緑癒の怒り
緑癒が私の家に着くとイデアさんは緑癒に事の経緯を話した。
緑癒の顔は険しくなり、優しいあの緑癒が怒りを露わにしていた。
「ラヒートさんの呪いを解くために僕の力が必要だと、彼女がどのぐらい呪われているか知りませんが、魔王と言う方は僕達を甘く見てませんかね。僕は彼女を解呪したくない。彼女の行いで、何百もの仲間が殺された。僕達の暮らしの中で生きるために相手を殺しそして、自身の糧とする事はあります。それは生きるために必要なこと。ですが、この呪いは生きるためなんかじゃない、ただ命を奪い続ける呪いです。そんな非道な呪いを自身でばら撒いておきながら、自分自身が呪われてしまったから解呪して欲しいなんて、よく僕に言えますね。それに、ゴウライさんの件ですが、貴方達が彼を管理していなかった為に起こった事、主人様は心優しく許してはいますが、それでも、僕は違います。今まで僕は黙っていましたが、僕は貴方達を許せません。なので、僕はラヒートさんを解呪するつもりはないです。僕以外で解呪してくれる人を見つけてみてください。それでは、僕は嫌な気分なので教会に戻ります」
緑癒は庭へ出てそのまま教会へ戻っていってしまった。
緑癒があんなに怒った姿を見たのは初めてだった。普段なら傷を負った人を見るとすぐに治してくれる良い子なのに。でも、緑癒の考えも理解できるわ。魔王は自分の願いを自分自身で伝えるのではなく、部下に押し付け、しかも、あの時の謝罪はあったとしても直接会いに来て謝罪はしなかった。なのに、自分の願いのためだけに来る。最初は受けてあげようかと思ったけど、これは、イデアさんの方からではなく魔王自身の口から言うべき事ね。
「凪さん、緑癒さんは相当お怒りのようですね」
「そうね。緑癒が言ったことは理解できたわ。正直、私は魔王さんには良いイメージはないし、青雷から聞いた話でも、彼はだらし無くて他力本願な事が多いみたいね。イデアさんには悪いけど、私は直接魔王さんと話がしてみたいわ」
「魔王様にお伝え致します。嫌な思いをさせてしまい申し訳ございません」
「いいのよ。私よりも緑癒が心配だから、明日のお昼ぐらいにまた連絡して。それじゃ」
「はい。明日また連絡いたします」
私はイデアさんからの連絡を切ると、緑癒がいる教会へ向かった。
緑癒は教会内の私の石像の足元でお祈りをしていた。
「緑癒、大丈夫?」
「主人様、僕は大丈夫です。ですが、主人様はこれ以上魔王軍と波風立てないようにする為に仲良くなる事を選んだと言うのに、僕が勝手に魔王軍のと仲に亀裂を入れるような事を言ってしまい。申し訳ございません」
「いいわよ。私の代わりに言ってもらえて嬉しかったわ。私ね、あの提案に少しモヤモヤしてたのよ。ラヒートさんを解呪したら、今回の真の犯人が分かるかもしれないと考えていたんだけど、その前にこの原因を作ったのは魔王の人材の管理不足の結果。私はその事を考えていなかったわ。だから、私に謝ることなんてないわ。逆に言ってもらえて心が晴れたわ。私の代わりに言ってくれてありがとうね」
私は緑癒の柔らかな緑の髪を撫でた。
「主人様、主人様がラヒートさんを解呪して欲しいと願うなら、僕は貴方のためにこの力を使います。あの魔王のためじゃないですからね!」
「ラヒートさんを解呪してくれるの?」
「まぁ、どんな容体かによります。僕でさえも解呪できない可能性もありますし、解呪自体が彼女の命にとって危険な行為かもしれませんからね」
「直接診てみないと分からないって事よね。明日またイデアさんから連絡が来るんだけど、緑癒、私と一緒に出てくれないかしら?」
「はい、主人様のお願いでしたら、僕は何だっていたします」
「緑癒ありがとう」
「主人様の為ですから」
私はその場を後にした。緑癒は、また私の石像の足元で祈りを捧げていた。
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