魔王軍での事件
「その、凪さんにはゴウライさんは投獄されているお話をしましたよね」
「えぇ、確か彼の処罰は軍事裁判によって決まるのよね」
「はい。ゴウライさんは黙秘を貫いていました。そして、リリアーナさんが接触しないようにとゴウライさんには厳重な警備体制を敷いていました。ですが、事件が起こったのです」
「その、事件というのは何が起こったのよ?」
ラックルは悲しい顔をして少し黙ってしまった。
「どうしたの? まさか!? ゴウライ殺されちゃったの!?」
「いえ、死んでいません。いや、死んだとも言えます」
ラックルの唇は震え、何かに怯えていた。
「えーと、ん? だから、どういうことが起こったの?」
「ゴウライさんは全ての記憶を失い、廃人となってしまったのです」
「記憶をなくす? えっ!? はぁ!? そんな事をできるの!?」
「フローゼラー様の見立てでは、魔法というより、直接脳に干渉をし、脳の機能を停止させたと言っていました」
「それって、脳死状態ってこと?」
「そう言えますね。厳重な警備体制の中、そんな芸当ができる人なんて、幹部の中でさえいないというのに、どうして、こうなったのか。本当は事件を直ぐにでも、凪さんにお伝えすべきだと僕は考えていました。だけど、イデア様が伝えないでと言っていたので、黙っていました」
「その事件はいつ起きたのよ!」
「僕が帰った次の日です」
「ゴウライは口封じに記憶を消された。そしたら、ラックルさんも大丈夫!?」
「そうなんですよ!!! 僕、怖くて怖くて、僕、ゴウライさんみたいに記憶を無くすなんて怖いです。僕が怖がっていると青雷君が、僕を守ってくれるって、青雷君がいてくれたおかげで僕、仕事を頑張れたし、それに、こんな事をする人物を見つけ出したいと思えたんです。なのに、なのに、青雷君が」
ラックルは涙を流しながら叫んでいた。
「分かったから、落ち着きなさい」
「はい」
「そんなに怖いならこっちに来る?」
「いえ、僕、青雷君の傍にいたいです」
「ありがとう。こんな事件が起きて、次は自分の身かもと考えると怖くなるのも当然よ。私にできることは、一つ! ちょっと連絡切るわね」
「何をするのですか?」
「イデアさんがどうして私に報告しなかったのかとっちめるのよ!!! それで、私に報告しなかった罰として、貴方を守ってもらうのよ」
「イデア様はお仕事で、僕を守る事なんて出来ないほど、仕事に追われていて」
「そんなの知らないわよ。じゃ、言ってくる!」
ラックルさんと連絡を切ると、私は家に帰り、懐中時計を取り出して、イデアさんに連絡した。
「まさか、そんな恐ろしい事件があるとは、外の世界は怖いな」
「氷月ならどうやって彼を守ってあげようとする?」
「俺様が作った魔石を彼に渡す。そうすれば、俺様の力である程度の攻撃を防ぐことができる」
「それなら、その魔石作ってもらえないかしら?」
「それは、いいがどうやって渡すんだ?」
懐中時計からチェルーシルさんが現れた。
「凪様、申し訳ございません。イデア様は外せない用があり、今日は出られません」
「そうなのね。久しぶりにイデアさんの顔が見たかったのだけど、残念ね。ほんとぉぉぉにぃ! ざぁんねぇんね!!!!」
「凪さん! なぁぎぃぃさぁぁぁんん!!!!」
チェルーシルの後ろのドアからイデアの声が聞こえた。
「私呼ばれているみたいだけど、チェルーシルさん、イデアさんは本当に私と話せないの?」
「それが、イデア様本人が仕事が終わるまでは凪様と連絡しないと言って、腕時計と懐中時計を私に渡し、凪様から連絡が来ても出られないと伝えて欲しいと言われてしまい。私は凪様とお話しした方が宜しいのではないかと進言したのですが、凪様と話すと凪様の元へ行きたくなってしまって魔王軍を辞めたくなるから今は無理だと」
「そんなの、どうでもいいわ。イデアさんと話をさせて」
「すみません。凪様、それは出来ません」
「チェルーシルさん、この前のレシピどうだった?」
「甘いもので釣ってもダメです。今回ばかりはお引き取りを」
私は考えた。どうやったら、イデアさんと話せるのか、隣にいる氷月を見た瞬間、私は閃いた。
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