エルフの2人は失恋する
青雷はチェルーシルをエルフの王子の前まで連れてきた。
「ああ! チェルーシル! 無事だったか! 怪我はしていないか?」
王子ナーヴァは彼女に駆け寄った。
「怪我などしていません。青雷君は私の友達なのです」
「化け物と友達。チェルーシル、あやつに言わされているだけなのではないか? 大丈夫、君の為にあの化け物を倒すとしよう」
「はぁー、本当に、貴方は人の話を聞きませんね。だから、貴方には会いたくなかった」
「ん? チェルーシル?」
チェルーシルは王子の顔面を思いっきりぶん殴った。
彼女のパンチは凄まじく、ナーヴァは後ろへ飛ばされ、ヘルダイルが空気の塊を作り彼の体を受け止めた。
「チェルー、シル? が俺を殴った?」
王子は彼女に殴られたことを信じられずにいた。
「いつも、俺が守るだの、俺が君を幸せにするだの、私の人生を貴方のわがままで不幸にしながらよく言えますね!!! 私は貴方となんて結婚いたしません! 私が愛している人は他の方なので、金輪際私に関わらないでください。これ以上、私につきまとうようでしたら、青雷君!」
「ふぇ!あ、はい!」
チェルーシルの迫力に驚いていた青雷は彼女に呼ばれ、慌てて雷をナーヴァの目の前に落とした。
「私は故郷の王子である貴方を殺します。死にたくなかったら、ささっと、国へ帰りなさい!!!」
「チェルーシル、俺は君の事を愛している! 君を諦めるなんて俺にはできない!!! そもそも、君が愛している人は誰なんだ!!!」
「イデア様です。帰らないというなら、ここで死になさい!」
「イデア・ラヴァーズ、今度あったら痛い目に合わせてやる!!!」
チェルーシルは魔法陣を地面に展開すると、風を纏わせた剣を召喚した。
チェルーシルは剣を構え、王子に切り掛かった。
「危ない!」
ヘルダイルが王子を庇い、チェルーシルの攻撃を受けた。
「ヘルダイル様、私の邪魔はしないでいただきたいですわ」
「君が怒るのも無理はない。だが、彼を殺してしまったら、君が実家に一生帰れなくなってしまう。それだけは、いけない。君の精霊ヴァンウッドが悲しんでしまう」
「なら、ヘルダイル様、私のヴァンウッドは今どこにいるのですか!」
「すまない、私には彼女の居場所を伝えることは出来ない。だが、彼女の自我は消滅はしていない。それだけは覚えておいて欲しい」
「チェルーシル! もしかして、あの化け物に操られているんじゃ、おのれ、俺のチェルーシルを操るとは化け物、俺が殺してやる」
「なんか、僕勝手に悪者にされてない? あの王子ってやっぱり頭イカれてるんじゃない?」
青雷はマランに話しかけた。
「まぁ、こうなる事だとは思ってたけど、甘やかされて生きてきたエルフは責任転換が早いんじゃないか」
「でも、このままじゃ、チェルーシルさん実家に帰れ無くなっちゃうし、ここは、僕のせいにすればいいのかな?」
「やめとけ、やめとけ、面倒事が増えるだけだ、それに、俺の息子を悪者呼ばわりするなんて許さないな」
「いや、僕はいつからマランさんの息子になったんだよ。母様に振られたんじゃないの?」
「ぐはぁっ! 傷を抉らないでくれ、何も準備も無しに告白した俺が悪かったんだ。次回からはキチンと、花束と指輪持ってきて告白する」
「あっ、マランさんこれは懲りてないな」
「まだ、出会って間もないし、ゆっくり親睦を深めて、ゆくゆくは、恋人、そして、結婚に繋がる。結婚したら青雷君が正式な俺の息子になるってわけだな!」
「うん、母様面倒な人に好かれちゃったね! ねぇ、僕から母様にマランさんのカッコいい所を話す代わりに、チェルーシルさんと王子を止めてきてくれない?」
「ふっ、俺に任せろ、息子よ!」
「だから、まだ息子じゃないって、はぁ、エルフって話を聞かない人が多いのかな?」
