もしも、藍介の悪夢が現実だったら 後編
紫水は主人様を閉じ込めた水球と共に洞窟の外へ出た。
彼の目の前に広がるのは、紫雲から降る猛毒の雨、雨に触れた木は溶け、雨から逃げようとした生物達もまた溶けて紫の雨に飲み込まれていった。
「まだ時間がかかりそう〜⭐︎ もっと、もっと、早く2人きりにならなきゃね〜⭐︎」
主人様は水球の中で目の前の地獄の様な光景に恐怖していた。
「大丈夫〜⭐︎ 大丈夫だよ〜⭐︎ 主人様は俺と一緒にこれからずっーと〜⭐︎ 愛し合うんだからね〜⭐︎」
紫水は主人様と共に空を飛び、紫雨の洪水を起こした。
「もっと、もっと、もっと、もっと、早く、早く、主人様と2人っきりに、早く早く早く」
紫水は取り憑かれたように雨を降らせ続けた。
星は紫の水に覆われ、残っている生物は元凶と彼が愛した女性のみ。
紫雲が無くなり、太陽が辺りを照らした。
「主人様〜! 見てみて〜! とっても綺麗だよ〜!」
紫水は辺りを見渡すと、太陽の光を反射して紫の海がキラキラと輝いていた。
「俺と〜、主人様を祝福してくれているんだね〜⭐︎ とっても嬉しいね〜! あ、る、じ、さ、まぁ〜⭐︎」
紫水は主人様と2人になれた喜びに震え、水球に入り、彼女を強く抱きしめた。
「主人様、やっと2人きりになれたよ。だから、俺と愛し合おうね〜⭐︎」
彼女は何も言わなかった。彼女は目を瞑り、まるで、死んだように眠っていた。
「あれ? もう〜、主人様寝ちゃったの〜? しょうがないな〜。俺も〜、力を使いすぎちゃったから〜、少しだけ寝ようかな〜」
紫水が寝ようとした瞬間、紫の海から何かが紫水目掛けて飛んできた。
「ん!?」
紫水は飛んできた何かを海を操りその何かを掴んだ。
「これって? 岩?」
「紫水!!!!! お前ってやつは、どうして、周りを考えないんだ!!!」
紫水の前に現れたのは死んだと思っていた灰土であった。
灰土の右足は岩で補強され、岩の鎧を身につけ、魔力で作られた羽を広げて飛んでいた。
灰土は剣を構え、そして、紫水に切り掛かった。
「あぶなっ! もう〜、主人様といい雰囲気だったのに、邪魔しないでよ〜」
紫水は水球を移動させて灰土の攻撃を回避した。
「お前、何も見えてないんだな」
「何も見えてない? 何を言ってるの?」
「主人様はもう、死んでいる」
「はぁ? 何言ってるの? あっ! そっか、灰土は俺が主人様と2人きりになって愛し合うのが嫌だからそんな事を言ったのか、かわいそうに、俺は主人様に愛されているのに、灰土は相手にもしてもらえないなんて、可哀想だね」
「紫水! 主人様をちゃんとみろ! もう、主人様は、主人様は」
灰土は涙を流した。
紫水は主人様を優しく抱きしめ、彼女の体温が冷たいのを感じとった。
「え? そんな、まさか、でも、なんで、え、なんで、雨に触れてないのに、どうして、主人様、どうして、主人様は冷たいの?」
「がはっ、俺ももうダメか」
灰土は口から血を吐いた。でも、紫水にはそんな事関係なかった。紫水は主人様の体温が低いことに納得していなかった。
「あ! そっか、そっか、主人様は冷え性だからね。もう〜⭐︎ 俺が温めてあげるね〜⭐︎ 」
紫水は冷たくなった主人様の頬にキスをして彼女を温めるようにして強く抱きしめた。
「紫水、親友であるお前を止めることができなかった。だから、お前をこの俺の手で殺すことこそが、俺の最後のけじめだ」
灰土は紫の海の底から岩を突き出し、自身の足場にした。
灰土は剣を構え強く踏み込み、一瞬にして紫水の首目掛けて命懸けの一撃を放った。が、紫水には通用しなかった。紫の海は紫水を守り、灰土が作り出した剣を溶かし、海は灰土に襲いかかった。
灰土は海から逃れることができずに、海の中へ溶けて死んだ。
「これで、邪魔者はいなくなったね。それじゃあ、主人様〜。俺と愛し合おうね〜」
紫水は死んだ主人様に口付けをして、今までずっと夢に見ていた彼女との子作りを始めた。
紫の星にたった1人だけ残った男は愛する女性の死体と共に彼の欲望が無くなるまで、ずっと、ずっと、男は死体を愛し続けるのでした。
「あー、 これはダメだ。ダメ、こんな世界あってはならない。そもそも、あんな虫がここまで出来るなんて思いもしないだろ、アー君、僕はどうすれば良かったんだろう?」
神ゼスはとある星の現状に頭を抱えていた。
「そんなの、彼の家族を守れなかったゼス君が悪いに決まってるよ。どうするの、これ、彼の案件になっちゃったよ。これで、辞表を出されたらこの会社のエースが不在になっちゃうね」
「それだけは阻止しないと、でも、彼の力が強すぎて巻き戻す事もできないし、うーん、どうしたものか」
「もう、正直に話した方が良いと思うよ。それじゃ、僕は絵を描きたいから帰るね」
「あー! もう! 頭を悩ませている親友がいるのに、絵を描きたいから帰るなんて、酷い親友だな、もう。ん、あ! そうだ、そうだよ、友達、そう! 勇者にこの悲惨な結末を見せてあげよう! そうすればこの悲惨な結末を回避できるかもしれないね! それと、後は、彼に親友と呼べる人物を与えて彼の精神を育ててもらおう! それなら、そう、シンカちゃんには悪いけど、新たな種族を作らなきゃね。僕を置いて逃げたアー君にも仕事が増えるってもんさ! やっぱり、僕は全知全能だからね!」
ブックマーク、評価いただけると嬉しいです。