獣と魔石精霊
「イデアさーん!!! 私! 結魂したのよ!!!」
「凪様?」
「ねぇ、氷月! 私達、結魂したのよね!」
「あぁ! 凪は俺様と結魂をし、俺様の妻だからな!」
「けっこん? 凪さんが結婚!? てか、誰です! この声は!!!」
イデアは慌てて部屋から出てきた。
氷月は調子にのって、私を抱き寄せていた。
「お前は一体誰だ!!!! 凪さんから離れろ!」
「ガウグルグル!(凪から離れろ!)」
クティスとイデアは氷月を睨んでいた。
「ふん、仕事放棄の獣なんかに、俺様の妻と仲良くなんて出来るわけないだろ。なぁ、凪、今晩は楽しもうな」
「ベタベタ触るな! はい、演技終わり!」
私は氷月から離れた。
「凪は照れ屋さんだな。そんな所も俺様は好きだぞ」
「凪さんにベタベタとお前は一体誰だと聞いているだ!」
「騒ぐな獣よ。俺様はお前を生み出した者の弟だ」
「はい? 私を生み出した? 私には母という存在はいませんが」
「まぁ、覚えてないのも無理はないか、お前は魔石精霊である。俺の姉のアの豊穣の森を守るために生まれたのに、その役目を放棄したからな」
「そんな役目、私には身の覚えありません」
「ガウルゥ? (なにそれ?)」
「はぁ、知らないなら、もう俺様は何も言わん」
「そんな事よりも、凪さんから離れろ!」
「グルガ!(離れろ!)」
「氷月離れなさい」
「なんで、俺様の妻なのに」
「うるさいわね! 離れなさい!」
「はぁーい。俺様の妻はやっぱり照れ屋さんだな」
氷月は渋々私から離れた。
「で、イデアさん、ラックルさんからゴウライの件聞いたわよ。なんで、私に伝えなかったのよ!」
「それは、魔王軍内での事件ですので、お伝えしない方が良いと私が判断いたしました」
「それで、どうやってゴウライさんの記憶が消えたの? 魔法じゃないってラックルさんが言ってたけど」
「それが、わからないのです。魔法の痕跡を探しても見つからなかったのです」
「その話もラックルさんから聞いたわ。私がイデアさんに連絡した理由は、今回の関係者を保護しているのが気になったのよ」
「はい、今回の件に関係している者達には警備をつけています」
「ラックルさんに警備兵はつけているの?」
「はい、それに青雷君もいますし、大丈夫かと」
「青雷は今、繭になっているわよ」
「繭? どういうことでしょうか?」
イデアとクティスは頭を傾げた。
「それが、推し人形に氷月という名前を付けたら、推し人形の姿が変わって動き出し、俺様の妻よとか言ってくるようになったのよ。しかも、庭に出たら、紫水が繭になっていたの」
「紫水君が繭に、他の方達もということでしょうか」
「そうよ。一応、確認取れているのが、紫水、白桜、紅姫、そして、青雷が繭になっているわ」
「そうなると、皆が繭状態になったということでしょうか?」
「多分、長達とそれと白桜と青雷のように長と同等の力を持つ子達が繭になっているのだと思う」
「俺様の妻の推理力もなかなかだな!」
「妻になった覚えないって!」
「さっき、魔石精霊と言っていましたが、本当に貴方は魔石精霊なのですか」
「おう! 俺様こそが! この世に3体しかいない魔石精霊の1人! 俺様の名は氷月!」
「魔石精霊。何処かで聞いたような」
「で、イデアさんにお願いをしたいんだけど、イデアさんにあげた腕時計に私が直接この氷月が作った魔石の御守りを送るから、ラックルさんに渡して欲しいのよ」
「腕時計に送る?」
「その腕時計にはね、他にも私が色々と付け足したのよ。その一つが、転移魔法(物限定)!」
「物に限定された転移魔法ですか」
「ほら、チェルーシルさんがハチミツ欲しがっていたから丁度いいかなって思って付け足したのよ」
静かに傍観していたチェルーシルの耳がハチミツと聞いてピクリと動いた。
「それなら、私から凪さんに腕時計を使って贈り物を送れると言うことでしょうか!」
「まぁ、出来るけど変な物送らないでね」
「そんな、変な物なんか贈りませんよ」
「で、今からこの魔石の御守りを送るからラックルさんに渡してね。あと、私に隠し事はしないで頂戴。ゴウライが記憶を無くした原因にリリアーナが絡んでいるのであれば、私達、魔蟲の洞窟も報告する義務があると思うの」
「はい」
「まだ、リリアーナと決まったわけじゃないけど、今回の魔王軍の進行は不審な点が多すぎるわ」
「あの成れ果ての出現についてもまだ、調査中なんですよね」
「そうなのよ。それは、森の長達に任せているんだけど、何処から現れたのか全く分からないのよ」
「こちらもリリアーナを精神魔法を使い嘘をつけない状態にして話してもらいましたが、ラックル君から聞いた話から少し違いまして、ラックル君にも同じ精神魔法を使いましたが、彼は真実を話していた為、余計私達も混乱しているのです」
「はぁ、いつになったら本当の真実が分かるのかしらね」
「こちらも頑張っているのですが、申し訳ございません」
「いいのよ。それじゃ、ラックルさんにこれよろしくね」
私は氷月が作った魔石の御守りを懐中時計の上に乗せた。すると、懐中時計から転移魔法陣が展開され、魔石の御守りはイデアの腕時計に転移した。
「おー! これは! とても、素晴らしいです! 転移魔法は発動に膨大な魔力を使うので、手軽に発動することができない魔法。エルフとも共同開発をしている魔法陣でさえも魔術師20人を集めなければ発動しないと言うのに! 凪さんは本当に素晴らしいです!!!」
「私じゃなくて、想像生成が凄いのよ」
「チェルーシル、すみませんが、これをラックル君の元に届けて貰えないでしょうか」
「かしこまりました」
イデアさんはチェルーシルさんに魔石の御守りを渡すと、チェルーシルさんはその場を後にした。
「それじゃ、私は繭になった子達を確認しに行くから切るわね」
「凪さん! 私は凪さんを愛しています! だから、こんな変な男なんかとは離婚してください!!!」
「あ、それね。結婚じゃなくて、結魂よ。彼とは魂が結ばれているってだけで、婚姻届は出してないわ。そもそも、私に婚姻届って必要なのかしら?」
「ん? いや、凪さん。その、魂の結びつきの結魂というのは、夫婦になる結婚よりも、より強靭な結び付きとなり、魔力が大きい者に影響をされてしまうことでして」
「あれ? 私が考えていた以上に重いことなの?」
「はい。いつの間にこんな男と結魂したのですか!!!」
その後、イデアは怒り狂い、屋敷のメイド達とクティスがイデアを止めに入り、私は連絡を切る事にした。
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