ストーカープリンス 空を飛ぶ
エルフの王子ナーヴァの愛しの人であるチェルーシルは蜘蛛の化け物と共に空高く飛び、市場から姿を消した。
「久しぶりにチェルーシルの声を聴けた。なんて、美しい声だろう」
何年も探していた彼女の声を聴き、ナーヴァは喜びに浸っていた。
1人の護衛がそんな王子に話しかけた。
「ナーヴァ様、チェルーシル様を追いかけますか?」
「はっ! そうであった愛しのチェルーシルが化け物に連れて行かれてしまった。何としても彼女を助けなくてはいけないな」
5人の護衛の中で一番後ろにいた一人は王子のストーカー行為に飽き飽きしていた。
「いや、チェルーシル様は逃げるわよって自分から逃げていきましたよね」
「おい、マラン、給料40%カットだな」
「ナーヴァ様、私の口が出過ぎたばかりに申し訳ございません。ですから、減給だけは」
「それなら、マラン、お前に仕事をやろう。この仕事を完璧にこなした場合減給は無しにしてやろう」
「その仕事というのは、まさか!!!」
「連れ去られたチェルーシルを探せ」
「そんな、あの速さで逃げられてしまったのですよ。今から追いかけても彼女らに追いつけませんって」
「そうか、それなら、減給は避けられないな」
「そんなぁ。なぁ、エビル助けてくれぇ」
「無理ですね。貴方のその口が悪いのですよ。大人しく減給されるか、チェルーシル様を探し出すかの2択ですね」
「くそぉ、おい、お前らも俺を助けてくれよ」
残りの3人は黙りを決め込んでいた。
「くそぉ、くそぉ、わーかったよ!!! やれば良いんだろ!やれば!!!」
「おい、王子に向かってその口の聞き方はなんだ!」
「はっ! そんなの知っちゃこっちゃねぇよ! はぁー、風の精霊よ俺の声を聞き、探し人を教えよ。風声」
すると、緑色のそよ風がマランの前に集まり、緑色の風の球体が現れると、球体の姿は小さな貴婦人の姿へ変化した。
『あら、マラン私を呼んでどうしたの?』
「シェーフ、エルフの女性を探しているんだ」
『あ、またあの女性を探しているのね。もう、何回も彼女を探してあげているのに、どうして逃げられちゃうのかな。私はちゃーんと、彼女の居場所を伝えてるのに、マランは私がいないとダメダメなんだから』
「シェーフ、そこまで言わなくて良いだろ。それで、今はどこにいるんだ?」
シェーフは両手から緑色の風を起こし、周りにいる微小精霊達に彼女達を探させた。
『少し待ってて、彼女の風は今、あら、もう岩場までいっちゃってるわね。えーと、今は4つの大きな岩がある場所で、少年が、吐いてるわね。大きな蜘蛛が少年を介抱している? ねぇ、あの蜘蛛とは戦わないほうが良いわ。マランがぺっちゃんこになっちゃいそう』
「岩場か、飛んでいった方向には岩石地帯があるが、おいおい、流石に今から行くんじゃ2日はかかるぞ」
『そうかしら、私が手伝ってもよくてよ』
「それはやめておく、そもそも」
マランはシェーフに思念を飛ばした。
『俺はこのバカ王子の馬鹿げたストーカー行為に付き合わされるのが嫌なんだよ。早く国へ帰って、布団の中で眠っていたい』
『減給されちゃうわよ?』
マランがシェーフと会話している中、エビルはマランが言った岩場に心当たりがあった。
「ナーヴァ様、マランがチェルーシル様の居場所を見つけ出せたみたいです。今から迎えば2日かかりますがそれでも、彼女を追いますか」
「当然、愛しのチェルーシルを救うためならば、俺はなんだってしよう。さぁ! 愛しのチェルーシルの元へ行くぞ!!!」
「おい! 俺はまだ、シェーフと話途中で」
『やっぱり、行くことになってるじゃない、それなら、減給されないように私が特別に彼女達の所まで飛ばしてあげるわね』
「おい、飛ばすってなにをするんだ!!!」
シェーフは人差し指を上に向けた。その時、エルフの王子と5人の護衛の体が浮かび上がった。
「なっ!? 風の魔法か、空から行けば早く着くのだな! さすが、マランだ。減給はなしにしてやろう」
「いや、シェーフ! やめてくれ、これ以上俺を有能にしないでくれ!!!!」
『それじゃあ、みんないってらっしゃい!』
シェーフは満面の笑みで6人を青雷達が休憩している岩場まで飛ばしたのであった。
「シェーフ!後で覚えてろー!!!」
マランの最後に言い放った言葉は虚しく空にこだました。
ブックマーク、評価いただけると嬉しいです。