4体目の魔石精霊
俺は魔王様の右腕であり、一翼を任されている。冷獣オビリオン。俺は普段、魔王様の補佐をしているが、魔王様がリリアーナに恋をし始めたら、仕事が疎かになって俺とイデアの負担がデカくなった。
魔王様にも春が来るのはいい事だが、ほら、子孫を残さなければいけない立場だから、恋人ができたと知って俺は喜んださ。最初はな、そっから、リリアーナ、リリアーナ、彼女がちゃんと仕事をしてくれていたのなら、俺は2人の仲を取り持つことだってした。でも、あの女は何もしなかった。いや、何もできなかったんだ。
リリアーナは前任者のリリムレッドに勝利し、四翼の地位を獲得したが、リリムレッドに仕事を押し付けて、当の本人は魔王様とイチャイチャする毎日。仕事はと言うと、重要書類を魔王様に届けるだけ、あのな、それなりの地位を得ると言う事は、自分自身の行動に責任を持たなきゃならない。それが、部下に全ての仕事を押し付けて、当の本人は男とイチャイチャ、しかも、他の男と不倫までする始末。リリムレッドも男関係で色々あったが、それでも、リリムレッドは仕事をしていた。
「はぁ、なんでこうなったんだ」
そして、イデアからの報告書類が2日間届かなくなり、俺は仕方なく、イデアの屋敷に向かった。
チェルーシルに案内され、ことの経緯を聞いた。
イデアが引き篭もるまで精神ダメージを負わすとは、やはり、魔蟲の洞窟の主人はただ者じゃないな。
「よし、いっちょ、やるかね」
俺はドアをノックしたが、返事がなかった。
返事がなくても俺はイデアの寝室に入った。
「イデア、いい歳して何泣いてるんだ」
イデアはベッドで枕を涙で濡らし、泣き喚いていた。
「オビリオンさん、私は私はもう、生きたくないです。はぁー、死にたい」
イデアが発する負のオーラを体全身で受け、俺の全身の毛が逆だった。
「いつものお前なら、略奪してても結婚する! ってなるじゃないか。どうして今回はそんなに落ち込んでいるんだ?」
「あなたは結婚と結魂の違いが分かっていないのですね。結婚は法によって自身と他人が家族になる事を認められる契約です。そして、結魂は魂と魂の結ぶ契約。魂が結ばれた者は双方の力を共有することができらのです。そう、私の不死を凪さんと共有することができる」
「だが、結魂にはリスクがある。魂を結ぶ際、同等の魂でなければ、相手の魂に呑み込まれ、魂が消滅し、自我を失うリスクがある。それぐらい、俺が知らないはずがないだろ」
「そうですよね。はぁ、凪さんと結魂したい」
「それなら、彼女と結魂すればいいじゃないか」
「結魂は重複出来るのですかね?」
「さぁ? 結魂なんて今時やらないから分からないな」
「そうですよね。はぁー、凪さん」
イデアは腕時計を触り、腕についた時計を頬ずりしていた。
「そういえば、オビリオンさん、氷月と名乗る男は自身の種族を魔石精霊と言っていました。魔石精霊は既に3体存在していると言うのに、彼は自身を入れた3体の内の1体だと言っていたのです」
「魔石精霊は北の人間の国を庇護している。ビクトリア、彼女は2体の姉がいると話し、豊穣の歌姫ア、英雄の導き手エイン。この3体が確認されたいだが、まぁ、ビクトリア以外、大昔の伝承に存在が載っているだけだからな」
「私だって、魔石精霊なんて知りませんでしたから、色々と調べましたよ。そもそも、自身を魔石精霊だと名乗るビクトリアの話は嘘が多い、私は魔石精霊という種族は存在していないとばかり、考えていました」
「それが、まさかの好きな女の結魂相手だったとはな」
「はぁっ!? そういえば、凪さんの魂が人ではなく精霊と変質していた、あの時はリリアーナが精霊に変えられたと凪さんが仰っていたのですが、あの時からあの男の存在していたということだったのですか!!! すっかり、見落としていました」
「落ち着けって、確か、魔石精霊の伝承だと、あの詩だよな」
「石花の夢。世界の大樹。通り巡る万年の旅。弟妹と出会いに安らぎを。悲しみ来たる暗黒の凶星。眩き大樹が鉄槌を下す。星々は新たな樹への祝福を。弟は月へ。妹は天へ。新たな豊穣を実らせる。これが、伝承の中にある詩。魔石精霊の存在が3体と言われる理由。そして、石花がア、弟が氷月、妹がエインという事になるのか?」
「分かりませんよ。それなら、直接魔石精霊である彼に聞いてみてください! そもそも、オビリオンさんは私と魔石精霊の伝承について語り合いたかったのなら、今すぐに帰ってください!」
「恋敵である魔石精霊を知るのはいいことだと思うぞ、敵を倒したければ、まず最初に敵を知ることだからな!」
「そんなの、もう結魂しているから遅いですよ。はぁ、そうだ、オビリオンさんそこの机にある封筒持っていってくれませんか」
俺は机の上に置いてあった封筒を手に持った。
「ん? 辞表?」
「はい、私、魔王軍辞めようと思います」
「辞める? 魔王軍を」
「はい」
俺は頭の中が真っ白になった。
イデアが居なくなったら、イデアの仕事は一体誰がやる?
俺は急な眩暈がし、机に手を置いて倒れそうな体を支えた。
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