藍介の悪夢 後編
梛子さんは妊娠8ヶ月を過ぎ、お腹が大きく膨らんでいました。
「ねぇ、ねぇ、愛之助さん、愛之助さん、赤ちゃん私のお腹蹴ったわよ」
「梛子、お腹触っても良い?」
「えぇ、良いわよ」
愛之助は嬉しそうに梛子の膨らんだお腹を触った。
「あっ! 蹴っ飛ばした! 梛子との子供が出来るなんて、私は本当に幸せ者だ!!!」
愛之助は梛子に優しく抱きつき、彼女の顔にキスをした。
「もう、お仕事の方は大丈夫? 私手伝おうか?」
「いつ産まれてもおかしくないんだ、梛子はゆっくりしていてくれ、家事は全て私がやるからね」
「でも、何もしないわけにはいかないわよ」
「何もしないでくれ、君の体が私にとって一番大切だからね」
「分かったわ。ここでずーと座っていれば良いんでしょ! もう、愛之助さんは」
「それじゃあ、今日は農具を一式直してくれと依頼があるから鍛冶場に行ってくるね。もし、何かあったら、菊子さんにすぐにいう事、分かったね」
「分かったわ。いってらっしゃい」
梛子は出かけようとする愛之助に口付けをした。
「行ってきます!」
愛之助は鍛冶場へ出かけた。
それを観ていた藍介は。
「なんと、あま〜い結婚生活!!! あまい、甘すぎる!!! 私も将来、主人様とあまあま結婚生活ができるという事ですね!!! 子供の名前は何するのですかね? 気になりますね! ふんふんふん、子供が無事に産まれるまで観ましょうか」
藍介は浮かれながら、2人の結婚生活を眺めていた。
ある日、隣の村に住むお婆さんを村へ送る依頼が入り、愛之助は少しばかり家を空けなくてはいけなくなってしまった。
「仕事なんだから、クヨクヨしない! 私は大丈夫だから」
「でも、丸一日離れるなんて、私が生きていけないです!!!」
「何言ってるのよ!」
「本当に、梛子さんと愛之助さんは仲が良いのねぇ。わたしゃ1人で帰えることにするわ」
「そんな、危ないですよ。山を超えるだけと言っても盗賊がいる可能性があるのですから。ほら、愛之助さん、お仕事よ!」
「でもぉ、鱈さんもこう言ってるし」
「ダメよ! さぁ、行く!」
「梛子さん、旦那さんが側にいた方が良いよ」
「菊子さんがいるから大丈夫です。さぁ! 行った! 行った!」
愛之助は家から追い出され、渋々、鱈さんを隣の村まで送った。夜が遅くなり、鱈さんの好意で愛之助は鱈さんの家に泊まった。
「鱈さん、泊まらせていただきありがとうございます」
「いいのよ。わたしゃ、いつも愛之助さんと梛子さんにはお世話になってますからね」
そして、愛之助は朝早く鱈さんの家を後にした。
「早く、帰らないと、梛子さん、梛子さん」
愛之助は近道をするために険しい山道を進んだ。
愛之助が村に着くと、地面にはおびただしい馬の蹄の跡がくっきりと残り、村の住民が愛之助を見ると、すぐに彼の元に駆け寄った。
「愛之助さん、梛子さんが、梛子さんが」
「梛子がどうしたんだ!」
「お侍様に」
愛之助は家へ走った。
「そんな、馬鹿な、梛子、なぎこぉぉおおお!!!」
家に着き、愛之助は絶望した。
彼の目の前には、部屋中血だらけで、梛子は刃物で斬られ、大量の血を流していた。そして、胎児も梛子が死んだ事によって、胎児もまた亡くなっていた。
「え、どうして、これは、なにが、え、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして」
愛之助は目の前の光景が信じられなかった。涙を流しながら、愛之助は血だらけの梛子を抱きしめた。
「どうして、どうして、どうして、どうして、いったい、だれが、だれが、こんなこと、どうして、どうして」
愛之助は菊子さんからことの経緯を説明してもらった。
「お侍様が、梛子を、許さない。許さない」