マランはチェルーシルの剣を短剣で受け止めた。
「何をするのですか、どきなさい!」
「すまない、未来の息子の願いでな、暴れるのはこのぐらいにしてくれ。俺だって、君が王子にされてきた事を知っている。怒りたくなる気持ちもわかる。だが、このムカつく男は王子なんだ。王子じゃなかったら俺がぶん殴ってやりたいが、これ以上はいけない。君の家族のためにも剣を下ろしてくれ」
マランの説得に、チェルーシルは心が揺らいだ。
「家族を出すのは、ずるいですわ」
「仕方ないだろ、で、王子、今すぐに帰りますよ」
「なぜ、お前が決めるんだ!」
「えぇ、ここは帰りましょう」
ヘルダイルはナーヴァ、エビル、ヘイル、タキン、ヨーサの足元に魔法陣を展開した。
「ヘルダイル!? 俺は帰らんぞ!」
「いいえ、帰ります。最後に、チェルーシル様、この度は本当に申し訳ございませんでした。彼女は死んでいません。そして、私ですら、彼女の居場所が分からないのです。必ず、私が彼女を見つけ出します。あと、私が王子を再教育しますので、今までの無礼をお許しください」
「私はヘルダイル様には怒ってませんわ。私が憎いのは王子、貴方だけです!」
「チェルーシル、どうして、私の愛が伝わらないんだ!」
「相手を思いやる心がないからではないでしょうか、私は貴方のことが大嫌いです!」
チェルーシルに大嫌いと言われたナーヴァは涙を流し、ヘルダイルの力によって強制的にマランを除くエルフ達は国へ戻った。
そして、マランは何故か、置いて行かれたのでした。
おまけ『子供達の自慢話』
とある日、紅姫と黄結姫と蝋梅妃は紅姫主催の3人だけのティーパーティーをしていた。ゆったりと紅茶を飲んでいると、自分達の子供の話になった。
「青雷君は1人で遠くまで旅に出るなんて凄いですね。でも、紅姫さんは寂しくはないのですか?」
「寂しいですが、青雷から毎日連絡がきますし、青雷には色々な物を見て欲しいのです。それに、青雷が主人様は外に出れなくて可哀想。だから、僕はいつか旅に出て主人様に沢山外の世界を教えてあげたいんだって。我ながら、良い子に育ったと感心しましたわ」
「青雷君、本当に良い子ですね。私の紫水も負けてませんよ! 紫水は毎日主人様の護衛をしていますし」
「護衛というか、ストーカーですわね」
「うんうん」
「紫水は主人様が眠っている際、布団を蹴飛ばしたら、布団を元に戻していますし」
「主人様の寝相をどうにか直してあげたいのですが、蝋梅妃さん、何か良い案あります?」
「一度だけ見たことがあるが、うーん、動かないように拘束するしかないんじゃないか?」
「そういえば、蝋梅妃さんの所に話ができる子が増えたみたいじゃないですか、主人様にその子達に名前は付けて貰わないのですか?」
「洞窟の虫達よりもまだ話すのが辿々しい、名前はまだ、先の話ですかね。でも、あの子達はネルガルとライネルと仲良くなったみたいで、穴掘り友達? と言って彼等を慕っていますね。それに、我が不在の中、巣を維持してくれていて、我凄く嬉しかった」
「娘、息子の成長を感じると、嬉しくなりますよね」
「えぇ、でも、少し寂しくなりません?」
「それも、わかります」
「すまないが、我は主人様の偽ダンジョンの打ち合わせがあるので、それじゃ」
蝋梅妃は椅子から立った。
「あら、もうそんな時間ですか、私は白桜の手伝いに行かなくては」
「私は藍介さんにお掃除の基本を教えてもらいます!」
「それでは、各々、主人様のために頑張りましょう!」
「おー!」
3人はそれぞれの用事に向かったのでした。
片付けはDJとその他の子蜘蛛達がせっせと片付けたのでした。
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