取引 後編
私はテンサーさんの工房で本格的に話し合いをはじめました。
「それじゃあ、僕と話したいって言ってたけど、魔石を売るだけじゃないって事だよね?」
「はい、魔石は売るのはもちろんですが、この前に見せた物ではないものを貴方に売りたいと思いまして」
「へぇー、あれほどの高純度の魔石以外にも君は持っているんだね」
私は主人様から貰った魔石の中で大きさ魔力量がずば抜けて高い魔石を時計のアイテムボックスから取り出しました。
「ん! その腕輪はなんだい! どうして、魔石が出てきた、って! ふぇえ!!!! こんな、魔石がこの世に存在するのか!!! えっ、はぁぇっ!」
ゴトッと私は机に魔石を置き、テンサーさんは魔石を見て目を輝かせていました。
「すごい、すごいよ! こんな魔石生まれて初めてみたよ! もしかして、藍介さんはこの魔石を僕に売る気なのかい?」
「えぇ、貴方でしたらこの価値がきちんとわかる方だと思ったので」
「わかるさ、分かるとも、この美しい魔石の価値は分かるが、残念だ。僕の財力じゃこの魔石を買い取ることなんでできない。この魔石一個だけで、この国の1年間の魔力消費量を賄えるんだ。魔力量のみでも買えないと思うほどなのに、他にも希少価値がつくから、手に入れたいけど、ごめん。他をあたってくれ」
「そうですが、残念です。でも、他の店にこの魔石を見せる気はないです。これは、貴方だからお見せしたのです。そして、私はこの魔石と引き換えに貴方の店の貴方の魔道具技師としての腕を買いたいの考えています」
「僕の店と僕の腕を買いたいときたか、うーん、流石にそれは強欲すぎるんじゃないか」
「そうでしょうか」
私は魔石生成をテンサーさんの前で披露しました。
「え! 魔石を作り出した!? 藍介さん、君は一体何者なんだ! もしかして、この魔石を作ったのは藍介さん!?」
テンサーさんは驚愕していました。
「いいえ、私の魔石とこの魔石とでは純度が違います。この魔石を作ったのは私の主人様です」
「君の正体を聞かせてもらってもいいかい?」
「私の素性は言えませんが、もし、知りたいのであれば、私が話した瞬間から貴方の命は私が握ることになりますが、それでもよろしいですか?」
「こわっ、何それ怖い。でも、知りたい!!! 分かった。僕の命を君に託そう! さぁ! 君のことを僕に教えてくれ!」
「おや、それでしたら、この魔石を作ったのは私の妻でして、私は妻の頼みでこの国へやってきました」
「妻!? 藍介さんには奥さんが居たのか、それで、その頼みってなんなの?」
「奴隷解放です」
「奴隷解放、そういうことか、君はもしかして、コウイグ国の者なのか?」
「いいえ、違いますね」
「違うのが、でも、どうして奴隷を解放する必要があるんだい? 亜人種とかは人間に慣れなかった獣じゃないか、そんな彼らを飼うのは当然なんじゃないか」
「人間と同じで彼ら亜人種にも家族がいるのですよ。そのような発言は撤回してください。そして、彼らには知性があり感情もある。そのような方達を人間ではないから奴隷にするなどあってはいけない事なのです」
「そうか、藍介さんの奥さんはそういう考えなんだね。それで、解放するのに王都に侵入したって言うことか。ふふふ、面白い! 面白すぎる! 僕はこんな刺激を待ち望んでいたんだ!」
テンサーさんは両手を広げ上を見上げながら笑っていた。
「テンサーさんは私が思っていた以上に変人ですね」
「変人こそ僕にとっては褒め言葉さ! それで、それで、藍介さんはどうやってこの国と戦う気なんだい? 奴隷問題はこの国にとって根深い問題さ、大昔には奴隷を反対していた者達がいたが、今じゃ奴隷反対を志した者達は全て国家転覆罪として処刑されているよ」
「私の策を話すには貴方がこちら側に付くかどうかで決まりますね」
「もちろん! 藍介さんに付くさ! 楽しそうだし、何より、僕はこの国が大嫌いなんだ!」
「この国が嫌い。その理由はなんですか?」
「僕はね。小人の奴隷によって産まれた人間の小人のハーフなんだ。藍介さんには僕の年齢は何歳に見える?」
私は彼の姿をみて、私の中では10代前半に見えていました。
「テンサーさんの姿だけを見ると、10代前半でしょうか」
「そうだよね。僕の見た目は10代前半に見えるんだ。だけど実際に僕の年齢は25歳なんだ」
「にゅじゅご!!!! それは、その、見た目では分からないものですね」
「だからね、僕はある貴族の家の生まれなんだけど、奴隷の母から産まれだから、私生児と呼ばれ、ましてや、この見た目で妻さえも見つからない状態。もうね、僕の中で貴族としてのこだわりはもう無いんだけどさ、辛いんだよ。独りぼっちで、家族は僕をお荷物として見ている。それもそうさ、僕は体はずっと少年のままで、奴隷の子で。パーティーでは好きな人に声をかけても冷ややかな目でみられ、一度も女性と踊ったことももない。体が強くないから騎士になれない。僕の人生は死んだも当然だった」
「ですが、貴方には才能がある」
「そう、僕は魔道具を作る天才だった。新たな魔道具を制作し、特許を得て僕の知識をこの国に広めた。僕の存在を国に知らしめることができた。けどね、所詮魔道具技師なんだよ。それ以上でも、それ以下でもない。僕はただの使い捨ての職人だったわけさ、僕の知識は悪用され、僕が作った魔道具は僕が作った魔道具の価値を知らぬ者たちが買い占め、倍の価格で販売されて、もうね。僕という天才の価値さえもあいつらは喰い物にするんだ。だから、僕は5年前にこの店を作ったんだ。僕の価値を喰われないために」
「そうでしたか」
「だから、僕は君の取引を受け入れよう。僕にできることならなんでも言ってくれ。これで、僕は君の共犯者となろう。口約束は危険だから、契約書があると嬉しいんだけどな」
「テンサーさん書類はこちらにあります。貴方が私の相棒となってくれることが心強いです」
私は懐から契約書を出した。テンサーさんは契約内容を見ずに署名をした。
「おや、契約内容は確認しなくて良いのですか?」
「君ならお粗末な契約をするわけないと思うからね。僕は君を信頼する。だから、君も僕を信頼して欲しいというわけで、これから君のことを藍介と呼びたいんだけど、いいかな?」
「構いません。それでしたら、私もテンサーと呼ばせていただきます。これから忙しくなりますが、テンサー、よろしくお願いしますね」
「タメ口でいいって、僕はそうするから。それで、藍介の話を聞かせてもらおうじゃないか」
「とても長い話になりますが、時間は大丈夫ですか?」
「いいとも! 話が長くなるなら、今日は僕の家に泊まってくれ、藍介と黄結さんを歓迎したい!」
「ありがとうございます。それでは、私と主人様の馴れ初めから始めましょうか」
「あれ? これは、僕が考えていたよりも長話になる予感!!!」
そして、私はテンサーに主人様との出会いから全てを話しました。そして、その日はテンサーの家に泊まりました。
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