「わしらがいたのに何もできんかった。愛之助さん、本当にすまない。本当にすまない」
村長である菊子さんの旦那、鴈治郎が愛之助に何度も謝っていた。
「鴈治郎さんは悪くないです。すみません、今日は1人にさせてもらえませんか」
「分かった」
2人は家から出た。
「お侍、確か、澤川だっけ、あいつが梛子を」
ゆっくりと立ち上がり、梛子を抱きしめた。
「許さない。絶対に許さない。梛子、私はまだそっちに行けそうにない。君は天に行くと思うけど、すまない、私は地獄へ落ちてしまうな。君はそんな事をするなというと思うけど、私には無理だ。もう、私には何もない。それなら、私は」
次の日、愛之助は鴈治郎の元へ行き、侍の特徴を聴いた。そして、彼は妻を殺した侍に復讐するために、故郷へ帰った。
愛之助はその道中に、悪行を重ねていた商人、盗賊などを人殺しのやり方を知るために殺し始めた。
ある商人は毒で死に、ある盗賊は女と遊んでいる最中に針で心臓を刺され死んだ。そして、愛之助の噂は瞬く間に広まり、悪を殺す殺人鬼と呼ばれるようになった。
愛之助は梛子が死んだ一年後に復讐を果たした。そして、彼は捕まり、打首の刑と処された。だが、彼がしたことは悪ではあるが、彼が殺した人によって苦しめられていた人達にとって彼は善であった。
「えっ、どうして、私の前世はどうして、こんな、なぜ!!! どうして、こんな辛い思いをしないといけないのですか。どうして、どうして」
藍介は泣いた。
愛之助が死ぬと、愛之助の目の前には、大きな机に紙が沢山置かれ、金髪の少年に出会った。
「やぁあ! 君は本当に大変だったね。でも、君は人間に善として見られ、あの時代の英雄として特別に僕の元へ呼んだんだ」
「あなたは一体誰なのですか? たしか、私は首を斬られて死んだはずじゃ」
「うん、君は死んだよ。英雄っていうのはね死なないとなれないんだよ。で、君にお願いをしたいんだけど」
「お願いですか? それは、どんな」
「僕が手を出せない世界を救って欲しいんだ! もちろん、タダじゃない。報酬として、君が一番欲している物を君にあげるよ。例えば、そう、君の妻ともう一度出会えるようにするとかね」
「梛子と会える!!! そんな、神にしかできないことをあなたは出来るのですか」
「だって、僕神だもん! それも、驚かないでね、僕は神を束ねる主神なんだよ!」
「神、ならなぜ、善良な私の妻が殺されたのですか」
「それは難しいな、生物はいずれ死んで、新たな命の糧となる。それが、生命の循環であって、神がいちいちそんな事を確認なんてしないし、そうだな、魂を狩る仕事は死神が行っているからなぁ。死神に聞いたらいつ死ぬのか分かるかもね」
「あなたの力は、私が妻に出会える事が出来るのですか?」
「疑わないでよ。世界を一つ救うごとに君の願いを叶えてあげるよ。どうだい、たった世界を救うだけで、神が君の願いを叶えるんだ。そうそう、世界を救うにはそれなりに力が必要。だから、君には僕専属の勇者になってもらうよ! それじゃあ、契約をしてっと」
「まってください。私はやると一言もいって」
神は立ち上がると、愛之助に近付き、彼の心臓に眼のマークを刻印した。
「ぐはぁっ」
愛之助は身体中に強烈な痛みを感じ、倒れた。
「やっぱり、君は僕の力を耐えれる魂だった! これで、僕の奴隷一号、おっと、僕の専属勇者の誕生だ!!! よし! まず最初にここの世界を救ってね」
「ぐっ」
倒れている愛之助の床が光り始め、愛之助は光の中へと消えていった。
「彼なら、一つだけじゃなくてもっと世界を救ってくれそう! そりゃあ、僕の力を貸したんだもん、そうだな、最低5つは救ってもらおうかな」
神は机に戻り、書類に判を押し始めた。