魔王の師匠
魔王は手のひらから血がながれ、成れ果てを生み出すラヒートの足元に陣を形成した。
「深淵の神アビーサ、我の血を呑み、我の願いに応えよ、蝕む呪いを封じ、主とした者を生かしたまえ」
すると、魔王の頭に老人の声が鳴り響いた。
『馬鹿弟子がぁ!!! 儂に願いを乞うのは一度きりと言ったじゃろ!』
『師匠、こう言う時は儂に任せろとかかっこいい事言ってくださいよ!』
『ふん! お主が愛した女は儂の力じゃ救えんぞ』
『分かっています。俺は彼女を救う為の時間が欲しい』
魔王の血はゆっくりとラヒートの体を拘束し、ラヒートが生み出す成れ果てを焼き殺していた。
『呪いを焼き殺し続ける事はできるが、対価が少なすぎるんじゃないかのぉ』
『そんなぁ、師匠〜。対価は俺の血で勘弁してくださいよ』
『儂はお主の血など本当は呑みたくないわ!!! お主が儂に差し出せる対価がそれしかないだけであって、何か儂をときめかせる面白い物とか用意せんかい!』
『そんなぁ、師匠、最初で最後の弟子である俺に対して冷たすぎません。俺がんばってるのになぁ!』
魔王が師匠であるアビーサと思念伝達を使い会話していると、そこに青雷が割って入ってきた。
「このお爺さんの声誰!?」
『なぬ!? 馬鹿弟子以外に儂の声が聞こえる者がいるのか!?』
『嘘だろ、青雷! 師匠の声聞こえるのかよ!』
「師匠? 魔王様の師匠さんと話をしているの?」
『そうだ! 青雷! なんか、面白い物とかあるか?』
「面白い物? うーん、僕は面白い物作れないけど、主人様から貰った物あるよ! 主人様から貰ったこの手袋はね、僕がここに巣を貼りたいなって思ったらどこでも巣が張れるんだ!」
『ほぉ、空間干渉魔法が施されておるな、こんな武器初めて見たわい。よし、お主の女を封印する対価はわっぱが持つアイテムを儂に説明させるそれで良いぞ』
『え!? 師匠そんなことでいいのか!』
「それって、僕が対価を払って魔王様はなにも払ってないじゃん!」
『まぁ、まぁ、青雷、封印が無事に済んだ後、青雷には俺のなんでもやってやる券を発行してあげるからそれで許してくれ』
「なんでもやってやる券? どう言うこと?」
『俺が青雷が言った事をなんでも聞いてあげる券って言うわけだな!』
「分かったよ。10枚綴りで貰うからよろしくね!」
『お主、相当な対価を払ったのぉ。久しぶりに儂の力を振うか!』
『10枚って多すぎだろ!!!!!!!!』
魔王の血は漆黒の炎となりラヒートを包み込むと、徐々に収縮し、呪いを焼き殺し、黒い炎の中には1人の女性が眠っていた。
『師匠! ありがとうございます!!!!』
「あれなら成れ果ては出てこないかな、魔王様! 師匠さんにお礼言うのは分かるけど、僕にもお礼言わないとね!!!」
「青雷もありがとうな!」
『青雷とやら、儂と話ができるようにしておくから後で儂に面白い物を教えてくれ、儂は深淵にずっといるから暇で暇で仕方なくてのぉ、暇つぶしの馬鹿弟子も儂の元から離れたら一度も帰ってこんし、久しぶりに儂に話しかけてきたかと思えば、力を貸して!だの、女を落とす術を教えてくれ! など困ったものでな』
「魔王様のお師匠さんいいよ! 主人様に教わった遊び道具沢山教えてあげるね!」
『ふぇっふぇっ、退屈せんくなるのは良いもんじゃのぉ、この子が馬鹿弟子が愛した女か、ん? 混ざっておるな、仕方ない、ほんの少しだけ馬鹿弟子にサービスしておくか』
『師匠どうしたのですか?』
『儂の力で彼女を本来ある姿に戻してあげるんじゃよ。ほれー、元の姿に戻りんしゃい!』
美しい女性リリアーナの姿であったラヒートの体はアビーサの力によって本来の姿に戻った。
顔半分に火傷痕があり、髪色は焦茶、カサカサの唇、鼻元にはそばかす、肌の色は白いが、体が痩せ細り、脂肪がなく、骨が浮き出ていた。
ラヒートは漆黒の炎に包まれながら、ゆっくりと降り、魔王の腕に抱かれた。
「この姿が君の本当の姿。ラヒート、俺は本当の君に出会えたんだね」
彼女は目覚めることはなく、黒い涙を流し続けていた。
黒い涙は漆黒の炎によって焼かれ、ジュッという音と共に消滅していた。
「俺は絶対に君を助けるからね。待っててくれラヒート」
魔王はラヒートの額に口付けをした。
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