魔石精霊『氷月』
私は推し人形に氷月と名付けた。そして、私は普段なら藍介が起こしに来てくれるのに、今日は起こしに来てくれなかった。
「ふぁーあ、今何時? 藍介が来なかったって事は早起きできたのかな?」
私は時計を見ると
「ふーん、12時ね。ん? 12時!? お昼って事、朝ごはん食べれなかったの!?」
私はパジャマ姿で庭で寝ている紫水を起こしに向かった。
「紫水! 起きてるでしょー!」
紫水の掛け布団を引っ張ると、布団の中から巨大な紫色の繭が現れた。
「綺麗な繭ねぇ。って!? 繭!? なに、えっ!? えー!!!!」
私は繭に触ってみた。
「紫水! 大丈夫! 紫水!」
繭からは何も応答がなかった。
「灰土が蛹の時は話せたのに、繭だと私の思念が届かないのかな?」
「おー! やっと起きたか! 凪!」
見ず知らずの男の声が後ろから聞こえて私は振り向いた。
部屋には床まで付くほど長い黒髪に、ワイルドな見た目の男が立っていた。何故か、顔の形が推し人形に似ているように私は感じた。
「あんた一体だれなのよ!!!」
「ふっ、俺様はお前の夫の氷月だ!!!」
「はい?」
「だから、俺様は凪の夫の氷月!」
「氷月は人形に付けた名前よ。見ず知らずの貴方がどうして、人形の名前を」
「そうか、説明してやらんと分からないか、それなら、俺様と凪の出会いから始めようか!」
「出会いって、私は今、初めて貴方に会ったんだけど!」
「俺様はそうじゃないぞ、凪がこの世界に転移した時に俺様に会っているんだ!」
「はい?」
「もう、リリアーナに複合化け物に変えられそうになった時、俺様の力で君を精霊へと変えたんだ」
「ん? リリアーナは最初から私を精霊に変えると言っていたわよ?」
「いや、あの女が親切心で精霊に変えようとするなんてあり得ないからな。そもそも、あの魔法陣は精霊にはなれない構造をしていてな、それを書き換えるのが大変だったな」
「私が精霊になったのは貴方の力って事?」
「あぁ! リリアーナの力で体を変えたならば、今頃君はゴキブリ、ムカデ、蚕、蜘蛛の全ての特徴を有した姿になっていた所だな」
「うそ、私、精霊じゃなくて、虫になっていたって事」
「そうだ! 魔法陣を書き換える時、俺様の魂の一部を君にあげたことによって、君は人間だが、精霊となったと言うわけだ! その時に結魂。俺様の魂と凪の魂を結びつけたことによって、俺様の妻となったんだ」
「この場合は、ありがとうってお礼を言わなきゃダメよね」
「別にお礼なんかいらんぞ! 俺様も退屈だった生活が凪のおかげで愉快で刺激的な体験ができたしな」
「それで、氷月は私と結魂したと言ったけど、貴方は今まで何処にいたの?」
「それは、俺様は5層目の魔石でな、名前がなくて魔石精霊として存在することができなかったんだ。それで、今回、推し人形に押し込められた俺様は、君が推し人形に付けた名前によって、正式な魔石精霊になり、5層目の長になったと言うわけだ!」
「魔石精霊? あの巨大な魔石があんただってこと!」
「そうだ!」
「それじゃあ、私は異世界に飛ばされてからすぐに魔石と結婚してたってこと!?」
「そうなるな! だが、魔石じゃなく、魔石精霊(仮)だな!」
「何が、魔石精霊(仮)よ! 精霊じゃなくて、仮の存在じゃない!」
「あぁ! でも、俺様の力のおかげで凪は助かっただろ」
「貴方の力って何よ」
「俺様と結魂したことによって、俺様の魔力を共有する事になったのだ」
「それって、私の魔力量が無限だった理由って」
「それは、俺様の魔力量だからだな! そもそも、俺様は魔石精霊! 星が圧縮された存在。神すら驚く力を持つこの世界でたった3体しか存在しない最強の精霊なんだ!!!」
「よく分からないけど、凄い精霊なのは分かったわ。それで、凄い精霊さんに聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」
「妻の言う事はなんでも答えよう!!! 俺様は賢い! さぁ! なんでも聞いてくれ!」
「どうして、紫水は紫色の繭に包まれているの?」
「ふっ、それを聞いてしまうのか」
「で、原因はなんなの?」
「ふっ、俺様もそれは分からん!!!!」
「さっき、賢いって言ってたじゃない!!!」
「あー、これは、多分、女神シンカが関係しているんじゃないか、俺様は神と話せるがその真意までは分からん!」
「分からん! じゃないのよ!」
「まぁ、死んでないみたいだし、ゆっくり待つのもいいんじゃないか! そもそも、俺様はやっと動けるようになったからな! 野球がやってみたい!」
「どう言う事なのよ」
「凪、俺様は野球がしたい! 野球がしたい!」
氷月はしつこく凪に野球がしたいと言い続けた。
「分かったよ!!! 野球やればいいんでしょ! やれば!!! 庭じゃ狭いから外に行くわよ!!! その前に着替えとご飯食べさせて!」
「昼食が終わったら野球で決定な! 俺様の満塁ホームラン見せてやろう!」
「いや、満塁ってホームランなら出来るけど、人数いないと満塁にはならないわよ!」
「腕がなるな!」
「やり方知らないでしょ!」
その後、凪と氷月はピッチング君を使い、野球を楽しんだ。
ブックマーク、評価いただけると嬉しいです。