に言われてた?』
『紫水、やはり、黄結姫さんの息子ですね。紫水にも言われているんですから、やはり、黄結姫さんは頑張るよりもお茶を飲む方に専念した方が良さそうですね』
『そんなぁ〜』
『もうそろそろ、お店に着きますからお話はここまでとしましょう。黄結姫さんはお茶でも飲んで寛いていてくださいね』
『そんなぁ〜』
藍介と黄結姫はテンサーの店へ入っていった。
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